デル株式会社

 


ローカル路線の取り組み〜沿線の魅力を乗せて走る智頭急行(5)
〜駅に賑わいを取り戻す


 高齢化社会で地方が抱えている問題の1つに「生活の足」の確保がある。このところ相次いで報道される「高齢者の踏み間違い」による事故への対策として運転免許証の自主返納が推奨されている。踏み間違い事故は高齢者特有のものではなく若者によるものの方が多いにもかかわらず、また自動車の構造的な問題に触れず人的ミス(それも高齢者の)に矮小化して報道するメディアの姿勢には隠れた意図さえ感じてしまう。
 まあ、それはさて置くとしても、運動神経、特に反射神経に衰えを感じ、車の運転に多少なりとも不安を覚えている高齢者は多いはず。それでも車の運転をしなければならないのは他に「足」がないからだ。それを解決せずに免許返納を勧めるのはおかしな話だ。

 智頭急行の2つの割引切符はこの問題に切り込んだすばらしい企画である。「ダイヤ改正でも運行本数は維持」(城平社長)しており、「地域の足」としての役割を十分認識し、それを果たそうとしている点は大いに評価していい。

 同社はこのほかにも様々な割引切符を用意している。定期券を所持している学生や通勤客向けには420円の自由席特急券が200円で利用できる「定期券用自由席回数特急券」が、定期券所持者とその家族が土・日・祝日に利用できる「定期券休日ファミリー割引」もある。これは定期券所有者の場合、区間外を1回200円で、その家族が同行する場合は家族も1回200円で利用できるというもので、週末・休日の家族旅行には助かる割り引きだろう。域内移動が活発になれば地域振興の一助にもなる。
 さらに「1日フリーきっぷ」「普通列車ペアきっぷ」「団体割引」「障がい者割引」などがあるが、「普通列車ペアきっぷ」も面白い割引切符である。これは2名同一行程に限るが2000円で何度でも乗り降りできる。1日フリーきっぷ1200円に比べて日程は2日間だが乗り放題2000円はお得だろう。
 いずれもアイデアに富んだ素晴らしい企画である。

駅に賑わいを取り戻す

 とにかく同社はアイデア豊富で、これまたユニークな「あまつぼし」(2018年3月運行開始)という列車がある。車体に天の川のような星(「夜空にきらめく星のように美しい天空の津に集う天上の星たちを表現」)をデザインしたラッピング列車で、内装は通常の普通列車より少し豪華な仕上げになっている。
 「車内には地元の木材を使用」と書けば、JR九州の「ななつ星」を連想される向きもあるかと思うが、ネーミングは公募によるもの。富裕層を狙った「ななつ星」に対し、「あまつぼし」はうんと庶民的で好感が持てる。

 実は佐用町で智頭急行沿線の芝桜を撮影している時、側の田でトラクターを運転している農家の人から「きれいな列車も通るさかい、その時撮影したらな」と教えられたが、その時はラッピング列車の「あまつぼし」のことは知らず、特急列車が走る時間帯の撮影のことだろうぐらいにしか思っていなかったが、きらめく星をまとった「あまつぼし」が芝桜の中を走る写真は撮りたかった。

 「あまつぼし」には2つの顔がある。1つはイベント用の貸し切り列車の顔である。同社主催のイベントもあれば、各種団体が貸し切り、車内でカラオケ大会を開いたり、結婚式に利用したり、あるいはレストランが食事会を開催したりと色々な利用の仕方をされている。
 同社主催のイベントでは恒例になっている「ハッピーハロウィンとれいん」も「あまつぼし」運行開始後は同車で開催されている。仮装での乗車歓迎。車内で撮影会などの楽しい催しもある。

 もう1つの顔は普通列車である。そう、普通列車として毎日走っているのだ。ただ時間帯は決まっていないが同社に尋ねればその日の運行時間を教えてくれるとのこと。同じ乗るなら「あまつぼし」の時間に合わせて乗ると、ちょっと豪華な気分に浸れるだろう。しかも普通乗車券で乗れるから、ちょっと得した気分にもなる。

 同社がここまでアイデアに富んだ様々な企画を実行しているとは、取材前に思いもしなかったが、残った課題は駅の賑わいをどう取り戻すかということだろう。
 地域の自然・観光スポットと組み合わせた企画をどうつくるかだが、既述したように沿線沿いには歴史・自然を楽しめる場所が四季を通じて多いから企画に困ることはないだろう。
 上郡駅+かみごおりさくら園+上郡ピュアランド山の里で入浴
 佐用駅+ひまわり撮影会
 大原駅+ひな祭り
 あわくら温泉駅+あわくら温泉+あわくら旬の里・昼食
 トロッコ列車+芝桜撮影
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 第3セクターの強みは沿線市町村の協力が得られやすいことではないか。各駅からの案内役はその地域のボランティアに協力を頼んだり、レンタサイクル(できれば電動アシスト付き)の用意、マイクロバスでの送迎など駅からの「足」が用意できれば言うことなしだが。

 次は駅を単なる乗降の場ではなく、人が集まる賑わいの場にすればどうだろうか。駅で朝市や昼市を開催し、それを上記の企画などと連動させるのだ。建物を造る必要はない。むしろ建物はいらない。露店売りのイメージの方が楽しい。駅によって開催日を「五日市」「十日市」などと決めるのもいいかもしれない。
 「智頭急行に乗って〇〇観光と五日市ツアー」。城平社長のインタビューを終え、大原駅に向かう智頭急行の車中でそんなことをつい考えてしまった。

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