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ローカル路線の取り組み〜沿線の魅力を乗せて走る智頭急行(3)
〜黒字の第3セクター鉄道は珍しい


高速輸送と地域振興の二律背反課題

 鉄道会社、特に地方鉄道の使命は2つある。1つは高速輸送で、国鉄時代から重視されてきたのは主にこの側面である。高速化し輸送力を上げることにひたすら邁進してきたと言っても過言ではないだろう。
 智頭急行はこの面で大きな成果を上げている。特急スーパーはくとの運行で鳥取ー大阪間を従来の約4時間から2時間30分に短縮し、関西方面から山陰への人の移動に大きく貢献している。

 ただ、新幹線開通などでもよく見られる現象だが、高速輸送の恩恵を受けるのは始発と終着の両地域で、途中の地域は仮に高速列車の停車駅であったとしてもあまり恩恵を受けない。というか、むしろ逆にストロー現象で人が都会に吸い上げられていき、地域経済は衰退する現象すら見られる。
 つまり鉄道の高速化と地域活性化は二律背反の関係にあるわけで、ここにローカル線が抱える大きな問題がある。

 鉄道を高速化することで輸送力と収益を上げながら、沿線自治体の活性化にどう結び付けていくのか。難しい問題だが、それがなされなければ第3セクターの存続意味がない。
 智頭急行も同社設立時から以下の2つを「使命」として掲げている。
1.山陰地方と山陽・京阪神地区を最短距離で結ぶ地方幹線鉄道として、両地方間の交通条件を画期的に改善する。
2.沿線地域の住民生活の安定向上と地域産業の振興と観光開発に極めて重要な役割を果たす。

 現在1の課題は概ね達成できていると見ていいのではないか。問題は2の課題で、京阪神と鳥取を高速で結べば結ぶほど沿線地域(鳥取県智頭町、岡山県美作市、西粟倉村、兵庫県佐用町、上郡町)の衰退が進むという問題に悩まされることになる。沿線地域が衰退すれば鉄道利用者が減るだけでなく、第3セクターの株主でもある地域自治体の財政収入も減り、負のスパイラルに陥る可能性もある。

 時代は急速に変わりつつある。もはやかつてのような右肩上がりの経済成長、人口増は望めない、ありえない。県庁所在地の大半は人口減少に悩まされており、大都市でさえ急速に高齢化が進み、限界集落化しつつある時代である。
 これは裏を返せば全国でローカル化が進んでいるということであり、これからは地方が中心になるということである。消費でも、生活でも、観光でも。
 今後はいままでのような都市型成長戦略ではなく、ローカル型低成長戦略こそが必要とされるだろう。

 ではローカル型低成長戦略とは何か。モノからコトへ、スピード重視からゆっくりズムへ、環境破壊から環境保護へ、外に向かうベクトルから内へ向かうベクトルへの転換。これらをどう進めるのかが問われてくる。

沿線の魅力を乗せて走る

 現在、第3セクターの優良企業と言われている智頭急行も上記の課題から逃れることはできない。というか第3セクターの使命として、1の高速化(利便性)をある程度達成した後は沿線の地域振興をいかに図るのかが最重要課題になっていく。
 実のところ、これは鉄道業務や鉄道会社の資産とは関係ない分野で、昨今、JR各社が力を入れている不動産業務等のように収益に結び付く分野でもない。「風が吹けば桶屋が儲かる」的な関係、影響ぐらいはあるかもしれないが。
 しかし第3セクターである以上、これは避けては通れないし、それ抜きには自らの存在基盤さえ失いかねない。一朝一夕に効果が出るものでもなく、難しい課題だが、視点を変えれば地方には生かせるものが数多くあり、やり方によっては面白く、成長が見込める分野ではないだろうか。

 特に智頭線沿線は宿場町(佐用町平福宿、智頭宿)や歴史的建造物(智頭町板井原集落、石谷家住宅)、古い町並み(美作市大原の古町、智頭町)が点在しているし、花の名所(佐用町・南光地区ひまわり畑、上郡さくら園)、佐用町・西はりま天文台、温泉(あわくら温泉、湯郷温泉)などがあり、のんびり旅をしながら歴史や自然を楽しみたい向きにはおあつらえの地方だ。
 また私のように山野草や季節の花々を撮るのが趣味の人間にはこれほど楽しい地方はない。



 余談だが今春、岡山県瀬戸内市邑久(おく)町から美作市に向かう途中、カーナビの指示を見落としたのか、カーナビが違うルートを教えたのか分からないが、見知らぬ道を走る羽目になり、迷子状態になった。その途中で目に留まったのが山の斜面一面に咲いた濃いピンク色をした河津桜他の桜の木々だった。
 道に迷い、遠回りして走っているので、そのまま通り過ぎようとしたがあまりの美しさにUターンして車を止め、桜の斜面に入り写真を撮ったのが「かみごおりさくら園」。上郡(かみごおり)は智頭急行の起点地である。
 その日は夕方近くだったこともあり滞在時間は短めで先を急いだが、翌日改めて上郡に向かい撮影を続けた。それほど素晴らしい場所なのに「兵庫県 桜名所」とネットで検索してもヒットしないのだ。隠れた名所と言っていいかも。
 同じく兵庫県佐用町南光(なんこう)ひまわり畑は神戸辺りからも写真愛好家が撮影ツアーで訪れる場所である。
 智頭線沿いの芝桜もそうなる要素を十分に持ち得ているし、沿線沿いには魅力的な自然が多く、それらを取り込み、鉄道と組み合わせれば面白い企画が生まれるし、地域振興の一助にもなるだろう。

                            (4)へ続く

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