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「コロナ」が変えた社会(V)
〜世界は中国化していく(3)」


増加する監視システムと追跡アプリ

 COVID-19で中国が果たした役割は良くも悪くも大きかった。まず強権的な都市封鎖の手法は西欧の民主主義国までが倣ったし、移動制限をし、罰則規定を設け警察や軍隊を出して違反者の検挙に努めた国まである。さらにはメディアの報道規制までするに及んでは独裁国家の戒厳令と同じだ。
 中国と同じように1党独裁のベトナムや軍事政権下の国々がそうした手法を取ったことには驚かないが、フランスのように自由を愛する国民がいとも容易く自由と私権の制限を受け入れたのは驚きだった。
 民主主義の屈服であり、COVID-19後の世界を支配するのがソフトファッシズムなのは間違いない。

 怖いのは人々がそのことを自覚していないことだ。
「ウイルスとの戦いに右も左も関係ない」
「人類が生存をかけてウイルスと戦っている時に多少の行動制限や私権の制限は当然だ」
「何よりも命を守ることが優先される」という声の前に、皆、沈黙させられ、政府の発表を受け入れている。

 「命を守ること以上に大事なことがあるのか」と言われれば、その言葉の限りにおいては正しいから人は反論できなくなる。だが1つ1つは正しくても、それらが集まり全体になれば、好ましくない結果になる。個別には正しくても全体を組み合わせたシステムになると、間違った結果になるということは往々にしてある。それを「合成の誤謬」ということも繰り返し述べてきた。
 その「合成の誤謬」が今世界中で行われようとしている。いや、行われつつある。

 今、世界で最もデジタル化が進んでいる国の1つは中国だ。街を歩けば至る所に監視カメラが設置され、個人の行動が監視されている。こう聞けば大半の人が嫌な顔をするに違いない。しかし、「監視カメラ」を「防犯カメラ」と言い換えれば、大半の人は安堵を覚えることだろう。これで犯罪が減る、犯罪の抑止になる、と。
 だが実際のところ、どの程度の抑止力効果があるのかははっきり分かっていない。分かっているのは犯罪者の確認や追跡で、犯罪を事前に防ぐ防犯ではなく、犯罪後の追跡に役立つカメラであり、正確には「防犯カメラ」ではなく「監視カメラ」だが、人は言葉で騙される。

 同じような欺瞞がCOVID-19で行われている。それも世界的に。中国やベトナム、イランなどだけではない。いまや街角に大掛かりな監視装置を設置する必要はない。個人個人が持っている手のひらサイズの小さなコンピューターにアプリを入れたり、最初から密かに忍ばせておくだけで、いつ、誰と、どこで会い、どこに行ったかなどが皆分かるようになっている。
 平時なら、そんなアプリを入れるなんてとんでもないと反対する人達も「ウイルスに感染しないために」「COVID-19を拡大させないために」と言われれば喜んでそうしたアプリを導入するだろう。
 そう、何も強制する必要はないのだ。彼らが喜んで、率先して導入するように仕向けさえすればいいのだ。
 そして気が付いた時には我々の行動は逐一把握され、プライバシーなどないことに気付くだろうが、その時はすでに遅しだ。
多目的トイレや4WDの目的外利用も筒抜けになるだろう。

 こうしたデータ収集の場合、必ず言われるのが個々人の情報を収集しているわけではなく、マスデータの収集で、全体の動きを大まかに知るためのものです、という言い訳。
 しかし、マスデータであれ何であれ個人情報が収集、分析されていることに変わりはない。その気になりさえすれば、いつでも個人情報を抜き出すことができる。実際、そういう例は表に出てきている以上にあるだろう。
 米国家安全保障局(NSA)があらゆる通信記録をすべて漏らさず傍受していることをエドワード・スノーデンが世界に暴露したのは7年も前だが、それから技術は飛躍的に進歩し、いまや手のひらサイズのスマートフォンという名の小さなコンピューターにアプリを仕込むだけで個人の行動は逐一把握できるようになった。
 それを「活用」して韓国政府は個人の行動を追跡しCOVID-19の抑え込みに「成功」したし、この種のアプリを利用したり、開発しているのはシンガポールや、その他の国、その中には日本も含まれるが「接触確認アプリ」「接触者追跡アプリ」という名称で呼ばれている。

 この種のアプリ開発を「正義感」やボランティア精神で行おうと考える人達もいるだろうが、企業にとってはビッグビジネスチャンスと映るだろう。そしてアップルもグーグルもマイクロソフトも、もちろん中国企業も開発し、実用化している。
 開発は善意かもしれない。だが、その後この種のソフトがどのように利用されていくかについて分かっていながら、そこには触れないようにしている。

 気が付いた時は社会の隅々まで監視システムと追跡アプリで張り巡らされた監視の目が行き届いているだろう。人々は中国式の統治システムの前に反対する意欲も気力も失せ、ひたすら政府の言うことに従う「家豚」になっている。そうだとすれば、今アメリカで白人警官による殺人に対する反対の声を上げているデモが最後のデモになるかもしれない。

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