当初、コンビニ開業の影響はほとんどないように思えた。むしろプラスの影響の方が出ていた。総菜・弁当店の陳列棚が向かいのコンビニを意識して、田舎の食料品店(失礼)的な商品を積み上げた、雑然とした陳列から商品陳列の高さを少し下げたり、通路幅をわずかに広げるなど陳列方法を変えたのだ。これで客の視界が広がり、圧迫感がなくなった。競合出現によるプラス効果といえる。
だが、プラス効果はここまでだった。ヒューマンスキルの点でかなり差が付いていた。
人がある店(会社)を選ぶ理由は3つある。1つは欲しいモノがそこにしかない場合。次に、その店(会社)が好きだから、そこの店(会社)の商品を買っている。3番目は従業員・社員を気に入り買っている。
つまり客は会社、商品、人に付き、その比率はほぼ1/3ずつに分かれる。第1の理由で買っている客は、欲しいモノがよそでも買えるようになる(選択肢が増える)とそちらに移る可能性がある。第3の場合はお気に入りの従業員・社員が辞めれば買うという行為そのものを止めてしまう。
この観点で上記の2店を見ると、コンビニというライバル店が自店の真向かいにオープンしたことにより客の選択肢が増えた。その結果、最大で1/3の客を失う可能性に直面したわけだが、「作りたてを提供する」という商品差別化が客に支持され、客の減少はかなりの部分食い止められた、ように思えた。特に当初は。
しかし日にちが経つに従い、見た目にも明らかにコンビニの客が増えていた。まず増えたのはトラックの客。最近のコンビニは店舗面積の数倍の広さを駐車場にしている。そのため車客はコンビニの方が駐めやすいのだ。
対して総菜・弁当店の場合は車数台分しか駐車スペースがない。駐まっている車も小型車、軽トラックが多い。
もう一つは上り車線を走行している車がレフトイン・レフトアウトで出入りしやすいということがある。進行方向の先には工業団地、インターチェンジがあり、そこを通り過ぎまでコンビニはないという点も、このコンビニに車が入る要因になっていることもある。
客の嗜好を覚えている若い店長
しかし、それ以上に大きいのはヒューマンスキルの点と考えられる。明らかにコンビニの方がファン客を掴んでいるのだ。
例えばこんなことがあった。コンビニのイートインコーナーでモーニングコーヒーを飲むようになって3回目だったと思う。若い男性従業員が私の注文に対し「コーヒーはいつものブラックでいいですか」と言った。これには内心驚いた。普通の対応は「砂糖、ミルクはどうされますか」と尋ねるはず。
ところが彼は私が「コーヒー」と言っただけなのに、「いつものブラック」と応対したのだ。彼が私の注文を受けたのは2回目である。それなのに「いつものブラック」でいいかと聞いたのだ。私がブラックしか注文しないことを知っていることになる。でなければ「いつもの」と言葉は出てこない。
まあ、上記は好意的に考えればということで、本当はたまたまだったかも分からない。
それから2か月後、再びそのコンビニでモーニングコーヒーを注文。今度は彼がレジ前に立っているのを確認して、彼に注文した。するとどうだろう。やはり同じように「いつものブラック」と聞いてきた。こうなると偶然ではなさそうに思える。
そこで翌日は他の従業員のレジ応対を試してみた。すると砂糖はいるか、ミルクはどうするか、カップの大きさはと聞いてきた。この確認こそがマニュアルだ。「いつもの」と聞いた彼の対応はマニュアルを逸脱していることになる。
こうなると興味がますます膨らんでいく。朝食代わりのパンとコーヒーで、道路に面したカウンターに30、40分座り、向かいの店の様子を眺めながら、視線の片隅で彼の行動を追い、耳は店内の会話に傾けていた。すると「店長」という言葉が他の従業員の口から発せられたのが聞こえた。
そう、彼はこのコンビニの店長だったのだ。見ていると動きもキビキビしているし、店内に客が入ると必ず相手の顔を見て「おはようございます」と言っている。それだけではなく、店を出る時には「行ってらっしゃい。お気を付けて」と声をかけているのだ。
この男は客を掴む。そう感じた。まさに客は人に付くの典型である。一方の総菜・弁当店は店内の活気がない。従業員がシルバー中心ということはあるが、少なくともその場所で10年以上営業しているのだから、もう少し客に愛想よく声をかけてもいいのではないかと思うが、それがない。近所の人にそれとなく尋ねてみると、愛想が悪い、買いたくないという声も出てきた。うーむ、そこまでは思わないがと他人事ながら案じた。
ともあれ都会と違い田舎は顔馴染み客が多くなる。そうであるからこそちょっとした声かけのあるなしが売り上げにも関係してくるだろう。
|