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 格差を拡大するキャッシュレス政策(2)
〜キャッシュレス化を急ぐ背景


 この国の場合はビデオでもワープロ、パソコンでもそうだが、規格を統一して一緒にやろうということがない。とにかく我が儲けしか頭になく、我勝ちに独自規格を投入するものだから共通性はもちろん互換性さえもなく、最後はトンビに油揚げではないが外資に持っていかれる。
 同じことが今回も行われている。「なんとかPay」というのが一杯あって、この店ではあれは使えるが、これは使えない、などとなり消費者は困惑する。
 店の方もそれぞれ規格が違う「なんとかPay」に複数対応しようとするとレジ周りが端末だらけになるし、それぞれの手数料負担も増える。「Pay Pay」が小さな店でも対応しているのはソフトバンクグループお得意の当分手数料無料で配っているからだ。
 だが、タダほど高いものはない、の例えもあるように、クラウドサービスでも最初は無料を謳っていたのがある時、無料サービス廃止になったり、無料での提供容量を縮小したり、接続デバイスの数を3個に限定したりする例は多い。〇〇Payもそうならないとは限らない。

キャッシュレス化を急ぐ背景

 今回のキャッシュレス還元事業のために国が今年度に計上した予算は1786億円。ところが既にこの金額内に収まるかどうかが疑問視されている。そうなると消費税アップ分と還元分がどうなるのか。逆転するようなら消費税をアップした意味がなくなる。そういう議論も当然、今後出てくるだろう。
 いや、キャッシュレス還元事業は来年6月末までの期限付き事業で、消費税アップは期限限定のものではない。それを同列に論じるのはどうか、と言われるかもしれないが、既述したように増税のために減税をするというのがまずおかしい。減税した結果、小売店の売り上げ増につながり、経済の活性化が図られ、納税額も増えるならまだ分かるが、2000億円近い投入額がもし捨て金にでもなれば、端からそんな政策はしない方がよかったということになる。そしてそうなる可能性が高そうだ。

 さて、政府はというか経済産業省はなぜキャッシュレス化の実現を急ぎたがるのか。
 背景にあるのは世界から取り残される、とりわけ韓国、中国のキャッシュレス化に後れを取り、かの国たちの後塵を拝しているという焦りだろう。
 たしかに、この2国からのインバウンド(海外からの観光客)は日本の観光産業にもはやなくてはならない存在になりつつある。観光地やデパートは日本語はもちろんだが、韓国語、中国語でも案内するのが当たり前になっている。いや、それどころか、観光地によっては韓国、中国からの旅行者抜きではもはや成り立たないところすらある。
 中国のクレジットカード、銀聯(ぎんれん)カードは日本のデパートで対応していないところはない。銀聯カードが使えなければドル箱ならぬ「元(げん)箱」を逃すことになるからだ。こうしたインバウンドをさらに取り込むためには日本国内のキャッシュレス決済を進める必要があるというわけだ。

キャッシュレス社会で失うもの

 ここで疑問が湧いてくる。キャッシュレス社会って、そんなにいいのか、と。いちいち現金を持ち歩かなくていい、というのは分かるし、乗り物に乗降する時に小銭を用意しなくてもカードやスマホをかざすだけで済む便利さも分かる。
 しかし、いいことだけかとつい疑ってしまう。ネットで買い物をすれば「次はこんな商品はどうですか」「あなたのために選びました」というような謳い文句で商品案内が次々に表示されたりメールで送られてくる。
 いまでさえそうなのに、キャッシュレス決済がさらに進めば、私がよく買っている商品ジャンルはもちろんのこと、いつ頃どこへ旅行に行ったか、そこへはどのような交通手段で行き、旅先で食べたものは何で、土産に何を買ったか、飲んでいる薬や健康食品は何で、どんな持病があるかなどまで皆把握される。
 早い話が個人の生活が今以上に丸裸にされるわけだ。丸裸にされるだけではない。そうして集められた個人情報が売買される可能性がある。

 いや、すでに個人情報はあらゆるところで売買されている。昔は紙ベースだったが今はデジタルだから労力ははるかに少なくて、売買されるデータは紙時代とは比べ物にならない程多い。
 ビッグデータはカネになる−−。このことは今や公然たる事実でGAFAに続けとばかりに、どこもかしこもがビッグデータの収集に躍起になっている。ビッグデータはマス情報で、個々人を特定するものではないから心配いりません、と口を揃えて言うが、そんなわけはない。ビッグデータの中から個人を特定するのは難しいことではないからだ。
 今の世の中、性善説を信じているととんでもないことになる。坊主も先生も警官も、まともな人間はいやしないのだから。

 そう、個人情報がカネになるという話である。つい先頃、就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが就職活動中の学生の個人情報を企業に販売していた例をご存知の方は多いだろう。
 人手不足、売り手市場と言われる現在、求人企業にとって一番困るのは内定辞退者だろう。せっかく内定通知を出しても後になって内定辞退をされれば採用計画に狂いが生じる。人員の面でも経費の面でも。
 だから極力、内定辞退者を出したくない。そのためには内定辞退の可能性が高い学生を事前に把握したい、そうすればつなぎ止めの手も打ちやすくなる。もし、内定辞退しそうな学生の情報があるなら、ぜひ欲しい。いや、そんな情報ぐらい、長年この世界で商売をしているリクルートが持っていないはずはない。もし、あるならぜひ我が社に提供して欲しい。企業の採用担当者がそう考えても無理はないだろう。
 リクルート側が持ち掛けたのか企業側から打診があったのかは定かでないが、ニーズがあるところにビジネスは生まれる。

 今回は利用目的等を学生に十分説明せずデータを集め、企業に販売したことが問題にされたわけだが、似たようなことはネット上で横行しているのが現実だ。
 デジタル化がこうしたことを推し進め、キャッシュレス社会はさらに個人情報の企業利用を進めていくに違いない。それを便利と考えるか、不安に感じるか。

                                          (3)に続く


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