美味しさ、安全、安心の椎茸作りにこだわり、
医師家族が田舎に移住して起業したムサシ農園


原木椎茸の味に魅せられて

 「実はこんなこともやってまして」
そう言われて驚いた。つい10分程前に眼科医と聞いたばかりである。もともと大阪府枚方市で眼科医院を開業。3年前に生まれ故郷の大原町(現美作市古町)に帰ってきて、いまは週1日だけ市立病院で診察している、と。
 てっきり悠々自適の第2の人生と勝手に想像していたが、案内された場所は原木椎茸の栽培・販売会社。眼科医と椎茸栽培が即座には結び付かない。面食らいながら色々尋ねようとして、まだ名前も聞いてなかったことに気付いた。
 名刺には「株式会社MuSaShi(ムサシ)農園 取締役 岡田日出男」と書かれていた。作業場を覗いてみる。女性1人と男性3人が仕事をしている。見覚えがあった。そう、つい30分程前、レストランで一緒に食事をしていた人達だった。

 原木栽培の椎茸にこだわっている、と言う。故郷に帰り、用地を購入し、会社を設立して家族でスタートしたが、それまで椎茸栽培の知識は誰もなく、全くの素人集団による一からのスタートである。
 親父の「道楽」に家族が従ったのかと思ったが、現実は逆だった。従ったのは親の方で、言い出しっぺで、椎茸栽培を主導したのは2人の息子、玄(しずか)さんと晃さん。ともに現在38,39歳。
 特に思い入れが強かったのが長男の玄さん。子供の頃によく食べた肉厚の椎茸を栽培する農家がどんどん減り、いまは促成栽培の菌床椎茸がほとんどになっていると知り、「あの頃食べたおいしい椎茸をもう一度食べたい」と思い出したのが約10年前。それから全国の椎茸栽培地を巡り、栽培ノウハウを学んでいった。

 ここまでならそれ程珍しい話ではない。食通とかマニアの間ではよくある話。だが、その先まで進む人はあまりいない。趣味が高じてもせいぜい自家消費用に自家栽培して悦に入るというところまでだ。それに人生をかけようとまで思い込む人はいないだろう。ましてや家族全員で椎茸栽培の道に進む人は。それも、医師への道を諦めて農業に飛び込んだのだから希有な例といえる。
 原木椎茸栽培を考え始めた頃、兄弟はともに医学生だった。
「椎茸への思い入れは兄の方が強く、まず兄が医学部を退学して、この道に入りました。次いで私も歯学部を退学し、2人でやることに」と晃さん。
 いつの時代でも夢に向かって進むのは若者だ。大人はそれを非現実的と諫めるか、黙って見守るぐらいが関の山で、一緒になって突き進んだ家族は少ない。とはいえ、大学中退から起業までの年数を考えれば、そうスンナリと事が進んだわけではないかもしれないが、兄弟の決心を応援しようと決めた両親には敬服する。とりわけ母親のより子さんの態度には。

 母は強し、と言うが、彼女は美作市とは縁もゆかりもない三重出身。そしてこの間まで院長夫人としてなに不自由ない生活を送っていたはずだ。それが都会の生活を捨て山深い田舎へ移り住み、2人の息子を支えている。それどころかムサシ農園の社長として、率先して現場作業に従事しているのだ。「力仕事も皆彼女がしてくれているので助かっている」と日出男さんも感謝していた。

おいしさ、安全、安心へのこだわり

 従来、椎茸はナラやクヌギの木に穴を開けて種菌を打ち込み、キノコを発生させる原木栽培が中心だったが、原木不足や重労働、自然環境に左右されやすいなどの問題が嫌われ、年々原木栽培は減少し、現在、市場に出回っている椎茸の約90%はオガクズにフスマなどの栄養源を混ぜた菌床で促成栽培する菌床椎茸になっている。

 ただ単に農業をしたいのなら、椎茸を栽培したいだけなら、効率的な菌床栽培を行う方がいいだろう。だが、彼ら兄弟はそれを選ばなかった。はた目には非効率、重労働に見える原木栽培にこだわった。それは「昔食べた、肉厚で、歯ごたえがあり、おいしい椎茸」を作ることに徹底的にこだわったからだ。
 こだわったのは原木栽培というだけではない。安全、安心にも徹底的にこだわった。
原木は地元産(因幡街道沿い)のクヌギの木を使用。
それに椎茸の種菌を打ち込み、1年間じっくりと成熟させる。こうしてできた「ほだ木」に冷水をかけると、約20日程で発芽し、椎茸が育っていく。この時かける水には地下からの天然水のみを使用。それを掛け流している。
 ほだ木は工場内で通風、湿度、温度管理をし、害虫の侵入や害菌の増殖を防いでいる。

 こうして手間暇と愛情をかけて作られた椎茸の味は予想に違わず好評。関西地区では高級スーパーの代名詞的な存在で知られる「いかりスーパー」や神戸三宮の日本料理店などで取り扱ってもらっているが、知名度もまだ低く、販路も関西地区の一部エリアと、まだまだ狭い。
 今後は「岡山県内にも販路を広げたい」し、販路拡大をいかにしていくかが課題だろう。しかし焦りはなく、「まず本物の味を知ってもらいたい」「安全、安心なものを丁寧に作り続ける」ことが第一と晃さんは話す。
 モノづくりよりは金儲けばかりが持てはやされる昨今だが、愚直にモノづくりに励む、応援したくなる会社である。

 同農園では直販もしている。
注文・問い合わせ先
 (株)ムサシ農園
 〒707-0412 岡山県美作市古町1365
 tel 0868-78-0888(8:00〜17:00)
 fax 0868-78-4888




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