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栗野的流通戦争の読み方(5)
どうなる、ダイエーの行方?

 いよいよダイエーを巡る動きが急を要してきた。
ここ数日、新聞紙面に「主力3行産業再生機構に支援を要請」とか「ウォルマート、イオン ダイエー争奪戦」などという見出しが舞っている。ダイエーに残された日数はもう1カ月もない。月内か遅くても9月初めにはダイエーの命運が決まる。
 ダイエーの命運が尽きていたのはすでに2年前からで、02年1月に私が行った流通セミナー「合併・大再編で消えるスーパー、残るスーパー」でも明言したことだが、今回は銀行の不良債権処理問題の加速、いや、もっとはっきり言えばUFJ銀行の生き残りのために、9月という期限を切って切り捨てられようとしているところに問題がある。しずかに臨終の時を迎えるのではなく、無理矢理生命線を外され、強制的に臨終の時を早められようとしているのであり、そのことに当事者ならずとも多少の憤りを感ぜざるを得ない。

 そのことはさておき、ダイエーに残された道は次の2つしかない。
1.産業再生機構下で再建する
2.飽くまでも自力再建を貫く
 ただ自力再建といっても完全な自力再建は無理で、どこかになんらかの支援を頼まざるを得ない。
 ということは、結局、産業再生機構入りだろうと自力再建だろうと、支援者が必要ということだ。
そこで名乗りを上げているのが外資系小売業ではウォルマートであり、国内はイオン、イトーヨーカ堂ということになる。
このほかに外資系投資ファンド会社や丸紅、東急不動産などが名乗りを上げている。

 ところで、主力3行(UFJ銀行、三井住友銀行、みずほコーポレート銀行)はなぜ産業再生機構に支援を要請したがっており、ダイエーはなぜ産業再生機構入りを嫌っているのか。
 主力3行、なかでもUFJ銀行の都合によるところが大きいが、不良債権処理を急いでいる(急がされている)からである。
 しかし、銀行にとって産業再生機構だろうが、自主再建だろうが債権カットは変わらない。つまり、どちらの方法でも債権の大幅カットには応じざるを得ないということである。

 ただ、産業再生機構に支援を要請する場合、ダイエーに対する自らの債権を産業再生機構に買い取ってもらうわけで、そうすることで不良債権が正常債権に格上げされる。つまりは銀行の不良債権処理になるわけである。
 ただ、債権額面通りの金額では売れないので、結局、減額して買い取ってもらうことになる。それでは損をすることになるが、回収の見込みのないものをいつまでも持っていて、最終的には焦げ付くよりは、値下げしてでも売却して回収した方がいいというわけだ。

産業再生機構活用ならダイエーは分割される

 銀行の方はこれでいいが、ダイエーにとってはどうなのか。
 産業再生機構入りすれば、カネボウの例のようにまず分割されるに違いない。
産業再生機構はダイエーを再建して利益が出せる体制にし、再び売却して差益分を稼がなければならないから、最も収益が出る部分、往々にしてそれは本業であることが多いが、を残し、他を売却する可能性が強い。

 少し例は違うが、九州ではニコニコ堂を思い起こすのが分かりやすいに違いない。
ニコニコ堂が破綻し、私的整理のガイドラインに基づいて再建された時、大型店はイズミ(広島本社)に売却し、小型店のみで生き残りを図ったが、いまは見る影もない。
 結局、産業再生機構下での再建は、ダイエーも同じ道を辿りそうだ。
黒字部門の食品スーパーに特化し、衣料などを含んだGMS(総合スーパー)部門は分割し他社に売却するというのが銀行団が描く再建図である。
これでは縮小経営であり、今後巻き返しのチャンスすらない。

 GMSもすべてが悪いわけではなく、大型店舗の中には健闘している店舗もある。そういう店舗は残し、今後攻めに転じる余地は残しておきたい。いや、不採算店を整理し、積極的に店舗展開もしていきたい。そう経営陣は考えているはずだ。バイイングパワーを発揮するには店舗数が問題になるからだ。
 となると、現ダイエー経営陣にとって銀行団の再建策はとても受け入れられるものではない。
 そこで見つけてきたのが丸紅・東急不動産・ドイツ証券の3社連合スポンサーだ。
これならダイエーの主導権は保たれる。


対ウォルマートに執念を燃やすイオン

 破綻スーパーが出るたびに再建スポンサーとして名乗りを上げているのがイオンだ。マイカルも壽屋もこうして傘下におさめ、いまや国内NO1のスーパーになった。
もちろん今回も手を挙げている。ダイエーを傘下におさめれば一挙に店舗数が急増する。しかも破綻スーパーの買い取りは新規出店に比べれば安い買い物。一挙に建物と顧客が手に入るのだから濡れ手に粟みたいなものだ。
 それにしても、なぜイオンはここ数年、拡大路線をひた走り続けているのだろうか。イオンはライバルを国内企業ではなく外資系、もっとはっきりいえばウォルマートに置いており、ウォルマートに対抗するために一大勢力の形成を急いでいるのだ。
 いまのところ、それらは成功しつつあるかに見える。だが、イオンにとってのアキレス腱は安く手に入れたマイカルや壽屋などの再生企業でもある。
 もし、再建が計画通りに進まなかった場合、逆にそれらが足を引っ張ることになる。現在はプラスの方向に働いているドミノが一転、逆の方向に向かって倒れかねない危うさも含んでいるといえる。


ウォルマートの日本戦略

 一方のウォルマートである。西友を傘下におさめ、日本進出を図った同社だが、もともとの狙いはダイエーで西友ではなかった。いわば西友は、ダイエーに断られた次善の策だったのだ。
 ダイエーと西友では店舗数も段違いで、ウォルマートにとって西友はそれ程魅力的な相手とは映ってなかったはず。ただ日本進出の足がかりとして選んだわけで、当然第2、第3の買収を考えていた。
 ただ、ウォルマートにとって西友買収の副産物は福岡を中心に展開する食品スーパー、サニーまで傘下におさめることができたことだ。
 ダイエーと似たような状態だった西友とは異なり、サニーは岩田屋グループの孝行息子で、放蕩な親を救うため上場を間近に控えていたぐらいだ。
 とはいえ、やはりウォルマートの力を発揮する店舗は大型店で、そのためにも全国展開しているスーパーが欲しかったのは間違いない。
 しかし、西友の店舗は全国展開というよりは関東周辺に偏っている。特に弱いのが関西以西の地域である。その点、ダイエーは縁談を組む相手としては申し分なかった。
 一度は断られた縁談申し込みだが、そこに降ってわいたのが今回のダイエー再建。
ウォルマートにとっては千載一遇のチャンスと映ったに違いない。
 早速、米投資銀行のゴールドマン・サックスとともにダイエー再建に名乗りを上げたというわけだ。

 ウォルマートは当初、産業再生機構活用の場合のスポンサーとして手を挙げたが、ダイエーが自主再建にこだわっていると見ると、自主再建の場合でも支援すると、なりふり構わぬ攻勢に出だしている。


ダイエーを買うのはどこか

 さて、現在ダイエーを巡る動きは
1.産業再生機構入り(金融団が執着)
   イ)イオンが支援
   ロ)ウォルマート、ゴールドマン・サックスが支援
   ハ)イトーヨーカ堂も一部店舗狙い
2.自主再建(ダイエーが執着)
   イ)丸紅・東急不動産・ドイツ証券の3社連合が支援
   ロ)ウォルマート、ゴールドマン・サックスが支援
 という構図になっている。
 ダイエー側は高木社長の辞任と交代に銀行団に自主再建案支援を迫っているが、金融庁の思惑を感じながら動いている銀行団は飽くまで産業再生機構入りを譲ってない。産業再生機構を活用する場合、銀行と企業両者の合意がいるため、銀行団としてもどうしてもダイエーにウンと言わさなければならないのだ。
 ただ、いまのままだと、金融庁の威光をバックアップに動いている銀行団の方に歩がありそうだ。
 仮に産業再生機構入りの場合でもスポンサーはイオンではなくウォルマートになるのではないかというのが筆者の読みである。理由は資金力だ。なにがなんでもウォルマートがダイエーを欲しいと思えば破格の支援策を用意するはずで、自主再建の場合も同じことが言えるのではないか。


「栗野的視点」の過去配信分はHP(http://www.liaison-q.com)にアップしていますので、そちらもご覧下さい。

04.08.24 


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