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中小企業活性化のために必要なものは(中)
大学、大手企業の知恵を徹底的に活用する


明確な目的を持ち
連携すれば成果も大

 中小企業が技術力を高めるために産学連携・共同開発は有効な手段だと前回述べた。ただ、大学と民間企業では時間の流れる速さが違うので、契約書を交わし、成果をいついつまでに出すというように期限を決めないと、開発費ばかりがズルズルと増えていくということになりかねないとも述べた。
 産学連携におけるもう一つの注意点というか、よく耳にするのが「大学は金を取るばかりで何も成果が生まれない」という声である。この言葉を口にする企業は、責任は自らの側にあると知らなければならないだろう。なぜなら、産学連携・共同研究を行う場合に、明確な目的なしにスタートしているからである。大学に金を出しておけば優秀な学生を紹介してくれるだろうとか、もしかすると何かの時に便宜を図ってくれるのではないかなどといった気持ちで大学と接していれば、成果は何一つ出ず、出るのは金ばかりということになる。
 こうした関係は大学との間に限ることではなく民間企業同士の産産連携・共同開発でも同じだが、まず明確な目的を持つべきである。大学にこの部分を助けて欲しい、ここの技術を自社の研究陣に教えて欲しい、といった具合に、連携する目的をはっきりさせ、そのことを相手にもしっかり伝える必要がある。そうすれば求める結果が出るはずだ。

見合い結婚と同じ
信頼関係が大事

 ただ希に、大学に自社の研究内容を持ち込んだら、向こうも同じような内容を研究しており、気が付いたら特許申請を勝手にされていた、という話を聞くこともある。こういう例は大手企業に企画を持ち込んだ時によく耳にする話だが、大学でもたまにあるようだ。
 こうした「不幸な関係」になるのを防ぐにはどうすればいいのか。
 まず、特許出願前の内容は誰にも話さないという基本的なことを守ることである。次に、相手の人間性をよく見極めることだろう。人には多面性があり、その時の条件や状況によって変わることもあるという認識を持つことも大事だが、基本は相手との間に信頼関係が築けるかどうかである。いわば、産学連携は一種の見合い結婚みたいなもので、結婚前にある程度相手のことを調べるというか認識を深めておくことが必要だろう。その上で、この相手とは考え方も合うかどうかを判断し、結婚(産学連携)へと進めば幸せな関係が築けるのではないだろうか。何事につけ、事前調査は大事だが、大学のホームページなどに各教官の業績が載っているので、その内容をよく吟味すればある程度のことは分かるはずだ。さらに進んで、過去の共同研究の相手企業などに評判を聞いてみるのもいいだろう。そして最後はトップ自らが相手に会い、自分の目で見極めることである。
 産学連携は結婚と同じと言ったが、それは両者の立場が5:5ということでもある。一方的に大学側に負担を求めたり、またその逆でもいけない。企業の中にはTake & Takeの関係で接する所もあるので、その点は改めるべきだろう。
 「敷居が高い」と言われた大学だが、最近は国立大学の独立法人化で、大学も生き残るために産学連携を積極的に進めているし、外部との窓口の一本化に努め、学部横断的なリエゾンオフィスを設けるところが増えてきた。いずれにしろ、大学は「知の宝庫」である。有効に活用すれば中小企業にとって開発期間の短縮、新技術・新製品の開発等に、これ程役に立つことはないので大いに活用したいものだ。

製造現場を見直し
ムダ、ロスをカイゼン

 中小企業の競争相手はすでに国内同業他社ではなくなり、中国を筆頭にしたアジア諸国の同業他社に移っているが、そうさせたのは中国やアジア諸国自身の力ではなく日本の企業である。日本企業がジャストインタイムやカイゼンなどの生産システムを輸出した結果である。やり方を教えただけでなく、実際に人間を派遣し徹底的に訓練した結果である。「中国では大卒が3DCADの操作などをバンバン覚えている。日本では大卒は現場を嫌がるから高卒に教えている。これでは基礎知識も違うし、覚える速さが全然違う。日本がかなうわけがない」。中国で光ファイバー関連製品を作っていた某社の社長は、自嘲気味にこう語る。
 だからといって嘆くばかりでは、日本の中小企業はますますダメになり、競争から脱落していくだけだ。しかし、このことを逆に考えれば、中小企業に競争力が付くのではないか。つまり、中国の企業に教えたことを日本の中小企業に教えるのである。
 九州の企業は小売業も製造業も激烈な競争にもまれていないため、全国規模の企業との競争になるとどうしても弱い。例えばこんな話がある。円高で大手企業が海外シフトしたため下請け、孫請けのラインが空いた。そこで松下電器系の孫請け会社に生産委託したところ、見積もりの桁が円ではなく銭だったので驚いたというのだ。大手企業はそれ程シビアなコスト計算をしているのに、中小企業のコスト計算がいかに甘いかということである。

大手の生産システムを
現場指導するNPO

 製造業はまず現場のムダ、ロス率の見直しをすべきである。そして低コスト生産に徹すれば道は開けるはずだ。では、どのようにするのか。見習うべきは大手企業の生産システムである。早い話がジャストインタイムなどのトヨタ生産システムの導入である。これがすべてだと言わないが、トヨタ生産システムがスゴイのは一度導入すればそれで終わりではなく、毎年、カイゼンを続けていくことだ。まさに連続カイゼン、継続カイゼンである。この点はISOの認定と似ている。
 ただ、こうしたカイゼンはいくら講習を聞いても身に付かない。そこで最近、筆者が提唱しているのがトヨタ生産方式を始めとした大手企業のシステムをOJT(on the job training、実地教育訓練)で現場指導することである。幸い、筆者が主宰するベンチャーサポート組織「リエゾン九州」の周囲に地場中堅企業などを退職したOBが集まってきているので、彼らと協力し合いながら、中小企業の現場指導をする機能をリエゾン九州に持たせたいと考えている。
 いままでも大手のOBをシルバー人材の活用と称して中小企業に派遣するシステムはあったし、現にいまも存在する。ただそれらはほとんど機能していないか、うまく機能してない。理由の一つは行政が中心になって実施しているからであり、二つ目は派遣人材のミスマッチが起こっているからだ。多くは大手企業OBの中小を見下したような態度に問題があるようだが、それは派遣人材選びをするコーディネーターの能力の問題でもある。現在は各分野で本当の目利きコーディネーターが求められているが、これがなかなかいない。それでも、製造現場のカイゼンをしなければ中小企業は生き残っていけないので、困難ながらもOJT派遣機能を作っていきたいと考えている。興味がある人はkurino@liaison-q.comまで。
                                 


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