現在は中小企業受難の時代である。デフレでコストダウンの要求は厳しさを増す一方だし、汎用品・大量生産品はアジア、特に中国に仕事を取られ、金融機関の融資先選別はますます強まるなど、八方ふさがりの様相を呈している。とはいえ、嘆いてばかりはいられないので、生き残りのために必要なものは一体何かを、今後数回に分けて論じてみる。 (ジャーナリスト 栗野 良)
なぜ先に販路を考えない
筆者は長年、九州の中小企業、とりわけ技術系企業の取材を続けているが、その中で気付いたことがいくつかある。一つは、探せばキラリと光る技術を持った中小企業が存在するということであり、もう一つはマーケティングのマの字も考えていない中小企業が多いということだ。マーケティングといえばなにか難しそうに聞こえるが、早い話が販路とユーザーのことである。多くの中小企業がモノを作った後で販路を考えているのである。これでは作ったモノが売れなくても当たり前である。 販路を後から考えると、なぜ売れないのか。それはユーザーを想定していないため、機能やデザインがおろそかになるからである。極論すれば、自分達が作りたいモノを作っているだけだから、必要な機能がなかったり、逆にやたら多機能だったりする。 この多機能というのが技術者にとって悪魔の囁きみたいなもので、製品を売るためにはユーザーニーズを満たさなければいけないと考えるから、これでもかと思うほど機能を取り入れてしまう。これはいわば十徳ナイフみたいなもので、一見便利そうに見えるが、どれといって優れたものがなく、中途半端な製品に仕上がってしまう。 しかも、機能を詰め込むから製造コストが上がり、販売価格も高くなり、価格面からもソッポを向かれてしまう。
機能と市場性の関係
実は機能と市場性はイコールではなく反比例に近い関係にあるのだ。市場が求めているモノは高機能・多機能なものではなく、少機能あるいは単機能で使いやすいものであることが多い。つまり付加する機能を絞り込む必要があるわけだ。これは省く作業である。機能を付加していくのは楽だが、省くのは非常に難しい。なぜなら技術者というのはモノを作るのが仕事である。それなのに逆のことをするのは彼らのプライドに反することでもある。それだけに、ある意味で勇気を要する作業になる。 では、どうすれば機能を絞り込むことができるのか。事前にユーザー調査をしっかり行うことだが、それには経費もかかる。そこで筆者は一つの解決策としてオプションを付けたらどうかと提案している。「あったらいいな」という機能はとにかく省き、最小限必要な機能を付加したものをスタンダードにし、あとはオプションで必要な機能を付加する形にするわけだ。こうすればスタンダードの価格設定が低く抑えられるはずである。あるいは高機能・多機能なものをスタンダードにし、機能を省いた低価格版を出すかだ。ただし、どちらの方法を取るにしろ、一度は技術を極めておく必要がある。省くというのは高い技術力を持っていて初めて出来ることでもある。その点、勘違いがないように。 この方法で販売に成功したのがエクスツールスが市場に投入した3Dグラフィックソフトの「シェード」である。同ソフトはプロ用からアマチュアの入門用まで幅広いラインナップをしたが、その時採用した戦略が高機能のスタンダード版から機能を省き初心者入門用を廉価版で投入することで、一時は市場を席巻したのである。
技術力を高めよ
マーケットは単機能・少機能の製品を求めているから機能を省かなければいけないが、それには高い技術力がいると述べた。これはどういうことか。そこである例を提示しよう。最近、純水がいろんな所で持てはやされている。例えばスーパーなどで水を販売しているがあれも純水の類であるし、肌に潤いを与える化粧水にも純水が使われている。 水道水に限らず一般の水にはミネラルなど様々な不純物が混入しているが、これらをすべて取り除いたものがピュアな水。つまり純水である。純水にもいくつかの段階があり、最もピュアな水はウルトラピュアウォーター(超純水)と呼ばれ、一切の不純物を取り去った化学式としてのH2Oである。これは非常に不安定な存在であり、常になにかと結び付こうとする。 逆に言えば、この作用は洗浄に使えるわけで、フロンの代わりに半導体の洗浄に使われている。一般社会ではここまでピュアな純水は必要ないが、一度ピュアな純水を作る技術を確立すれば、その技術を応用していろんなものが作り出せる。あるウィルスにのみ効く物質を混ぜれば、効果が非常に高い特効薬が作り出せるというわけだ。 しかし、技術が不十分で低レベルの純水しか作り出せなければ、応用範囲が狭まるばかりか、すぐに他社の参入を許すことにもなる。 九州の中小企業の技術力はまだおしなべて低い段階に甘んじている。対して中国をはじめとするアジア諸国の技術水準はここ数年目を見張るばかりの水準に達し、かなりの部分は同レベルか、一部はすでに九州の中小企業の技術より上を行っている。 では、技術力を高めるために、中小企業はなにをすればいいのか。
大学を上手に活用
一つは産学連携による技術力のアップ、技術開発である。従来、大学は産学連携にあまり積極的ではなかった。ところが、最近の大学を取り巻く諸事情の変化により、大学が随分変わってきた。その傾向は国立大学より私立大学においての方がより顕著に見られる。 このような大学の変化を見逃す手はないだろう。ただ、産学連携もきちんとした目的なしに行うと経費ばかりかかって成果はゼロということになるので注意が必要だろう。 注意すべき点の一つは、大学との間に目的、期間、結果等を明示した契約書を交わすことである。大学と民間では時間の尺度がまるで違うから、上記のような契約書を交わし、大学にある種の縛りをかけないと産学連携の成果は得られない。 |