ピンチこそチャンス−−。
ここ数か月の間に、この言葉を何回か見聞きした。
「危機という字は危険と機会という文字から成っている」
中国の事業家が某紙でこう言っていた。さすがに中国人は逞しい。
危機は危険でもあるが、ビジネスの機会もある。
どう捕えるかで悲観的にも楽観的にもなれる。
もちろん考え方を変えるだけで何もしなければ、チャンスも生まれはしない。
それでも悲観論で暗い顔をして毎日を過ごすよりは、はるかにいい。
暗い顔をした人の所に寄ってくるのは貧乏神。明るい顔をしていると幸運の女神が寄ってくる、とは昔からよくいわれること。
一度取り憑いた貧乏神はよほど意識して振り払わないと離れないが、幸運の女神の方は移り気だからしっかり捕まえておかないと、すぐほかに移ってしまう、ともいわれる。
さて、そこで年頭の「栗野的視点」(ちょっと遅くなったが)では「ピンチこそチャンス」と言い、その言葉を実践している実例を紹介したい。
ケース1:流通業
トップバッターは鹿児島県阿久根市の(株)マキオ。
人口3万人足らずの阿久根市に、日本で初めて24時間営業のスーパーセンター(売り場面積1万u超)をオープンしたのが11年近く前。同社についての記事は「九州の頑張る企業」に収録しているので、そちらを一読して欲しい。
その後、05年に現南九州市川辺町に2号店「AZかわなべ」を、そして現在、霧島市隼人町に3号店「AZはやと」を建設中だ(当初予定の08年夏が、09年3月に延期)。つい数日前、NHKがTVで放送していたのでご覧になった方も多いのではないだろうか。
不況の時は土地の取得もしやすいので、今後も出店をすると攻めの経営を行っている。そういえば隼人町の土地は城山観光(06年4月から民事再生中だったが、08年3月、計画を1年前倒して完了)の遊休地を取得したもの。
同社躍進の秘訣は昨年6月、リエゾン九州の勉強会でも私が話したように過疎高齢化地方を逆手にとったサービスの充実によるところが多い。こうしたソフト面のやり方は大いに見習うべきだろう。
ケース2:製造業
次は製造業。岡山県津山市の池田精工(株)を昨年、取材した。その時、池田社長が「ピンチがチャンス」と口にされたのが印象的だった。
同社はステンレス加工技術の高さで知られているが、同社が心がけてきたのは「仕事の速さ」と「仕上がりのきれいさ」。
こうして差別化を図ってきた結果、現在の取引先は「各分野のピラミッドのトップに位置する企業」。
ところで、どのようにして「ピンチがチャンス」なのか。
不況の影響を受けているのはステンレス業界も同じで、発注企業が下請け企業を整理している。整理といっても仕事がゼロになるわけではないので、性格にいえば下請け企業を選別してきたわけである。
発注側にしてみれば技術レベルの高い企業に仕事を集中することになる。
つまり、それまで他社に回っていた仕事まで池田精工に回って来だしたので、却って同社の仕事は増えているのだ。
もちろん、こうなるには前述の「仕事の速さ」「仕上がりのきれいさ」に加え、「常日頃の提案力」が大きい。
「設計者は図面に理想を描けばいいんです。それを加工するのは自分達がやるから、と相手の設計者には言っているんです」と池田社長。
こういう仕事先を抱えていると心強い。それが「ピンチがチャンス」になっている。
ケース3:建設業
土砂降りの不動産・建築業界の中で早くも来期の予算を半分達成している企業がある、といえば信じるだろうか。恐らく「ノー」だろう。私自身も耳を疑ったほどである。
(2)に続く
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