Google

 


バルコムモータースの参入で福岡が激戦市場に(4)
〜組織を一新できなかったYanase BMW〜


組織を一新できなかったYanase BMW

 ところで、不思議なのはヤナセである。Fukuoka BMW(富士モータース)を買い取ってすでに5年がたつ。本来ならヤナセ色がもっと強く出ていていいはずだが、組織は相変わらず富士モータースのままのように見える。
 ヤナセからはトップを始めとした経営陣が乗り込んできているが、社員のほとんどは富士モータース時代のままだ。
 通常、組織の立て直しに要する時間は1年だろう。経営、営業両面からの見直し・立て直しが必要になるが、コストの見直しだけでは赤字体質からの脱却はできない。営業強化というもう片輪がなければ。
 ところが、富士モータースからヤナセに替わっても、営業力(アフターサービスを含め)が強化されたとは感じられない。少なくともBMW Japanとの間で目標数字が一致しなかったのは間違いない。

 BMW Japanにしてみれば福岡はもっと売れる市場と読んでいるのに、ヤナセの売り上げ計画がBMW Japanの予定数字より少なく、また達成数字も低いことが我慢ならなかったのだろう。ただ、それをもってBMW Japanを「横暴」と決め付けることはできない。福岡を有望市場と見ているのはなにもBMW Japanに限った話ではなく、輸入車業界共通の認識で、各社とも福岡市場に力を入れつつある。

 それにしても解せないのはヤナセが5年もかけて組織変革をできなかったことだ。
ある顧客はヤナセを次のように切り捨てた。
 「8、9年前に富士モータース本店からBMWを買いましたが、営業担当者から連絡があったことはただの一度もありません。まさに売りっぱなし。あれでは売り上げが上がるわけはない。ヤナセに買収されたのは当たり前ですよ。ヤナセに変わったから体質も変わるかと少しは期待したけど何も変わってない。やり方は前と同じ。なにを思ったか、1年前に営業マンが『お客様の担当になりましたので、ご挨拶を』と挨拶に来たが、新人に顧客回りをさせているのは見え見え。まあ、それはいいが、1、2か月前に買い換えたばかりだったので、えっ、今頃なにしに来たの、という感じですよ。結局、車を買い換えたことも知らない。顧客情報が共有化されてないんですよ、ヤナセから買っているのにですよ。体質は富士モータース時代のまま。あれではバルコム進出の影響はかなり出るでしょう」

 組織を変えるには構成員を総入れ替えするのが一番手っ取り早い。全員を他の拠点から異動させられればそれがベストだが、そこまでの人的余裕がある組織はまずないだろう。となると、どうしても現地採用を中心にせざるを得ない。その場合は組織を1から作り直すのと同じで時間と労力をかなり要する。そのため多くの組織では旧社員の体質改善を図る教育に力を入れることになるが、これも一朝一夕には変わらない。
 それにしても5年は長すぎる。これだけ長い時間をかければ、普通は見違えるほど組織が変わっていていいだろう。にもかかわらず、変わったのは看板だけで、中身は昔のままでは。バルコムが進出してきたことより、組織変革に失敗したことの方がヤナセにとっては問題だろう。

 また次のように証言する顧客もいる。
 「とにかくヤナセの営業マンはひどいもんですよ。売る時は散々いいことを言っていて、売った後は知らんふりですから。冬、岡山に行っている時に後部座席のパワーウィンドーが下がったままで閉まらなくなったんです。それで担当営業マンの携帯電話に電話を入れたけど留守電になって出ない。取り敢えず電話をしてくれるようにメッセージを残しましたが、1時間待っても連絡がない。会社にも電話をしたけどヤナセの定休日だったようで応答なし。仕方ないからバルコム岡山に持ち込み修理をしてもらいました。1年間の保証期間中だったので、その時立て替え払いをしたことを翌日営業担当のI氏に電話して伝えましたが、『後から払うという例はないんですよね、困ったな』というだけですよ。こちらは本人の携帯に電話し、メッセージまで残しているにもかかわらず、当日電話をしてこないばかりか、翌日もこちらから電話をして初めて出るのんきさですよ。これでは客は離れますよ。本人は板付支店から西支店に最近移ったようですが、その後、事後連絡もありません。えっ、立て替え払いをした修理費はその後どうなったか? 経過報告すらないんだから私が自払いしたままです。もうヤナセとは二度と付き合いたくないです」
 聞けばこの社員は富士モータース時代から在籍している社員らしい。こういう社員ばかり抱えているようでは売り上げ数字が上がらないのは納得できるが、そういう社員を教育できていないヤナセの体質こそが問題だと思うが。

 以前、「栗野的視点(No.294):トップセールスマンの販売極意を盗め」でトヨタとBMWのトップセールスマンについて書いたことがある。以下に抜粋してみよう。

 「私を買えば、車が付いてくる」
BMWのトップセールスマンはそう断言した。
客は車を買っているのではなく、私という人間(サービス、メンテナンス、安心というようなもの)を買っているのだ、と。
その結果、おまけで車が付いてくるのだ、と。
トヨタのトップセールスマンも似たようなことを言っていた。


 彼らに共通しているのは車というモノを売るのではなく、顧客を大事にすることを第一に心掛けているのである。
 トヨタのトップセールスマンは顧客の近くに行けば必ず顔を出しているし、BMWのトップセールスマンは顧客からの電話に実に細かく対応している。
ちょっと擦って傷が付いた、という電話にも、出かけていって、様子を見て、アドバイスをしているのだ。


 もちろんBMWのすべての社員がこのようなトップセールスマンでないことは承知している。それでも、もう少し見習うべきだろう。
 BMW Japan、Yanase BMW、Balcom BMW、それにKitakyushu BMWを加えれば4社4様の見方、批判もある。数字だけをドライに追いかけるだけでは顧客は付いてこないし、やがて数字も上がらなくなる。最後は思想と長期戦略があるかどうかだ。
 ユーザーサイドから言えば、ドライな対応ではなくサービスのいいディーラーに生き残って欲しいと思うが、それはどこになるか。第3幕の幕が上がる頃には分かるだろう。

                                              (3)に戻る    



(著作権法に基づき、一切の無断引用・転載を禁止します)

トップページに戻る 栗野的視点INDEXに戻る