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利便性=集客力アップではない
〜集客できる地方とできない地方、その違いはどこにある。(2)


利便性=集客力アップではない

 奈義町現代美術館と地中美術館の決定的な違いは一方が岡山県奈義町にあり、他方が香川県直島にあることだ。
 こう説明すれば、なにをバカなことをと言われそうだが、実はこのことこそが重要な違いなのだ。
 両美術館とも地の利は悪い(辺鄙な場所にある)ということはすでに述べた。ただ、一方は辺境の地と言っても陸続きなのに対し、他方は島である。それも橋がかかっていない島で、そこに行くには船で渡るしかない。他方、奈義町現代美術館は岡山県と鳥取県境の過疎地にあるとはいえ、陸続きに行ける。どちらが行きやすいかといえば、当然、陸続きで行ける方だろう。
 行きやすい(移動しやすい)ということは、裏を返せば帰りやすい、離れやすいということでもある。車で行けばなおのこと移動しやすい(離れやすい)。目的の美術館を見れば短時間で、あるいは中に入って展示作品を見ずに移動することもできる。

 ここでは利便性がマイナスになる。
作品をじっくり見なかったり、館内に入らなかった人程、感想は悪くなる。少なくともよくは言わない。言いたくても言うべきものを見ていないのだから仕方ない。そんな人から感想を聞いて、それでも行って見ようと思う人は余程の人だろう。
 では、島に渡った人はどうか。
こちらは不便さがプラスに働く。
陸続きならすぐ引き返せるが、島の場合そうはいかない。次の船まで待たなければ帰れない。つまり帰りの時間は渡船時刻に規制されることになる。やむなくかどうかは別にして、渡った以上、帰りの船の時間までは滞在せざるをえない。どんなものでも時間をかけて見ていると、何かを発見する。結果、案外面白かったという感想を持つことになる。そうなればしめたもので、口コミも広がる。

 多くの人が勘違いするのは利便性=集客力アップという図式である。
この図式そのものが間違いということではないが、当てはまる場合と当てはまらない場合、逆に作用する場合があるということだ。
 例えば新幹線開通などにこの逆の例を見ることがある。多くの自治体は利便性を求め、新幹線開通と新幹線停車駅になることを望む。ところが途中停車駅の多くは訪問客が増えるどころか、逆にストロー現象で地域の客が中央に吸い上げられ、地域活性化どころか地域衰退に繋がっている。
 こういう地域では開放エリアよりは隔離された閉鎖エリアを生かすことを考えた方がいいのだが、やはり利便性=集客力アップの幻想から逃れられないようだ。

閉鎖性+エリア内魅力アップ

 直島の地中美術館に来館者が多いのは離島という閉鎖性が理由だけではない。それだけならリピーターも増えないし、口コミで評判になることもないだろう。閉鎖エリアであればあるほど飽きられるのも早い。3作品だけなら一度見れば十分という気になる。これは開放エリアである奈義町現代美術館でも同じだ。

 では閉鎖性、開放性以外に両者は何が違うのか。
結論を先に言えば回遊性である。直島には、地中美術館から徒歩10分程の距離にベネッセハウス(ミュージアム)がある。さらに、本村港の近くには古民家を改造した「家プロジェクト」が点在している。単なる古民家の再生ではなく、著名な芸術家たちによって現代アート作品に変身させられている。こうしたものを見て回ると結構時間がかかる。帰りの乗船時間の問題もあるから、回りきれなかった分は次回来たときにしようという気になる。来訪者がそういう気になった時点ですでにリピートが約束されたのも同じだ。

 奈義町現代美術館の方にはこれがない。エリア内の回遊性がないのだ。美術館としての魅力は決して劣っているわけではないが、単体としての存在でしかない。しかも開放的エリアである。現代美術館を見たから他所へ行こう、となる。エリア内に他のアートも含め見るべきものがなければリピートもない。1回で完結してしまう。
 リピートを誘うためには未完の部分を残すことだ。行く度に何かが変わっている、新しいショーをやっている、新しいイベントが行われている。こうした未完部分を次々に作り出すことで成功しているのが東京ディズニーランド等だろう。

 いずれにしろ集客に成功している所は「お得感」を与えている。期待以上だったとか、○○だけと思って来たら他にも色々あった(グリコのおまけみたいなものだ)、思わぬものに出合えたなどといった「お得感」があるかどうかが集客力の差になっているのは間違いない。
 さて、アクセスの悪さ、閉鎖的エリア、単体魅力などで集客に苦労している地域は全国にある。ただ、視点を変えれば、アクセスの悪さ、閉鎖的エリアは必ずしもマイナス要因とはならないということはここまでで述べた。
問題はあと少しの工夫だったりするが、それができていない地域が結構多い。
 次は佐賀県有田と鳥取県智頭町の例を見てみよう。
                                                 (続く)

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