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集客できる地方とできない地方、その違いはどこにある。(1)


 地方に行くと思わぬものに出合うことがよくある。私の場合は花の写真、桜や梅といった代表的なものもそうだが、節分草や彼岸花といった野草の類の花や、神社仏閣の木鼻(きばな、)を撮るのが趣味だから、必ずしも一般観光客と同じ行動パターンを取っているわけではないが、それでも結構色んなことに気付く。
 例えば有田焼に限ることではないが、かつて賑わっていた産地が観光客の減少に苦しんでいたり、岡山県北から山陰辺りには昔の町並みが随分残っているにもかかわらず、そうした財産が集客に結び付いていなかったり、同じように著名な建築家がプロデュースした美術館がありながら集客できている地方とそうでない地方がある。
それはなぜなのか−−。

 注:社寺建築で頭貫(かしらぬき)などの端が柱から突き出た部分で、象や獅子、龍などをかたどった彫刻が施されている。余談だが、木鼻の写真はかなり撮り貯めているので、そのうち専用のブログかHPを立ち上げて、紹介しようと思っている。

香川県直島VS岡山県奈義町

 瀬戸内でこの夏最大の話題は「瀬戸内国際芸術祭2010」と名付けられたアートイベントだったのは間違いないだろう。瀬戸内の小さな、過疎の島々に会期中94万人近い人が訪れたのだ。期間は7月19日から10月31日。会場は香川県直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島に岡山県の犬島の7つの島と高松港周辺。小さな過疎の島々を現代アートの舞台にしたのは初めての試みといえる。
 ここでは芸術祭の中身、例えば作品の出来や島の風景と展示物の関係がどうとかということについては論評しない。
 注目したいのは、一過性と言われようとなんだろうと、仕掛けをきちんとすれば過疎の島でも3カ月余りの間に全国から94万人近い人を集められるという事実である。

 では、アート作品を展示すれば集客できるのか。それとも著名人の作品だからか、プロデューサーが著名人だからか。
 そこで似たような条件下にある2つの例を見てみたい。
 1つは建築家、安藤忠雄氏が香川県直島にプロデュース・建築した地中美術館。
もう1つは岡山県奈義町に磯崎新(あらた)氏がプロデュース・建築した奈義町現代美術館である。
 磯崎氏が1931年、安藤氏1941年生まれと年齢は磯崎氏の方が10歳上。磯崎氏が奈義町現代美術館を建築したのが1994年で、安藤氏が地中美術館を建築したのは2005年と、ほぼ10年後なのは年齢差と似ていて興味深い。

 まず、両美術館の共通点を挙げてみよう。
1.場所が不便
 奈義町現代美術館は岡山県と鳥取県を隔てている那岐山の両麓で、那岐山を山陰側に越えれば鳥取県智頭町である。直通交通機関はなく乗り継ぎで岡山駅から約1時間40分、新大阪駅、大阪駅からは約2時間40〜50分かかり、お世辞にも交通の便がいいとはいえない。
 一方、直島にある地中美術館は香川県だが、アクセスは岡山県側からの方が近く、岡山駅から宇野港まで行き、宇野港から定期便に乗り所要時間約70分。高松港からだと定期便で約1時間かかる。

2.展示作品は3つだけ
 両美術館はともに展示作品が3人のものだけというのも奇妙な共通点だ。
奈義町現代美術館は荒川修氏+マドリン・ギンズ氏、岡崎和郎氏、宮脇愛子氏の作品で構成されている。個人的には宮脇愛子氏の「うつろい」と題した彫刻空間が好きだ。因みに宮脇氏は磯崎夫人でもある。
 一方の地中美術館はクロード・モネ、ウォルター・デ・マリア、ジェームズ・タレルの3人の作品。

 こう見てくると、両美術館は似通っているのが分かる。
もちろん違いもある。
展示作品が日本人と外国人という違いや、奈義町現代美術館は館内で写真撮影したり、作品に手を触れても問題なさそうだし(入館時に厳重な注意、管内に注意書きなし)、実際、荒川作品の展示室では子供がシーソーに乗ったり、鉄棒にぶら下がったりして遊んでいた。
 対して地中美術館は規制づくめだ。
まずチケット売り場で撮影禁止、荷物の持ち込み禁止、作品には手を触れないことなどを厳重に注意される。入館後は白服を着た怪しげな(?)人間が要所要所に立ち、様々な指示と注意をする。安藤作品の常と言ってしまえばそれまでだが、奈義町現代美術館の親しみやすさを感じた後だと、地中美術館の権威主義的な態度には苛立ちを覚える。
 
 決定的な違いは訪問者数と訪問者の地域分布である。
直島の地中美術館は週末に400〜500人訪れているのに対し、奈義町の現代美術館の方は同時期で70〜80人。多めに見ても100人未満というところ。この集客力の差はどこから来るのだろうか。
 親しみやすく、館内には喫茶室もあり、そこでコーヒーでも飲みながらガラス越しに見える宮脇作品をじっくり眺め、その後は館外に出て、那岐山をバックに美術館の全容(磯崎作品)を眺めながら、阿蘇の大自然の風景と似たものを感じ、ゆっくりとした時間を過ごす。奈義町現代美術館では、そんな贅沢な過ごし方ができるというのに。

 早い話が地の利、美術館の展示作品、建築家に、訪問者数に表れるほどの決定的な差はない。
 とすれば、他にどんな違いがあるのか。
実はこれこそが集客力の本当の違いなのだが、そのことに気付いていない地域が案外多い。
                                                 (続く)

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