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第一生命のCMに出てくる駅は(前)


 CMの力が注目されている。CMで使われた歌がヒットしたり、歌っている歌手が注目され、人気が高まる例が相次いでいる。ヒット曲の力を借りて、CMの注目度を上げるというのが昔のやり方だったが、いまは逆になっている感がある。

 ところで、第一生命保険のCMをご存知だろうか。地方の小さな駅が映像に現れ、人々が駅の中に入っていくと、気動車が画面右からホームに入ってくるCMを。第一生命によれば「知っておいていただきたいこと・風景編」ということらしい。
 通勤、通学風の人や、買い物に行く人、田舎の両親に会うため帰省していた息子家族を駅の前で車から降ろし見送る老夫婦の姿などが、ほのぼのとした感じで映像に捕らえられている。
 駅舎には「美作江見」という駅名が見える。岡山県に実在する駅で、県北東の町、美作市にある。先般帰省した時、福岡の知人から「栗野さんの田舎とは違う?」という連絡をもらうまでまったく知らなかったが、早速TVCMを見て確認。その通りだった。

 駅の写真は2月22日付けのブログ「栗野的風景」にアップしているので、そちらを一見いただきたいが、なぜこの駅がCMの撮影に使われたのだろう。
 駅は岡山県新見駅と兵庫県姫路駅を結ぶ姫新線のほぼ中間辺りに位置するが、地方ならどこでも見かけるような、大して特徴もない駅だ。
 しかし、映像撮影という観点で見ると、この駅が選ばれた理由がいくつか思い付く。

1.ロケーション
 このCMのコンセプトは「誰しもが心に宿しているような、懐かしく、大切な風景を通じて、お客さまへ安心をお届けするためのメッセージ」。
 そのためには都会の風景ではなく、あくまでも田舎の風景。多くの人が故郷に対して抱く心象風景である必要がある。つまり背景にビル群が映るような場所はまずい。できれば山か畑がいいだろう。

2.建物の古さ
 上と同じような理由でコンクリート製の駅舎よりは木造で、昭和を感じさせる、温かみのある建物がいい。
 駅舎周辺に映り込む建物もできればない方が、そこだけでイメージが完結するのでいい。そういう目で写真を見れば、駅舎前には赤いポストと、最近ではあまり見かけなくなった電話ボックス。電話ボックスの上方には「ISDN」という文字も見え、これが古さと、一昔前の先端技術を表しており、ちょうどよいノスタルジーを感じさせる。

3.ホームに入ってくる列車
 列車、それも新型ではなく旧型車両がホームに入ってくる姿が駅舎の外から見えるのがベスト。
 その点、姫新線を走っているのは電車ではなく気動車だから撮影には打って付けだ。おまけに車両は1両。
 このように美作江見駅は全ての点でノスタルジーを感じさせるのにピッタリの環境である。

4.駅前スペース、乗降客数、列車の運行間隔
 撮影という観点からいえば、さらに重要なのが乗降客数と駅前広場のスペースだろう。
 まあ大体どこでも駅前はある程度広いスペースがあるが、絵になるスペースが確保できるかどうか。列車の運行間隔はどの程度なのか。乗降客は多いのか少ないのか。
 撮影側から言えば乗降客が多すぎたり、列車の運行間隔が短いのは撮り難いはず。そういう点から言えば列車は通学時間帯を除き90分に1本。通学時間帯以外はほとんど乗降客はいないから地元住民等にエキストラを頼み、自由に、思い通りの映像が撮れる。
 恐らくこういう観点から美作江見駅が撮影場所に選ばれたのではないだろうか。
                                               (後)に続く


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