時間コストの差が売り上げ差
同じ商品を売っているのに流行っている店とそうでない店がある。
なぜなのか。
それは「地の利」が違うからだ、と言うかもしれない。
では、場所も商品も同じなら、どうか。
「品質の違い」という声が聞こえてきそうだ。
ならば、場所も商品も品質(食品の場合は味も含め)も同じなら、どうだろう。
条件が同じなら、結果も同じはずである。
ところが、現実には流行る店と、そうでない店がある。
この違いはどこから来るのか。
「ブランドが違う」という人がいるかもしれない。
たしかに、ブランドによる違いはありそうだ。
ブランド力とは何か、ということを論じると字数をかなり要するし、いままでもいろんなところで講演してきたので、ここでは省くことにする。
ただ、ある限られたエリア、時間帯に、ある数以上の人数が押し寄せた場合、ブランド力による差は出にくい。
これはオープンセールなどでもしばしば見られることだが、人数が飽和状態に達すると、それ以上の人が押し寄せても溢れるだけで、近くに同じ条件の店があれば溢れた人数はそちらに流れることになる。
それでも現実には売れる店と、そうでない店が現れる。
それはなぜなのか。
例えば博多駅構内にベーカリーショップがある。同じ構内には売店も弁当屋もあるが、このベーカリーショップはいつも客が多い。
私も博多駅ではここでパンとコーヒーを買い列車に乗ることが多い。
その理由を述べる前に、駅の構内で食べ物を買うのはどういう人達なのか考えてみよう。
朝は出勤前の人達も多いだろうが、基本的には列車に乗る人達だろう。
彼らは発車時刻を気にしているから、買い物に時間を割く余裕はない。1秒でも早く買いたいと思っているに違いない。普通なら混んでいる店は避けるはずである。
にもかかわらず、人はこのショップに吸い寄せられるように入っていく。
なぜだろう。
その答えはレジの前に立つとすぐ分かる。
店員の応対がテキパキしていて、非常に速い。
入る人も多いが、出ていく人も多いわけで、常に人が流れているのだ。
だから待たされることがない。
このベーカリーショップが売っているのはパンと飲み物だけでなく、時間も一緒に売っている、あるいはこの店の売り物は「時間」だと言った方がいいかもしれない。
言い換えれば、この店はお客さんに「時間」を売っているわけで、客の方も「時間」を買っているわけである。
売れる店と、そうでない店の最大の違いは客の「時間コスト」ということを考える視点があるかどうかである。
前号で紹介した柳川の食事処「K川」にはこの視点が決定的に欠けていた。
だから「御花」の向かい側という地の利は決して悪くないにもかかわらず店の前に行列が出来ないのである。
「待つ時間」と「待たされる時間」の違い
(2)に続く
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