前述のベーカリーショップはお客さんの時間をロスさせることがチャンスロスになるということを理解し、いかに時間ロスを減らすかという方向で行動している。
対して前号で紹介した柳川に欠けているのはこの視点である。
もう1点は忙閑どちらを常の態勢にしているかだ。
ベーカリーショップは忙時態勢を常にしているのはお分かりだと思う。逆に柳川は閑時に慣れており、忙時態勢への切り替えができない。
こうしたことは何もサービス業に限ることではなく、一般のオフィスでもよく見かける。
社員が暇な状態に慣れてしまって、一人ひとりの動きが緩慢なのだ。
若い頃には「事務所の中を歩くな」と怒られた経験がある。「走れ」と言われたものだ。
さて、それにしても最低限次のようなことはすべきだろう。
客を待たせない。待ち時間を感じさせない。
「待つ時間」には2つある。
「待っている時間」と「待たされていると感じる時間」の2種類が。
物理的(客観的)な時間は両者同じでも、主観的な時間は後者の方が圧倒的に長い。
問題は後者の時間をいかに短くする(感じさせる)かだ。
それができれば客は喜んで、何時間でも平気で待つものだ。
順番待ちの間にメニューを見せ、注文を先に聞いておくのは、前者の客観的な時間を短縮する方法で、いわば基本中の基本。まあ、前出の「K川」に限らず、柳川ではほとんどの店がこの基本すら出来ていなかったが。
重要なのは客の主観的な時間、「待たされていると感じている時間」をいかに短縮できるかである。
そう難しい話ではない。
ちょっと工夫しさえすれば、どこでも、誰でも出来る。
そしてそれができれば売り上げは間違いなく3倍になる。
サービス業の「サービス」とは
最後にサービス業という場合の「サービス」とは何かを考えてみたい。
価格を下げることか。それもサービスの一つかもしれない。
お土産を持たせることか。それもサービスだろう。
笑顔を絶やさず、温かくお持てなしをすること。それも一つだろう。
こうして挙げていけば切りがないので、一つヒントになる言葉を挙げておこう。
店に入ってきた客が何も買わずに出ていったのを見て、イトーヨーカ堂の伊藤雅俊相談役の母堂、伊藤ゆきさんが社員と交わした言葉である。
「いまのお客さまはなぜ帰られたの」
「御希望の品が無かったものですから」
「そんな時は代わりの品を見つけてお薦めしなさい。それもなければ置いてありそうなよその店をお教えしなさい」
似たような話は外食チェーン、ロイヤルの創業者、故江頭匡一氏にもある。
彼は客が食べ残していくと、その食べ残しを食べてみたそうだ。
なぜ、あの客は食べ残したのか。味がまずかったのか、それともただ単に腹一杯だけだったのかを自分の舌で確かめるために。
いまロイヤルといわず外食産業の中でここまでする社員はいないだろう。
その代わりに行っているのがマーケティングやマーチャンダイジングという横文字である。
チェーン理論も重要だが、その前に「サービスとは何か」ということを考えてみることが必要ではないだろうか。
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