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「PCR検査の拡大に賛成、反対。医師の見解も分かれる」〜読者から


栗野的視点(No.684)                   2020年5月10日
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「PCR検査の拡大に賛成、反対。医師の見解も分かれる」〜読者から
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 今号は読者の寄稿をお届けします。
今回のCOVID-19の対応を巡っては意見百出、専門家の意見も分かれているようです。
徐々に冷静な判断が出来るようになるのかと思っていると、医療現場の疲弊は増すばかりで、どうも各種データを冷静に分析するパワー、勢力は力を得ていないようです。そもそも基礎データがきちんと出されていないということが問題なのでしょうが。
 アビガンの使用も急がれているようですが、短兵急でいいものかどうか。
そもそも効果が認められたという報告は感染初期段階の人で、それをもってCOVID-19への特効薬のように捉えるのは危険だと考えますが、今は「早く認可しろ」「どこでも使えるようにしろ」という声ばかりで、リスクを指摘する声は上げにくくなっています。
 さて、今号は読者から届いた寄稿をお届けします。

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栗野さん、お早うございます。G.W中は晴れ間も多く、絶好のドライブ日和が続いていましたが、さすがに今年は私も自粛・自制して、散歩がてら近隣のスーパーに食材を買いに行く程度でガマンして過ごしました。

ところで、先日の「視点」で栗野さんが指摘しておられた、「何のデータを重視して、得られたデータを何のために・どのように分析するかが重要」というご意見。私は、新型コロナのPCR検査数を本当に増やすべきなのか…ということに関心があり、あの首相が『1日の実施数を現在の倍の2万件に増やす』と公言した4月6日以降、過去の取材で信頼に足る医師と考えている感染症専門医や疫学研究者6〜7人に、電話や対面でPCR検査について意見を聞いてみました。

すると、検査に関しては医師の間でも意見が真っ二つに分かれており、「とにかく検査数を増やし、敵(コロナ)のおおよその勢力を見極めないと適切な戦略が立てられない」という考えの医師と、「検査数を増やせば増やすほど、医療現場が混乱する。本当に検査が必要と医師が判断した人だけを検査すべき」という考えの医師がいることが判りました。

「検査数を増やすと医療現場が混乱する」というのは、検査が忙しくなるとか、感染判明患者が増えて医療機関がパンクする…と言う意味ではなく、治療の必要が全く無いのに保健所や医療機関が観察・管理せねばならない「偽陽性」の判定者を増やすことに、何の意味があるのだ…ということです。

報道では、「日本のPCR検査は『感度』が非常に優秀なので、症状が無くても感染している“隠れ感染者”を探し出せる。その分、感染経路不明の流行を防げる」「だから、検査を受けたい人はどんどん検査できるよう、国は力を入れるべき」という意見ばかり唱えられています。
しかし、検査を増やすことに反対している医師たちの意見は、「『感度』なんて関係ないんですよ、『特異度』と『適合度』を考えなきゃ」というものでした。

ざっくり言うと、「感度」は実際に感染している人を「陽性」と判定できる確率、「特異度」は感染していない人を「陰性」と判定できる確率、「適合度」は陰性または陽性と判定された人が、実際にその通りである確からしさです。

医師会発表などでは、日本で行われているPCR検査の感度は約70%、特異度約99%とされていますが、適合度は「本当に陽性(または陰性)の人数÷(陽性+偽陽性/または陰性+偽陰性)」なので、検査を受ける人の有病率が低くなる(つまり、検査の必要が無い人の受検数が増える)ほど低くなります。

国内のコロナ有病率は現在、1万人あたり1.3人、“それと同じかそれ以上の隠れ感染者がいる”という発表を信じて、有病率を多めに1万人あたり3人と仮定して、ランダムに抽出した日本国民10万人にPCR検査を受けさせたとします。そうすると、検査を受けた10万人のうち本当に感染しているのは30人です。
感度70%ですから、30人の感染者のうち21人は正しく陽性判定が出るものの、9人の陽性見逃しが発生します。その人たちは、高熱や呼吸障害などの症状があれば、コロナ以外の肺炎疑いで入院し、その後、コロナ陽性が判明するかもしれませんが、無症状であればこれまで通りの生活を続けるでしょう。

一方、特異度99%ですから、感染していない9万9970人のうち約9万8970人は陰性判定が出るものの、残る約1000人が陽性の判定(偽陽性)になります。結果として、適合度は3%弱です。
「検査を受けたい人はどんどん検査」のような検査体制にしてしまうと、検査を受けて本当にコロナに感染しているかどうかが判る確からしさが3%程度になり、本当の感染者の30倍以上の偽感染者を作りだし、その分、医療機関の負担が増える、だからPCR検査は「医師が必要と判断した人だけ」にせよ…というのが、検査拡大反対派の医師の総意のようです。

とは言え、偽陽性や陽性見逃しを抑えるため、「医師が本当に検査が必要だと判断する」のを待っていると、その前に命を失ったり、検査する意味が無いほど重症化する人も増えることになるでしょう。

さて、検査数の拡大に賛成すべきか反対すべきか、自ら首を突っ込んだ取材テーマではあるものの、私自身も確たる意見を述べる自信がなくなりつつあるところです。

ほり編集事務所
堀 辰也



 


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