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キャッシュ・フォー・ワークで被災地支援を(1)
〜被災地の障害者に職住セットで支援の手を差し伸べる


被災地の障害者に職住セットで
支援の手を差し伸べる


 震災以後、この国の将来を悲観する声をよく耳にする。しかし、逆説的に聞こえるかもしれないが、私はむしろある部分で「希望の光」を感じている。パラダイムシフト(社会全体の価値観の変化)とまでいえるかどうかは別にして、今年になってから社会の潮目が少し変わりつつあるような気がするからだ。
 それまで社会にはびこっていた自己中心主義的な行動、新自由主義的な考えから社会的弱者に手を差し伸べる動きが散見されだした。象徴的なのは年初に湧き起こった「タイガーマスク運動」である。それが3.11東日本大震災以後さらに広がりを見せ、各地でボランティア活動を含めた様々な被災地支援の動きが広がっている。
 希望は、それまで社会や他者との関わりが希薄だと見られがちだった若者達が積極的に募金活動やボランティ活動に従事しだし、社会や他者に関わりだしたことだ。

 被災地支援の輪は様々な広がりを見せているが、当初多かったのは自治体等による宿泊施設の提供である。九州の各県もいち早く被災者の受け入れを発表した。そのニュースに触れながら、私は首を傾げていた。たしかに住宅を失った人にとって住まいを提供してもらえるのはうれしいことに違いない。しかし、失ったのは家だけではない。何もかも失っている。早い話が手持ちの現金はおろか、貯金通帳も印鑑もない。移動手段も移動資金もない人達に、ここまで来れば宿泊施設を提供しますといっても難しいだろう。結局、そこまで行けるのはある程度余力がある人で、本当に助けが必要な人達には支援の手が届かないという、支援の不平等、支援の二極化現象が生まれている。
 また、被災者はできるだけ居住地から離れた所には行きたくないと考えていることがある。離れるにしてもそれほど距離がない所、時々様子を見に帰れるぐらいの距離の場所を望むのは誰しも同じだろう。阪神淡路大震災の時にも見られたが、被災地を離れるとその後、行政の支援が届かなくなることもある。
 それでも仕事があればまだなんとかなる。要は仕事を提供できるかどうかが、長期的な支援を行えるかどうかに大きく関係してくる。たが、このところ職住をセットで提供しようという動きが各地で現れているのは心強い。

 例えば(株)吉備NC能力開発センター(岡山県加賀郡吉備中央町竹部1973、tel 0866-56-8282)は3月下旬という比較的早い段階で被災者の受け入れを表明していた。
 同社は産業界で即戦力として通用するよう、身体障害者に2年間、技術の習得をさせる企業である(詳細は「九州・岡山の技術」「ワイヤ加工機を自在に操り、ミクロン単位の精密加工をする吉備NC能力開発センター」として紹介しているので、そちらを参照)。
 訓練生の通常募集はすでに終わっていたが、被災地支援のためになにかできないかと片山雅博社長が考え、別枠で訓練生の募集を継続することにしたのだ。身体障害者は被災者の中でもさらに弱い立場に置かれている。どうかすると二重被災の可能性もある障害者にいち早く支援の手を差し伸べたのは素晴らしいことだ。
 対象は被災した身体障害者だが、同センターに入所すれば2年間訓練手当をもらいながら新しい技術が習得できる。しかも、今回は住居として片山社長の実家を1年間無料で提供するという。実家は片山社長のご母堂がお住みになられていた場所で、水道、電気はもちろん台所用品家具も揃っているので、そのままですぐ生活できるとのことだ。

 このように住まいと仕事をセットで提供しようという動きは中国地方の他の企業でも見られ、衣料品販売のクロスカンパニー(岡山市)は100人を被災地から正社員として採用した。住居費や引っ越し代などは会社が全額負担し、希望すれば1年後には東北地方の店舗に転勤もできるという。
 また福山通運(広島県福山市)は約300人を正社員として採用する予定で、まずトラックの運転手約120人採用の募集を行なっている。しかし、応募者数は採用予定枠には届いていない。
 それには次のような理由が考えられる。
1.高校や大学の新卒かそれに準じるような若者は域外就職にも応じるが、それ以外の人は地元を離れられない。
2.被災住居などの後片付けがある。
3.家族、親族など身内に高齢者がいれば、彼らを残して遠方に転居できない。
4.コミュニティーの中で助け合ってきた人達が、コミュニティー内の他の人達を残し自分だけ抜けだしにくい。

 要は地域や人との関係が濃い生活をしてきた人達ほど地元を離れにくい。では、どうすればいいのか。解決策は地元で働ける場所を提供するのが一番だろう。その点で注目すべきなのが「キャッシュ・フォー・ワーク」という考え方だ。
                                                (続く)



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