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迷走するベスト電器、再生はなるのか(2)


接客の質が落ちた

 話はちょっと脇道に逸れるが、この数年、私がほとんど使用しなくなったカードがある。それはベストカード(Nicosとの提携カード)とダイエーカード(OMCカード)である。ともに長年使用していたカードであり、両社から優良会員に位置付けられていた。
にもかかわらず、なぜ使わなくなったのか。
理由は簡単。両店で買い物をほとんどしなくなったからである。
 では、なぜベスト電器で買い物をしなくなったのか。それには2つの理由がある。
1.価格の問題
2.販売員の接客サービスの問題

 平成11年にビックカメラが福岡・天神に進出して以降、ベスト電器の戦略は何度か揺れ動いている。
 価格競争に巻き込まれるのを避け、アフタサービスの充実で差別化を図る戦略を取ったかと思えば、価格面でも受けて立つ方向へと、まるで振り子のように何度か揺れ動いた。
 問題はいずれもが中途半端に終わり、特に価格面ではビックカメラやヤマダ電機との差別化を打ち出せず(浸透できず)、結局、消費者の間に「ベスト電器は高い」というイメージが広がってしまった。
 では実際にベスト電器は高かったのかといえば必ずしもそうではない、あるいはそうではない時期もあった。しかし、ポイント割り引きが購入したその日に使えないとか、1円単位で使えないというようなこともあり、消費者の間に「ベスト電器は高い」というイメージがほぼ定着してしまった。これは大いにマイナスだった。

 かといって、サービス面での差別化が図れたかというと必ずしもそうではなかった。
なかでも問題なのは接客サービスの低下である。
 ベスト電器とビックカメラ、ヤマダ電機、ヨドバシカメラの販売員を比べると(福岡の場合)、平均年齢はベスト電器が圧倒的に高い。つまりベスト電器は人件費比率が他店より高いということだが、そのことはマイナスばかりではない。経歴の長い販売員がいるということはそれだけ商品知識が「豊富なはず」であり、接客マナーも「上回っているはず」で、それはベスト電器の「武器でもあるはず」だった。
 ところが、これがプラスに働かなかった。売り場に人数が少ないということもあるし、暇な状態に慣れてしまったということもあるのか、とにかく販売員が客の側に行かない。呼ばれないと行かないいのでは商品が売れるはずがない。
 その点、販売員の年齢が若い他店の場合、しばらく商品を眺めているとすぐ販売員が寄ってきて「ご説明しましょうか」と尋ねてくる。
 高等な販売テクニックなど彼らは持ち合わせていないし、客の方もそういうものまで要求していない。ちょっと説明して欲しいなと思っている時に一声かけてくれるかどうかなのだ。
 この「一声」がベスト電器になくなって久しい。これでは客離れを起こすのも当たり前だろう。

対立した2つの意見

 スリム化か営業強化か−−。
再建の際、常に問題になるのがどちらにウエイトを置くかだろう。
多くの企業はスリム化にウエイトを置いてきた。ダイエーも、日本航空も。
 そういう目で今回のベスト電器を見てみると、深沢政和前社長が財務畑で、井沢信親前専務は営業畑。両者が再建策を巡り対立したというのは容易に想像が付く。
 先に仕掛けたのは井沢氏のようだ。
リストラ人事は後ろ向きの対策だ。現場に人がいなくなれば売り上げは減少する。いくら出る金を減らさなければならないといっても、入ってくる金が減れば借金だって返せないではないか。
 営業畑の人間がそう考えるのは当然だろう。
対して財務畑の人間はまず経費を減らすことを考える。売り上げが減っているんだから、リストラして身軽にするのが先決、と。
 問題は金融関係がどちらを支持するかだが、金融筋は不確実な営業強化策より、確実に目に見えるリストラ策を支持するのは過去の例からも明らかだ。

 今回の場合、代表権を得た井沢氏が積極策に打って出た。
代表権を得た2月以降の氏の言葉を拾うだけで、そのことがはっきりと分かる。
「営業戦略の抜本的な立て直しが必要だ」「全体の売り上げが減っても各店舗がその商圏で一番店になることを目指す」「今、勝ち残っているのはディスカウンター。ベスト電器は高いというイメージを取り払わないといけない」
 籠城作戦ではやがて矢も尽き、食糧も尽きる。ここは開城して戦うべきだ−−。
この議論は過去、大阪城を始め幾度となくなされてきた。その度に一見確実に見える籠城作戦が大勢を占め、結果落城している。
 リストラ一本槍の縮こまり思考ではダメだ。攻撃こそ最大の防御、と考えた井沢氏は積極策を取ろうとした。その場合、リストラ策重視の深沢氏の存在が問題になる。
 こういう場合に取り得る常套手段は取締役会での解任である。しかし、その動きは深沢氏達に気付かれることになり、逆に先手を打たれたというのが事の顛末だろう。鍵を握るのが金融機関等の支持だが、それを得られなかったのが井沢氏の失敗だが、少し性急に事を運ぼうとしすぎたかもしれない。裏を返せば、それだけベスト電器は厳しい状況にあるといえる。

本店売却はあるか

 さて、ベスト電器の将来はどうなるのか。
そのことについてはすでに10年前から私がいろんなところで書いたり喋ったりしているので、思い起こして欲しい。
目にしたことがない人も、ここまで読めばおよその見当は付くだろうが、1つだけ示唆しておきたい。
 今後、ベスト電器の単独生き残りはなく、ビックカメラの傘下で生き残ることになるしかないだろう(全国制覇をなしたヤマダ電機にとってベスト電器はもはや絶対結婚したい相手ではなくなっている)が、その前後に天神の本店は売却されているだろう。あるいは売却すべしというのが私の意見だ。
 少なくともビックカメラの傘下で経営再建するなら、あの場所に店舗は要らない。天神の人の流れは西側に移っているし、今後ますます西側が中心になる。とすれば東側に位置する現在のベスト電器本店の方に人が流れることはない。またビックカメラの1号店、2号店が近距離にあり、ビックカメラグループとして天神に3店舗も持つメリットはないだろう。
 しかし、店舗魅力はなくても不動産的魅力はまだある。
リストラ策としていますぐ実行してもいいぐらいだが、果たしてそこまで踏み切れるか。
 いずれにしろベスト電器に残された時間はそう長くはなさそうだ。
                                                 (完)


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