「継続は力」というが、「そこぬけ光房」代表の執行生滋さんにはこの言葉がピッタリ来る。
私が彼に最初に会ったのはもう10年ぐらい前になる。
その頃彼は福岡市が百道浜に設けたインキュベーションに入居するベンチャー企業で、家庭用蓄電システムの開発を目指していた。
電気は素晴らしいエネルギーだが、唯一の欠点は「貯めることができない」こと。
そのため常に作り続けなければならない。こんなムダなことはない。貯めて使うようにすべきだ。しかも、それは一般家庭でこそ必要だ。
彼は会うと、よくそう話していた。
ところが、システムのある箇所の開発を依頼していた企業が突然「突然」降りたことから、先に進まなくなった。他社にもいろいろ当たったが、代わりに開発をしてくれるところが中々見つからなかった。
その余った時間を潰すように、彼はガラスビンの底に穴を開け、中に小さな電球を入れたボトルランプを作り始めた。ほのかな灯りに照らし出される世界に、やすらぎと癒しを求めるかのように。
「ガラスビンの底にきれいに穴をあけるのは結構難しいんですよ」
尋ねていった私に彼はよくそう言ったものだ。
薄いガラスビンはすぐ割れるし、分厚いビン(その頃彼は洋酒の空きビンを再利用していた)に穴を開ける工具はなかった。ビンが厚すぎてカッターの刃の方
がすぐ壊れるばかりか、寸法通りに、きれいな形で切るのはそうたやすいことではない。もちろん、高価な加工機械を使えば可能なのだろうが、趣味でいくつか
作るものにそこまで高価な加工機械を使うことは考えられない。
それでも結局、知人の超音波加工機を借りてガラスビンの底をくり抜き始めた。
その一方で本来の事業の方は中断したままで進まなかった。代わりにその箇所を開発してくれそうな会社を私も紹介したりしたが、思うようには捗らず、時間ばかりが過ぎていた。
そして、ついに決断した。資金不足もあり、事業継続を断念する道を選んだのだ。
彼からその話を聞いた時、私は彼の決断を支持した。仮にここで多少の資金を手当てしても、コア部分の開発のメドが立たない以上、事業化に何年かかるか分からなかったからだ。
翌年、彼はタクシードライバーになっていた。そしていまも同じ会社で乗り続けている。
以来、私はタクシーを利用する時は必ず彼の携帯に電話し、彼のタクシーに乗るようにしているが、ある日、彼が私に小さなアルバムを差し出しながらこう言った。
「やっとここまで出来ましたよ」
そこには何種類かのボトルランプが写っていた。
なんと彼はその後もボトルランプを作り続けていたのだ。
「これって最近作ったの?」
「そうですよ。あの後も少しずつ作り続けていたんですよ。かなり思い通りのものが出来るようになりましたけど、もう少しですね」
「作るって、タクシーに乗っているでしょ。いつ、作るの」
「休みの日ですよ」
「そりゃあ大変だ。でもスゴイね」
聞けば、天神の雑貨ショップにも置いてもらっているようで、1つ、2つは売れたとのこと。
だが本格的な販売はもう少し先になりそうで、まだいくつか解決しないといけない問題がある、と言っていた。
「ここまで来るのに随分時間がかかりましたから、もう少し時間がかかってもなんということはありませんよ。じっくりやります」
それから数年後−−。
今年、「アロマボトルランプ」の写真と「底抜け光房」という文字が入った年賀状が届いた。
それはなんとも幻想的な光景だった。
暗闇の中で黒いビンの周囲に描かれた絵が光で浮き上がるのだ。
それだけでインテリアとしての役目は十分果たしている。
しばらくすると、アロマのほのかな香りが室内に漂ってくる。
光と香りで1日の疲れが癒され、リラックスしてくるのが分かる。
アロマランプといえばアルコールを燃やす型のものが多いが、
1.これは電球の熱でアロマオイルが溶け、香りを発していく仕組みであり、火を使わないので火災等の心配がないのが一番である。
2.アロマオイルはビンに入れられた水の中に適量垂らす方式のため、香りの濃度が調整できる。
3.ビンに水を入れるというと、電気との関係を心配する人がいるかもしれないが、実は電球と水は直接触れないから安全。
彼がビンの底をきれいに切り抜くことにこだわった理由の一つはここにもあるのだ。
4.ビンの周囲に描く絵は自作のオリジナルで作れるし、デジカメ写真などを貼り付けてもいい。
絵はビンを削って描くエッチング。
当初は洋酒の空きビンを再利用していたが、常に一定数を確保するのが難しいため、現在はガラスビン業者から黒いビンを仕入れて使用している。
黒いビンといっても材料そのものが黒くては光を通さないのでランプにならない。そのため透明なビンを黒く塗るわけだが、塗り方にムラがあると光が漏れるので、表面を黒く塗ったビンを仕入れることにしたのだ。
とにかくここまで超スローペースで来ている。
タクシーに乗務しながらだから仕方ないとはいえ、そうしたハンディを逆手に取り、小ロットでも作り置きして販売する方法を取ろうとしないところが面白い。
これは逆転の発想で、手作りで、オリジナルという点にこだわり、不利な条件を有利に変えたといえる。
ガラスビンの周囲に描く絵は客から提供してもらい、それをエッチングでガラスビンに描いて(削って)いくから、まさに世界に一つしかないオリジナル作品のボトルランプだ。
しかもエッチング加工はプロとのコラボレーション。作品の質にもこだわり、レベルの高い製品に仕上がっている。
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