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 地方を旅すると時々面白いものに出合う。「面白い」というのは興味を惹かれるとかユニークという意味で、それは物だったり人だったりするが、そんなものに出合うと、うれしくてつい時間を忘れてしまう。今回もそうだった。
大原総合支所前のカタクリの花 この日、白いカタクリの花を撮るため、午前中に兵庫県佐用郡佐用町まで出かけたが、カタクリの花はすでに散ってしまったようで、敷地入り口の扉も閉まっていた。Uターンして帰ろうとした時、やはりカタクリの花を見に来たと思しき熟年夫婦が乗った車がゆっくり通り過ぎて行った。少し首を傾げている風に見えたので、場所を迷っているのかと思い、よせばいいのにまたまたお節介虫が首をもたげ、その車を追いかけ、信号で停まった時に声を掛けた。
 カタクリの花を見に姫路から来たが、もう終わっていたみたいですね、と言う。せっかく来たのに空振りで帰るのも気の毒と思い、同じ町内の他の場所にもカタクリの自生地があり、そちらはまだ咲いていると教えてあげた。地名と大体の方向は教えたが、カーナビは持ってないとのことだった。まあ大丈夫だろうと思いつつ自分の車に引き返すと佐用町の地図を2つ持っていることに気付いたので、再び追いかけて1つをあげた。我ながらつくづくお節介だと思う。

 空振りだったのはこちらも同じで、仕方なく行き先を津山北部の桜に変更。その前に腹ごしらえをと思い、途中、美作市大原でレストランに入る。岡山県内地図を見ながら、目的地の津山市畝(うね)を探すが見つからない。ネットで見た地図の記憶では津山市尾所(おそ)の桜の近くだったが、いくら地図を眺めても畝の地名がない。やむなく、近くの席で食事をしていた4人組に声を掛けた。
「済みません、津山市畝というのはどの辺りか知りませんか」
「この辺の人間ではないから」と、その中の一人が言いながら、それでも他の人に聞いたり、挙句には友人に電話までして尋ねてくれた。だが、誰も知らなかった。
 もしかすると地名間違いか、記憶間違いか。そんな不安が少し頭を過る。しかし、尾所の近くだったのは間違いない。メモしなかったことを後悔したが、元々その日はカタクリで、桜は予定に入ってなかったのだから仕方ない。
 後程、帰宅して調べ直して分かったのは「岩井畝の大桜」(真庭市)と、津山市加茂町黒木・レイクパーク加茂の桜の混同だった。

「桜の写真を撮って、あちこちに行かれてるんですか」
「はい、ここに来る前は佐用町にカタクリの花を撮りに行ってました」
「カタクリ? カタカゴか。もののふの八十娘子(やそおとめ)らが汲み乱(まが)ふ寺井の上の堅香子の花、か」
「堅香子(かたかご)」はカタクリの古語で、万葉集に上記の歌が見られる。詠み人は大伴家持。
 この歌を知っている人はよほど歴史かカタクリに詳しい人だろう。
                           (2)に続く

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