ガスタービンから発電所関連、MRIまで
大物の複雑加工、難削材加工を得意とする
同社の歴史は明治25年、打刃物鍛冶がスタートというから100年超になる。ただ、社歴の長さそのものが自慢になるわけではない。むしろ社歴が長いが故に時代の変化への対応が遅れたり、過去の成功体験から脱却できずに衰退の憂き目を見ている企業は数え上げればきりがない。歴史の長さではなく、経営力、技術力、先見性等の中身こそが問われる。
その点、同社は時代の変化に対応しながら、その時々で注力する分野を変え、技術を磨いてきた。例えば戦後すぐ、それまでの打刃物鍛冶から船舶の焼玉エンジンの設計・製造へと分野を切り替えているし、昭和40年代には石川島播磨重工業(現IHI)の造船部門、50年代後半には鋳造部門や火力発電関係に、年号が平成に変わる前後にはガスタービンや発電所関連部品、さらに最近は風力発電装置、医療機器MRIなどと、常にその時代の中心的な分野で仕事をしている。
逆の言い方をすれば、だからこそ100年を超える歴史を誇れるのだろう。もし、焼玉エンジンの成功で地方のエンジンメーカー(当時、周辺地域でシェア50%以上を占めていた)の地位に安住していたなら現在の同社はなかっただろうし、昭和40年代の造船景気に酔いしれ、技術革新や時代の変化への対応を怠っていれば、やはり現在の同社はなかったに違いない。
かといって、同社は「なんでも屋」ではない。切削加工という技術を中心に据えて技術力を磨き、ノウハウを蓄積している。
平成15年3月、IHIが国内初の船舶用電子制御式燃料噴射ディーゼルエンジンを開発したが、それを可能にしたのも竹田鉄工所の切削加工技術だった。
「大概の会社なら腰が引ける仕事だ」
二つ返事で引き受けた竹田に、IHIの担当者は半ばあきれながらそう言った。
実はこの方式のエンジンはIHIが開発するまでに国内では4回開発に失敗した、いわばいわく付きのエンジンだったのだ。
従来の船舶用ディーゼルエンジンとは異なり、コンピューターで燃料の噴射量、噴射タイミングを制御していく方式のため、エンジン内部の形状が非常に複雑な上、わずかの狂いも許されない高い加工精度が要求された。そこにもってきて失敗の連続である。他社が二の足を踏むのも当然だった。ところが、竹田鉄工所は二つ返事で引き受けたのだから、担当者も当初は結果を多少疑問視していたかもしれない。それが先程のような言葉になったのだろう。
「うちなら大丈夫です。できます。一緒に行った工場長が私にそう言いましたから」
竹田は笑顔で当時をそう振り返った。
それから間もなく国内初の船舶用電子制御式燃料噴射ディーゼルエンジンが完成し、同社の技術力の高さが改めて実証されたのである。
IHIから同社に上記エンジンの話があったのは本を正せば昭和40年代からの取り引き、とりわけ火力発電関係の部品はほとんど同社が受注するなど、「竹田」の技術と品質に対する実績と高い評価があったからにほかならない。
「設計図なしでうちの機械を分解・組み立てた
企業は他にない」と機械メーカーが舌を巻いた
それにしても同社の技術力の高さはどこから来ているのか。
工場内はベテランの熟練工中心かと思いきや、20代、30代の若手社員が多い。特に07年3月完成の新工場(敷地面積約2万平方メートル弱、工場約5,000平方メートル)は若い社員が中心。「彼らがいい仕事をしてくれます」と、竹田もうれしそうに語る。こうした若手社員がMRIやガスタービンの静翼環など、高い品質を要求される仕事を次々にこなしており、そこに同社の特徴の一つがある。
「うちは機械の組み立て・加工まですべて自社でできますから」
中ぐり作業もできる高速、強力機の代名詞といわれた大隈鉄工所(現オークマ(株))のラジアルボール盤を図面なしで分解・組み立てたこともある。その時は大隈鉄工所から「そんなことができたのは日本中で1社あるかないかだ」と驚かれた。こうしたことを通して先輩から後輩へと社内で技術が受け継がれている。
「実は加工法案をつくることが重要なんです」
そこがノウハウなのだと竹田は言う。
発注先の大手企業も大まかな加工手順は書いてくれるが、細かいところまでは書いてくれない。そこで社内で独自に加工手順を記した「加工法案」を作り、作業を進めていく。これが工期短縮にもつながっている。
また薄物のリングを速く加工できるようなツールも独自に開発。一定の肉厚を保ちながら丸く削るのは難しいとよくいわれるが、同社では直径2400mm、肉厚5〜6mmの薄肉リング加工も難なくこなす。
最近は、航空機部品の共同受注を目指す、岡山県内の企業ネットワーク・ウイングウィン岡山に加入し、航空機関連分野への進出にも力を入れている。東大阪市の町工場が集まって今夏、打ち上げる予定の小型人工衛星「まいど1号」の衛星搭載部リングや、H2Aロケットの補助タンクの加工・製作などすでに実績も出しつつある。今後が楽しみな企業である。(文中敬称略)
(文責:ジャーナリスト・栗野 良)
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