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栗野的流通戦争の読み方(2)
販売力の回復が問題


 鳥栖には本格的なアウトレットモール、粕屋郡には大型ショッピングモールのオー
プン、さらに天神では岩田屋本館の移転・オープンと、この1年、流通小売業を巡る
競争は激化している。
 そして、流通戦争を見る目も勢いそうした大型施設のオープンに向きがちだが、後からオープンした施設の方がハード面では圧倒的に有利なのは言うまでもない。
そのため、先発施設はエリア内で圧倒的に広大な施設をオープンして、しばらく追撃をしのぐしかない。
それでも2〜3年、うまくいって3〜4年の猶予しかない。
必ず後からそれ以上に大型かあるいはそれに匹敵する大きさの施設を近隣にオープンさせるからだ。また先発組もリニューアルで対抗してくる。結局、ハード面で圧倒的に有利さを保つことはいずこもできないのだ。


 となると、結局、ソフトが勝負ということになる。
ソフトといえばすぐMD(マーチャンダイジング、商品の供給について品目、価格、
時期、数量などを消費者の需要に適合させるための計画)と言われる。
 たしかにMDがきちんと行われるかどうかで売り上げは随分変わる。
だが、これもPOSみたいなもので、機械に頼りすぎると肝心なものが見えなくなる。
消費者を見ようとして、逆に消費者が見えなくなるというパラドックス、二律背反に
陥るのだ。
それはPOSにしろMDにしろ、データを解析・分析するのは人間だからである。
データはそれ自体では役に立たない。分析して初めて役立つのであり、データの分析を間違えれば答えが正反対になることもある。

 面白い例えがある。
昔、ある靴メーカーが市場調査のため、ある国に営業マンを2人派遣した。
帰国した2人の報告は誰一人靴を履いてないだった。
ここまではデータである。
ところが、同じデータに基づきながらも、その後の2人の報告は違っていた。
1人は「誰も靴を履いてないような国では靴は売れない」と報告し、
もう1人は「誰も靴を履いてないから、もし1人に1足靴を履かせるだけですごい数
の靴が売れる」だった。
同じデータに基づきながらも2人が引き出した答えはまったく正反対になったのだ。
 このような話は多い。
何かをする時に、すぐそれはダメだと言う人と、どうすれば売れるか(できるか)を
考えようとする人がいる。
必要なのは後者の考え方だろう。


 話を元に戻そう。
流通戦争を制するのはハードやMDでなく、最終的には人間だということである。
最近の流行りで表せば「人財」となる。
ところが、である。
「人財」どころか、「人在」になってしまっている光景をあちこちで目撃する。
そこにいるだけの「人在」なら機械を置いておく方がまだ増しだろう。
例えば接客のプロ(?)と言われるデパートでさえ、最近は「人在」に成り下がって
しまっている。
客が商品を選別していてもアドバイスどころか声も掛けない。
では何をしているかといえば、帳簿を付けたり、商品を入れ替えたり、要するに接客以外の他のことをしているのだ。
まるで客の動きを見ていない。
だから呼ばないと来ない。
あるいは呼ばれて初めて客の側に行くものだと思っているのかもしれない。
こういう光景を見ると私などはイライラする。
代わりに接客して販売してやろうかと思うほどだ。

 私が社会人になってした最初の仕事は小売りだった。
その時、社長から商人とは何かを徹底的に叩き込まれた。
青年実業家にするという名目の下、何も教えない、俺の頭を盗め、と言われ、在籍中は3時間ただ働きをさせられた。いや、した。
宮崎営業所を開設した時、売り上げ予算がいかずに、会社の予算の立て方がおかしいと楯突くと、社長から「一言聞くが、おまえは真剣や」と言われ、それから接客方法、商品の陳列、店作りを徹底的に勉強し販売した。
結果は予算をはるかにオーバーした売り上げを上げ、所長会議の時、先輩所長達から「どういうやり方をしているんだ」と聞かれ、「社長に言われた通り、基本に忠実にやっているだけです」と答えたものだった。
 顧客心理を勉強し、客の動きから目を離さなければ、その客が何を求めているか、いま何をしてもらいたいかが自ずと分かってくる。
そうすると店内に入った客は100発100中で、相手が求めている商品まで分かる。
だから、私はいまでも店頭販売をさせれば、ある程度売る自信がある。
少なくとも客を無視して私語を交わしているB電器の販売員や、帳簿付けを仕事と勘違いしている天神の某デパートの社員達よりは。


 ヤマダ電機、ビックカメラ、ベスト電器を比べてみよう。
一時、価格ではベスト電器が他2社に負けていたが、最近は安値では決して負けていない。それどころか商品によってはベスト電器の方が安いこともある。
にもかかわらず、ヤマダ電機、ビックカメラの方が安いというイメージがあるのは、
一つにはポイントのせいである。
ポイント還元率もあるが、それよりはポイントを使う時にベスト電器はケチだなとい
う印象を与え、こうしたことがトータルとなってベスト電器は高いという印象を顧客
に与えているのだ。
 ポイントを使用して買い物をする時、ビックカメラは16,000円でも800円でも、す
べてをポイントで購入できるのに対し、ベスト電器は500円単位でしかポイントを使
えないから、16,000円の商品を買う場合は15,000円をポイントで交換し、残り1,000
円は現金で払わなければならない。
同じように800円の場合はポイントで500円、残り300円を現金でとなる。
この辺にベスト電器のセコさが見て取れる。

 販売員の態度に至ってはもっと差がある。
ヤマダ電機、ビックカメラは以前ほどではないにしても、客が熱心に商品を見ていると必ず販売員が寄ってきて「何かお探しですか。説明いたしましょうか」と言う。
これを煩わしいと感じる客もいるかも知れないが、大概の場合は大助かりで、説明を聞いて買うことになる。
客は迷うものであり、自分で振り子を止められないのだ。止めるのは販売員の役目である。
 実際、私などは買っても買わなくてもいいと思っている商品でも、販売員が上手な
説明をすると、その説明に免じてつい買ってしまう。
逆に買う予定で行っていても、販売員がいつまでも説明に来なかったり態度が悪いと買わずに帰ってしまう。
 つい先日もビデオカメラを買いに行ったが、一生懸命に商品を見比べているのに、すぐ側で社員と販売員が雑談を交わしながら「いらっしゃいませ」の一言も言わないどころか、すぐ横に来て商品で遊んでもこちらの客には声を掛けないものだから、とうとう買わずに帰ってしまったものだ。
まるで客に声を掛けられるのを怖がっているかのようだ。
こうした現象は一時期の岩田屋Zサイドにも見られたが、伊勢丹の傘下に入ってからこうした態度は消えた。


 バブル期は「失われた10年」とよく言われるが、失われたのは商売の基本である。
「いらっしゃいませ」と言うのはいろはのいである。
そしてしばらく客の動きを目の端で追い、客が迷っていると感じれば静かに側に行き「○○をお探しでしょうか」「お客様にはその色はとってもよくお似合いですよ」な
どと声を掛けるだけでいい。
別にコンサルティングセールスをしろとまでは言わない。
せめて上述の声を掛けるぐらいでいいのだ。
ヤマダ電機にしろビックカメラにしろ、その程度のことしかしていないのだ。
でも、それが販売に結びつくのである。

 ものが溢れ、欲しいものがなくなった今、売り上げアップに必要なのは販売技術の向上だろう。
やれMDだ、コンピューターによる予測システムだなどということも必要だろうが、
それよりも販売とはなにかの基本に立ち戻り、販売技術を磨くことこそ必要ではないかと私は考える。

 ITの導入に熱心なトップは多いが、ITもそれを使い切る人材のスキルがあって
こそ。
それと併行して営業の基本に立ち返った人材教育が必要ではないだろうか。
少なくとも「人罪」や「人在」は不要である。
販売力の回復こそが肝要で、そのためには幹部が現場を知ることだ。

04.07.10


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