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栗野的流通戦争の読み方(1)
変身した岩田屋伊勢丹


 平成16年3月2日、岩田屋新館がオープンした。
第4次流通戦争の幕開けーー各メディアは、岩田屋の変身(復活)ぶりを賑やかに取り上げる一方で、流通戦争という言葉で天神商戦を煽っている。
 さて、新しい施設のオープンや九州初進出ブランドの紹介はすでにTVを中心としたメディアがこれでもかと言うほどやっているので、ここでは割愛し、ちょっと角度を変えて栗野的な流通戦争の読み方をお届けしたい。


岩田屋から伊勢丹へ
消費者の期待も伊勢丹色

 最初に岩田屋に関して基本的な部分を整理しておこう。
社名は岩田屋のままだが、中牟田一族が経営から手を引き伊勢丹の傘下に入った時点で実質は伊勢丹である。
これは単に経営陣のトップが伊勢丹ということだけでなく、岩田屋は「私的整理のガイドライン」に基づく再建であり、実質的には破綻したのである。現在はそれを伊勢丹が再建しているという構図だが、地場老舗デパートでもあり、各メディアとも岩田屋の破綻は意図的かどうか分からないが、そのことにはほとんど触れず、あくまで再建という側面のみを取り上げてきた。
 ところで、私的整理のガイドラインによる再建にはいくつかの条件がある。
1.現経営陣の退陣(中牟田一族が経営から手を引いたのはこのため)
2.3年以内に債務超過の解消
3.3年以内に経常黒字にすること
 これらの再建計画案が認められ、金融機関その他が債権の大幅カットに応じるという構図で成り立っている。
 ただ、岩田屋の場合、厳密に私的整理のガイドラインが適用されたかどうかというところは多少あやふやな感じを残しているようだが、大筋はこの線に沿っての伊勢丹による再建であることは間違いない。
 まず、新館の全体的な印象。ひと言でいえば「伊勢丹」である。
以前の岩田屋を感じさせるものは善くも悪しくも全くない。そこにあるのは洗練された伊勢丹の作りであり、伊勢丹の商売である。
そして、それは消費者が求めていたものでもある。
 福岡三越はオープンの際に地元を意識しすぎて、三越らしさを控えて消費者の期待を裏切ったが、今回の岩田屋(伊勢丹)新館オープンには消費者の期待を裏切るものはなにもなかった。その意味では大成功と言っていいだろう。
 もちろん、変わったのは建物の外観や商品構成だけではない。なにより社員の意識改革に成功したようだが、そのことは後ほど触れる。


初日の人の入りはまあまあ
3日間の売上高は9億円余り

 3月2日のオープン当日は開店時間を10〜15分繰り上げての入場だったようだが、私が行ったのはほぼ10時。すでに店内には人だかりが出来ていた。
 が、それは1階のアクセサリー売り場と5階の記念品売り出しの所が中心で、全体的には出足の鈍さを感じた。でも、まあ、こんなものだろうと思う。
当日は少し寒かったから、山場は午後からに違いないし、売り上げもそれ程は行かないだろうと予想していた。
 理由は簡単だ。すでに旧本館の閉店セールでかなりの商品を売っているからだ。バブル期ならまだしも、この不況期にそうそう買えるだけの余力はないはず。
 それは売り上げ数字にもはっきり表れており、2日〜4日までの3日間の売り上げが約9億円を少し超えたかどうかというところだ。
業界では、一般的にオープンセール初日の売り上げの100倍が年商といわれている。このこから逆算すると、初日は8.5億円ぐらいの売り上げがなければいけない。ところが、実際には3日間でほぼこの売り上げだ。
 では、予想を大幅に下回ったのかといえば、そうでもない。すでに年末の閉店セールで102億円も売っているのだから、閉店セール・オープンセールを合わせて考えればかなり売り上げたことになる。
オープン後最初の日曜日の7日は午後3時から5時にかけて入場制限をしたほどだから岩田屋復調と言っていいだろう。


戦闘的な伊勢丹の姿勢
ライバル各社はうかうかできない

 初日のメディア登場で興味深かったのは3デパートの対応。なかでも岩田屋・佐久間社長の話には少し驚かされた。
 レポーターに「今回のオープンで第4次流通戦争の幕開けと言われていますが」と水を向けられると、「戦争と言うぐらいですから、戦争には勝たねばなりません」と答えたのだ。
 通常、こういう時には「皆さんすぐそうして戦争なんて言われますが、私どもは戦争などとは考えていません。ただ、当社のオープンで天神の魅力がさらに高まり、天神地区全体の活性化になればと考えています」と答えるのが一般的である。いわゆる日本人の謙譲の精神である。本心は別にして。また、それが懐の大きさとも言われた。
それを真っ向から勝負を挑んだのだ。対する福岡三越は大人の対応で「天神全体の魅力アップになるのでいいことではないでしょうか」というようなことを答えていた。
 もちろん、言葉通りには取れない。岩田屋オープンに合わせて店内改装、特に高級ブランドショップの改装をぶつけているのだから。
 目立った対応がなく、最も苦戦を予想されるのが博多大丸だ。大丸はなんといっても地下通路の閉鎖が痛い。地下鉄3号線開通・地下通路開通に合わせ店内改装をぶつけたい意向のようだが、一度離れた客をどこまで取り戻せるかがカギになろう。

04.03.23


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