誰がこの国をダメにしていくのか(1)


 ダーウィンの進化論は間違っている−−。
少なくとも人類に関していえば、そう思わざるを得ない現象が世界各地で起きている。
民族自立の名の下に昨日までの国家の枠組みを壊し、他民族、他宗教というだけで隣人を殺戮し、ジェノサイドかと思しき殺戮が宗教、民族、国家の名の下に行われている。
 一方、こうしたこととは縁遠く思われる国の人達も、ある日突然、銃を乱射したり、ナイフで無差別殺人をするという残虐極まりない犯罪を突発的に次々起こしている。
 一体人類はダーウィンの言うように進化の歴史を辿るものなのだろうか、それとも愚かな生物として破滅への道を歩んでいるのだろうか。
 もし歴史が直線的にではなくスパイラルに進むものだとすれば、いま人類は間違いなく退行過程にある。

 ところで視点をこの国に移してみると、人間の退行現象、あるいは母体回帰現象は一層はっきり現れている。
それはある時には幼児化だったり、オスのメス化、メスのオス化現象だったりするが、思考の内向き化、母体回帰現象は確実に進んでいる。
 ただ、そのこと自体が問題なのではない。思考の内向き化、母体回帰現象が個の段階にとどまらず、量的増大が質的変化を促すように、集団、社会に伝播していく過程で一定の力、感染力を持ち始めていることが問題なのだ。

 異質なものに対して最初は排斥しようとする力が集団に働くが、ある数、恐らく数%程度になると、今度は逆に長いものには巻かれろ式に、そのものを受け入れる、あるいはそのものに感染する傾向が日本人には強くある。とりわけ伝達手段が発達した現代では、この傾向が強まっている。

 こうした傾向に苦情を呈した人物がいた。建築家であり東大特別栄誉教授でもある安藤忠雄氏だ。
 東大入学式の祝辞で新入生を前に「これからは死にものぐるいで、病気になってもいいぐらい勉強してもらわなければいけない」と、厳しく注文。
 「ここはゴールではなく、スタートラインであるということをしっかり認識してほしい」
 高校を卒業した後、建築家になるまでの自身が歩んできた過程を紹介しつつ、これからの時代を生き抜く若い人達には「独創力」が必要。
「独創力」は個人の自立なくしては生まれない。子は親離れを、親は子離れをしてほしい、と訴えたのだ。

 高校の入学式ではない。大学の入学式、それも日本の大学のトップに位置する東大の入学式である。そこでなぜ「親離れ、子離れ」を言わなければならなかったのか。
 東大の入学式が他大学と少し変わっているのは親の出席が異常に多いということだ。大学の入学式はおろか、高校の卒業式でさえ親が出席したことがない私などの時代からすればとても不思議に思えるが、新入生約3200人に対し親が約5300人も出席したというから、安藤氏ならずとも「親離れ、子離れをしろ」と言いたくなる。
 最近、大学の入学式・卒業式に出席する親が増えているのは全国的な傾向らしいが東大は特に多い。もちろん大学側もこうした現象をよかれと思っているわけではなく、父兄の出席は2人までに限定しているという。しかし、最近は3人まで認めて欲しいという親の声が強まっているというから、なんともあきれる話だ。
                                             (2)に続く

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