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 汚染米転用問題、責任はどこにあるのか

偽装列島日本

 偽装列島日本−−。
そういえるほど、ここ数年食の分野での偽装が相次いでいる。
賞味期限の変更、ウナギやアサリの産地偽装、肉の偽装など数え上げればきりがない。
と書いている最中にも、神奈川県内のスーパーに出店している、横浜市の鮮魚販売業が刺し身などの消費期限を3年前から改竄(かいざん)していたというニュースが流れてきた(刺し身の消費期限改竄はちょっと恐ろしい)。
 しかし、悪質性と広がりという意味では今回の農薬、発ガン性カビに汚染された事故米の食用転売がワーストトップだろう。(「事故米」という言葉は事の本質を正確に伝えていないと思うので、以下「汚染米」と記す)

 まず今回の問題を振り返ってみよう。
1.食用に適さないとされた汚染米を三笠フーズが食用に転売していた。
2.今回の汚染米からは農薬成分のメタミドホスや、カビから発生し発ガン性が指摘されている毒素、アフラトキシンB1が検出されている。
3.転売先に九州の焼酎メーカーや、米菓、和菓子メーカーが含まれていた。
4.三笠フーズは汚染米の転売を少なくとも10年前から行っていた。
5.汚染米を転売していたのは三笠フーズだけではなく、ほかに複数の業者も行っているらしい。複数というのがどの程度なのかは分からないが、恐らく2、3社ではないだろう。この点は時間とともに明らかになってくると思う。

 こう見てくるだけでもスゴイが、問題は三笠フーズの摘発だけで終わりそうにないことだ。
むしろ、この問題はこれからさらに広がりを見せるに違いない。
 そういう意味では耐震構造設計疑惑事件の時と実によく似ている。
あの時は1、2社の個別事件という形で幕引きをしたが、今回は問題の所在を徹底的に明らかにし、再発防止の手だてをきちんとして欲しいものだ。
 (実はこの原稿、米焼酎、純米酒を飲みながら書いているのだが、スッキリ酔えない。やはり一抹の不安を感じながら飲んでいるからか)

消費者軽視の姿勢が問題

 ところで、何が一番の問題なのか。
汚染米を転売したことか。
汚染米と明らかにせず転売したことか。
安く買い、高く(といっても通常の流通米よりは安く)売って、不当に利益を得ていたことか。

 そうではないだろう。
最大の問題は農薬や発ガン性のあるカビに汚染され、健康被害の恐れがある汚染米を食用に転売したことである。しかも、長年に渡って。

 「健康被害については確認されていない」とか、「焼酎等の製造過程で有害物質の濃度はかなり薄められるから健康への影響は考えにくい」「業者はコメのカビを取り除き、表面を削って出荷したため、問題はない」などと食品研究者や農水省は言っているが果たしてそうか。
 まず前者の見解である。
短期間に少量の場合はそうかも分からないが、一度の摂取量が少量でも、ある期間摂取し続けると体内に蓄積されていき、それが様々な健康被害を引き起こすということはアスベスト健康被害や過去の公害病などでも明らかである。
 次に後者の「業者はコメのカビを取り除き、表面を削って出荷したため、問題ない」という見解。
これは業者の言葉を鵜呑みにしただけ。
カビを取り除きといっても、完全に取り除けないのは分かっているはずだ。
 いずれにしろ、このような見解を出す研究者や農水省の頭を疑ってしまう。
彼らの頭の中には消費者のことは微塵もないようだ。
そして、このことこそが問題で、対応の遅れを引き起こした要因にもなっている。

昨年1月に2度もあった通報
農水省のずさんな調査態度が問題


 今回の直接的なきっかけは8月22日、27日に農水省の食品表示110番に「工業用米を食用に横流ししている」という2度の通報があったことだ。
 ところが、告発はこの時が初めてではなかった。
それより1年8か月も前の昨年1月に2度も、三笠フーズが汚染米を転売しているという告発があっていたのだ。
 もちろん、農水省はこの告発を無視したわけではなく、同社への立ち入り調査をした。

 問題はその時のやり方だ。
事前に立ち入り調査日を連絡し、倉庫内に中国産もち米500トン分が保管されているのを確認しただけで、転売はないと結論づけたのだ。
 告発を受けて調査に入るのに、事前に日時を連絡していたのでは、どうぞその間に準備(転売隠し)をしてくださいといっているようなものだ。
 さらに立ち入り調査の内容があまりにもおざなり。
告発まであったのだから、事前に三笠フーズの汚染米買い取り量などを調べるなどのデータを持って臨むのが普通だろう。

 もし、昨年1月の段階で摘発していれば、ここまで被害が広がることはなかっただろう。
 というのも、今春以降、各分野で原材料費の値上がりが顕著になったからだ。

 中小企業にとっては長引く不況の影響にプラスして原材料費高が追い打ちをかけている。
少しでも安い材料を仕入れたいと思うのはどこも同じだ。
そこに安い海外米があると囁かれれば、深く考えずに手を出すところもあるだろう。
 今回問題になっている焼酎、清酒、米菓、和菓子業界には経営規模の小さいところが多い。
そういうところにほど原材料費高のしわ寄せが行っている。
「知らなかったメーカーも被害者だが、利益追求のためにメーカーが安易に安い米を使用したのも原因」と鹿児島県酒造組合・本坊理事長、吉野専務理事は警告する(読売新聞9月9日)
 その通りである。
悪魔メフィストの囁きについ乗ってしまった代償は高くつく。
信用を築くには何十年もかかるが、崩れるのはたった1日だ。

メフィストの囁きに注意

 それでも今回の問題はシステムの問題である。
業者は資金洗浄のやり方と同じように、次から次に転売を繰り返し、米の出所が分からないようになっていた。
 その結果、汚染米とは全く気付かずに多少安い輸入米程度の認識で買ったところもあるかもしれない。
 焼酎ブーム終焉の後に出てきた問題だけに、経営規模の小さいメーカーにとっては大打撃である。出荷停止、回収コストを考えれば最悪の事態も起きかねない。
 その責任は汚染米を一般米市場に流通させた農水省にある。
重ねて言うが、昨年1月の段階でおざなりな調査ではなく、徹底的に調査していれば、ここまで被害が広がることはなかっただろう。
 それと同時に、企業は目先に目を奪われ、メフィストの囁きに耳を貸さないようにすることが大事だろう。



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