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複眼的視点が欠如した日本人−−石原商事の倒産に思うこと


 暮れも押し迫った昨年12月27日、北九州に本社を置く(株)石原商事が倒産した。
負債総額は約180億円というから北九州地区では昨年最大の超大型倒産である。
突然といえば突然だが、業界筋では噂されていたことだった。
事前予想と違ったのは民事再生法の申請ではなく会社更生法の申請だったことだ。

 石原商事と聞いても大方の人にはピンとこないだろうが、スーパー「どん鮮市場」(後に「アパンダ」)と聞けば分かるだろうか。北部九州を中心に急激に店舗数を増やしていった食品スーパーである。しかも大部分の店舗は同業他社の閉鎖跡店舗を再利用したもので、ある日突然、店名が「どん鮮市場」に変わっていたということが多かった。
 実は私がこの社名を初めて耳にしたのは1年余り前のことだった。
ある社長から「流通に詳しい方が石原商事も知らないんですか」と嫌みたっぷりに言われ、その時に「どん鮮市場」の経営母体が石原商事だということに気付いたのだ。
 随分急展開しているなという印象はあったが、取材したいという気にはならなかった。

 自分で言うのもなんだが、私は結構わがままなジャーナリストだと思う。
本来は職業柄どんなネタにでも食いついていかなければならないのだろうが、自分の感性のアンテナにピピッと来ない対象にはとんと興味がないというか、取材したいという気にならないのだ。
 特に自分の中の判断基準に合わない所、「?」を感じる所にはほとんど興味がない。変なところは取材したくないと思うからだ。逆に興味を持ったところ、それらは技術がユニークだったり、真面目に経営に携わっていたりするところが多いが、そういう企業には何度でも取材をするという変な癖がある。
 いずれにしろ、同社に対し取材興味は湧いてこなかったというか、「?」で見ている部分があった。それは元ダイエー副社長の平山敞氏が石原商事の社長に就任するらしい、したという話を聞いても変わらなかった。

 それにしても不思議なのは地場の信用調査会社がこぞって同社を持ち上げていたことだ。T社などは12月6日に石原商事が「アパンダビル」、「フレッシュモールアパンダ」、割烹旅館「大同館」の竣工披露パーティーを開催した様子を機関誌で取り上げ、同社を持ち上げていた。
 石原商事が会社更生法の申請をしたのはその21日後だから、すでに資金繰りはかなり逼迫していたはずである。
そういう状態ながら大々的に披露パーティーをした石原商事も石原商事だが、それを見抜けなかったばかりか、同社の宣伝に一役買った信用調査会社も信用調査会社だ。信用調査力があるのかと疑いたくなる。

 同社の「怪」進撃が始まったのは平成16年夏以降である。
その年にスーパーだけで5店舗、葬祭場、料亭を入れれば7店舗出店している。さらに翌17年には合計で21店舗を出店した。平均すれば毎月1、2店舗出店していることになるが、7月はスーパーだけで4店舗も出店している。
この出店スピードを見て「怪」進撃と思わない方が不思議だろう。

 まず出店コストの問題だ。
いくら同業他社が撤退した後の空き店舗を再利用しているとはいえ、リニューアル費用はかかる。
 そしてなにより人材面の問題である。
人材の育成が追い付かないのを通り越し、人材の供給すら滞るはず。
さらに店舗運営システムの問題もある。
店舗数が増えれば運営システムも質的に変化させないと対応できなくなるが、この出店スピードではそうした対応もできない。

 このまま走り続ければ一気に問題が噴出するのは火を見るより明らかなはずだが、それでも出店スピードを緩めることはせず、18年に入ると本社社屋の移転、(株)なかの(北九州市)、(株)おおうち(広島)というスーパーの買収、さらに店名を「アパンダ」に変更・リニューアルオープンと「怪」進撃を続けていたのだから、行き着く先は見えていたはずだ。
 もし、それが見えてなかったとするなら、それは物事を一面的にしか捉えてないからである。多面的とまではいわなくても、少なくとも複眼的な視点を持っていれば、同社の行く末は予想できたはず。
ただ今回の事例に限らず、最近の日本人は単一思考が好き、あるいはそちらに流れる傾向が強く、複眼的な見方・思考は苦手なようで、その辺りが気になる。


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