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福岡ホテル戦争(7)
福岡ワシントンホテルの運営システムに学べ!


客室稼働率86%と好調な滑り出しを見せているキャナルシティ・福岡ワシントンホテル。「飲食関係は予想以上」の成績だが、佐々木博総支配人は「今は開業効果。やがて予定通りに落ち着く」と冷静に分析する。サービスと収益性の両面から新たに導入したシステムもいくつかある。常に経営革新を目指す藤田観光の直営ホテル。キャナル特需に浮かれ、経営革新を怠ると、3年後には倒産、閉鎖するホテルが続出する可能性もある。

ワシントンホテルの進出話は
10年前から決まっていた


 ワシントングループのホテルといえば、筆者はいつも最初に鹿児島ワシントンを思い出す。初めて泊まったワシントンホテルが鹿児島だったからだけではない。チェックインの時フロントでおしぼりを出され、そのことに非常に感動した思いがあるからだ。その日は真夏日で、夕方になっても気温が下がらず、暑い鹿児島をなおさら暑くしていた。部屋に入ったら、なにはさておきシャワーを浴びたい。そう思っているところに「どうぞお使いください」とおしぼりを出されたのだ。その瞬間、疲れも、暑さもいっぺんに吹き飛んだような気がした。サービスとはこんなものかもしれない。ただ、このサービスはオールワシントングループでしているわけではなさそうである。この項を書くにあたってちょっと調べてみたが、鹿児島ワシントンと宮崎ワシントンが独自に行っているサービスらしい。
 ところでワシントンホテルには2つの系列があるのをご存じだろうか。藤田観光の直営ホテルと、そのフランチャイジーのワシントンホテル梶i本社・名古屋市)の系列である。キャナルシティ内のワシントンホテルは藤田観光の経営であり、中洲のワシントンはワシントンホテル鰍フ経営である。ついでにいえばグランド・ハイアット福岡はハイアット・インターナショナルの運営だが、ハイアット・リージェンシー・福岡を運営しているのは福岡シティクラブ(福岡シティグループ)である。
 さて、ワシントンホテルのオープンは中洲が先でキャナルが後になったが、福岡地所から藤田観光にキャナルへの進出依頼話があったのは実は10年近くも前のことである。その後、キャナルの開発がなかなか進まなかったからか、グループとしては中洲にワシントンをオープンすることになる。となると地理的には隣接地。競合するキャナルにその後進出する必要はなかったかもしれない。だが、福岡地所との約束を守りキャナルにオープンしたのである。この藤田観光の信義に対し、福岡地所は優先的な場所の割り当て、「周辺に比べても高くはない家賃」で応えている。


ホテルのオペレーティングは遅れている
人的サービスだけがサービスではない


 だが、福岡地所サイドからすれば「高くはない家賃」でも、ワシントンサイドにすればキャナルは決して「安くはない家賃」である。その分収益を改善する手を打たなければならない。そこで福岡ワシントンホテルではいくつかの新しい方法を導入している。
 1.部署別・時間別管理体系の導入
 ワシントンは宴会場やブライダル部門を持たない宿泊中心のホテルである。そのため景気の動向にそれほど左右されることがなく、今のような時代には人件費の比率がそれほど高くなく、収益性のいいホテルである。それでもサービス業は「他産業に比べるとオペレーティングが遅れている。せめて他産業なみのオペレーティングを導入する必要がある」と佐々木総支配人は言う。
 そこで導入したのが部署別・時間別管理体系である。例えば飲食部門でも各レストランごとに電気代や水道代を分かるようにし、部門ごと部署ごとに生産性を追求できるシステムにしている。
 2.ボイスメッセージの設置
 福岡ワシントンホテルで初めて採用したのがこのボイスメッセージ。簡単にいえば留守番電話機能のようなものである。従来は留守中に外線から電話がかかってくると交換手が伝言を聞き、宿泊者にはメッセージランプの点灯で知らせるシステムである。多くのホテルが導入しているシステムだが、伝言の聞き取りミスが発生しやすいのが欠点である。日本語でさえそうだから、外国語となるとなおのことである。第一、外国語のできる人間を配置する必要がある。福岡はここ数年アジアからの入り込み客が増えているから英語だけでなく韓国語、中国語も必要性だろう。となると、まず多国語ができる人材がいるかどうか。仮にいたとしても今度は人件費が問題になるだろう。
 そこで採用したのがボイスメッセージである。伝言を聞き、伝えるのではなく、伝言を録音し再生するシステム。家庭の留守番電話をそのまま各部屋の電話に設置したようなものだ。伝達ミスがなくなり宿泊客からは喜ばれ、交換、フロント業務は煩雑さから解放される一石二鳥のシステムといえる。
 3.新方式冷蔵庫の採用
 冷蔵庫に自動カウンター方式を採用しているビジネスホテルは多い。だが、缶やビンが寝かせてあるためラベルが見えないのが欠点だ。しかも一度引き抜くとカウントされたり、元に戻そうとしてもできなかったりで不評を買っている。そこで富士電機に提案し開発したのが縦置き方式の冷蔵庫である。ビンや缶を縦に置く方式にしたためラベルがしっかり見えるのが特徴。これでビールとジュースを間違えて引き抜く心配もなくなったわけだ。さらにつまみ類は上からぶら下げる方式を開発したため、特注品から市販品への変更が可能になった。いままでは特製容器に入れる必要性から特注つまみ類を採用せざるを得ず、そのため割高になっていたが、市販品の採用が可能になったことで価格を下げることができた。冷蔵庫内の飲料に関してはシーホークがダイエーのPB商品を採用することで価格を下げているが、いずれもサービスとはなにかという問題を既存ホテルに突き付けている。
 このほかにも社員の出退勤時間の管理、社員食堂の利用金額、身分証明書等を1枚のICカードにするなど、バックグラウンドでローコストオペレーティングを徹底的に追求している。ユーザーの快適性とローコストオペレーションという従来相反すると考えられていたものをうまくシステムとして統合している。ボイスメッセージ、新方式冷蔵庫は福岡ワシントンで初めて導入されたものであり、今後グループ内のホテルに順次採用されていくものと考えられる。


人を大事にして欲しいから社員を大事にする
それがワシントンホテルの思想


 ローコストオペレーティングの追求はどうかすると非情なシステムになりがちである。社内に不平不満があるとつい接客態度に出る。結果、サービスが悪いという客の評価になり、リピーターが減少する。
 福岡ワシントンはソフトオープン期間中、宿泊料を半額+1000円に設定した。なぜ、プラス1000円かといえば、この1人当たりのプラス1000円分を福岡市社会福祉協議会に寄付したのである。総額は200万円だった。そしてソフトオープン期間中の利用者にオープン記念として時計をプレゼントしているが、その同じ時計を正式オープン後に全社員にプレゼントしている。
 「慣れないオープン行事で忙しい中、全社員が力を合わせよく頑張ってくれたから、その感謝の気持ちです」(佐々木総支配人)
 普通なら「大入り袋」を出すところだろう。だが、もっと感謝の気持ちを社員に伝えたい。そう考えて、同じ時計にしたそうだ。もちろん追加注文である。
 「人を大事にして欲しいから、社員を大事にするんです」
 学ぶべきはワシントンのこの思想であり、経営革新を急がねば市内のホテルが生き残るのは難しい。

                                                           データ・マックス刊「I・B」掲載


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