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福岡ホテル戦争(6)
グランド・ハイアットは地域1番店になれるか!


キャナルシティがオープンして約1カ月。あちこちにキャナル効果が見えている。ホテル業界もキャナル特需(?)で、今年に入り客室稼働率がアップ。一見パイが広がっているように見えるが、果たしてそうだろうか。グランド・ハイアットの地域1番店戦略の前にホテル日航福岡もまずチャペルの建設で迎撃準備を始めている。いよいよ正面衝突に突入したシティホテル戦争ーー。

 シーホークの二の舞はしない
 ソフトオープンが一流の証


 「思った以上にいいですね」。グランド・ハイアット福岡(以下グランド・ハイアットと略)の八谷俊彦営業開発課長はオープン1カ月をこう総括した。しかし、まだフルオープンではない。4月26日に75室をソフトオープンし、現在は170室のオープン。メインダイニングの中国レストランがオープンしたのも5月16日。全370室のオープンも含めてフルオープンするのは6月1日である。
 キャナルシティ・福岡ワシントンホテル(以下福岡ワシントンと略)の佐々木博総支配人も「ルームは予定通りプラスα、飲食は予想以上」とこの1カ月を振り返る。福岡ワシントンのオープンはグラン・ドハイアットより一足早く4月15日にソフトオープン。そして24日からフルオープンしている。
 このようにキャナルシティ内の両ホテルがソフトオープンという手段を取ったのはセオリー通りといえばセオリー通りであるが、両者の頭に1年前のシーホークオープンにまつわる風聞があったのはほぼ間違いない。
 思い起こせばシーホークのオープンはゴールデンウィーク直前の4月28日。従来、いわゆる一流ホテルのオープンは連休前を避けるのが常識である。混雑や従業員の不慣れから客に迷惑をかけてはいけないという配慮からである。これこそがサービスであり、一流のプライドでもある。対して流通業の常識は「売れる時に売る」である。なぜ、本来最も客が増える「稼ぎ時」をあえて外してオープンしなければいけないのか、というのが流通業の論理である。一理ある。ここでもダイエーは革命児だった。古いホテル業界の常識に果敢に挑戦したのだ。
 だが、その結果はチェックイン時に客を延々2時間も待たせ、ブーイングが起こるという失態を演じてしまった。「シーホークはホテルではなく、テーマパークだ」と陰口を叩かれるのはそれ故である。それでも若者は待つことを楽しんだかもしれない。だが、それ以外の多くの人はシーホークに対しいい印象を抱かなかったようだ。未だにそのことを例に上げシーホークをけなす人は結構多いし、ダイエーグループの連中でさえお得意様から尋ねられたらシーホークよりグランド・ハイアットを推薦している程である。


 客室平均単価は19,000円
 ブライダルは1人4万円


 ハイアットグループのホテルにはグランド・ハイアット、パーク・ハイアット、ハイアット・リージェンシーという3つのブランドがある。その中で最高級のホテルに位置されるのがグランド・ハイアットである。常に「質の高いサービス」と「機能的な施設」の提供を誇り、「地域一番店」を目指すのがグランド・ハイアットの使命でもある。もちろん、ここ福岡においてもだ。
 平均単価からいえば、現在ホテル日航が15,000円、ニューオータニが約13,000円、西鉄グランドホテルにいたっては10,000円を切る状態である。そうした中でグランド・ハイアットは「20,000円を希望したいが、19,000円は確実にいきたい」と言い切る。ホテル日航より数段グレードが高いと言わんばかりである。
 たしかにオープン1カ月の経験とはいえ、グランド・ハイアットが好成績を残しているのは事実である。ブライダルは運河の上に突き出た感じの空中チャペルが人気で、「すでに年内200組の予約」が入っているし、1人当たりのブライダル予算も4万円とシティホテルの平均約3万円を大きく上回っている。


 人気のフードコート
 悩みは統一イメージ


 さらにオープン以来大人気なのが地下1階のフードコート。炉端焼き、モンゴリアンバーベキュー、ヌードルショップ、カジュアルイタリアン、ビアバー、ペストりーショップ等から構成された2,600uのオープンスペースは、昼時には行列ができるほどで「予想以上の入り」(八谷営業開発課長)。フードコート全体の売り上げは1日平均400万円。土・日は600万円強を売り上げている。中でも特筆すべきなのはパンとケーキのテークアウトコーナー・シナモンの売上高。わずか30uそこそこのスペースで1日平均50〜60万円。土・日には100万円近くを売り上げている。
 「ホテルのというよりは、キャナルの中心的なフードコートを目指しています」(八谷営業開発課長)
 「リーズナブルでカジュアル」というコンセプトと、オープンスペースによる運河からの連続的な動線が功を奏しているのは間違いないが、逆にそのことがグランド・ハイアット全体としての統一イメージを困難にしているのも否めない事実である。
 もう一つ、グランド・ハイアットを地域1番店のイメージから遠ざけているのがフロントがある1階フロアである。運河との一体感開発という性格上やむを得ない面はあるが、フロアが観光客の通り抜け通路になっており騒然としている。これらは一流のイメージとは程遠く、むしろシーホークとよく似ている。グランド・ハイアットサイドもこのことは十分認識しており、5階に約2,000uのプライベートルーフガーデンを設け、静かな非日常空間の演出を心掛けている。


 ロイヤル、海外国賓クラスの
 VIP対応には自信を覗かせる


同ホテルの地域1番店戦略が端的に現れているのは宴会場とスイートルームだろう。立食なら1,500人収用可能な1,100uのグランドボールルームを筆頭に、600人まで収用可能なジュニアボールルーム(460u)と、小宴会用の3つの宴会場を備え、コンベンションにも対応している。
 一方、14室あるスイートルームの中には防弾ガラスの設置はもちろんのこと、執務室、キッチン付きのダイニング設備などハード的にはロイヤルや国賓クラスの宿泊に対応したつくりである。
 「ハード面では市内トップでしょう。国内はもちろんですが、特に海外の国賓クラスには非常に強い対応になっています」
 と自信を覗かせる。
 さて、現在福岡で皇室がご利用されるホテルはホテル日航、ニューオータニ博多、西鉄グランドである。このうち昨年のユニバーシアード福岡大会ではニューオータニが外れ、シーホークが選ばれたのはすでにシリーズ1回目で書いた通りだ。ではグランド・ハイアットのオープンで今後この図式はどうなるのか。筆者の大胆な推理では今度は西鉄グランドが外れ、ホテル日航、ニューオータニ博多、シーホーク、グランド・ハイアットになるだろう。ただしグランド・ハイアットは海外には強いが、国内の政治力で少し弱いので外れる可能性もある。こうしたこととは別に同ホテルが抱える問題点は外資系の運営システムと従業員の意識ギャップが将来発生する危険性である。いずれにしろ既存ホテルにとっての本当の脅威は、同ホテルの運営システムだろう。いつか機会があればその辺りを明らかにしてみたい。

                                                           データ・マックス刊「I・B」掲載


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