四苦八苦している既存店を横目に元気がいいのはディスカウンターやカテゴリキラー、という構図はなにも流通業に限ったことではなさそうである。ホテル業界も同じで、ついに「ホテル革命」を目指したカテゴリーキラー「スーパーホテル博多」が登場した。圧倒的な低価格、スーパープライスを武器に、オープン以来ほぼ満室状態を続けている。決して安かろう、悪かろうではない。秘訣はホテルそのものの概念を打ち破る新しいシステムにある。そこで今回はこの話題のホテルのシステムを中心にみてみよう。
1泊朝食付き4,900円(税込み) スーパープライスの新業態ホテル
ホテル戦争の取材を開始して以来、割り引きによる「価格破壊」ではなく、当初から低価格を設定したホテルの出現を心待ちにしていたが、やはりあった。なんと税込みで宿泊料4,900円。その上朝食までサービスだというから出張族にとっては神様みたいなホテルが福岡市内呉服町に現れたのだ。 通常ビジネスピープルが出張の際に認められる宿泊料は課長職ぐらいで大体8〜9,000円。まず1万円を超えることはない。食事代のことを考えると宿泊料は7,000円程度に押さえたいところだろう。それでも「ちょっと一杯」分までは出ない.だから、いきおい夜はカプセルホテルかサウナでがまん、ということになる。もちろんそれも結構だが、やはり夜は一人でゆっくり手足を伸ばして寝たいという人も多いだろう。その願いがサウナの料金に1,000円上乗せする程度でかなうのである。しかもパンとコーヒーの朝食サービス。 「セルフサービスですがパンとコーヒーはたっぷりと用意しています」(稲原部長) 朝食サービスの言葉に偽りなしというわけだ。しかし、いくらスーパープライスで朝食サービスといってもカプセルホテルと変わらないような部屋ではそれほどありがたみはないが、1ルームの広さは10.6u(3.2坪)。たしかに最近の14〜15uのちょっと広めの部屋と比べれば多少狭く感じるのは事実である。だが、狭苦しいという感じはない。むしろベッドがワイドサイズの分だけ寝た時に広く感じられる。
必需品は基本的に完備 ないのはキーとフロント
ついでに室内の備品関係を紹介しておこう。まず出張族にとって必需品なのが執務テーブル。これはどこのビジネスホテルでもみかけるタイプのもので高さ、広さとも問題ないだろう。電気湯沸かしポット、お茶も用意されている。テレビは衛星放送も含めて無料。エアコン完備。歯ブラシセットも用意されているし、もちろんバス・トイレも完備である。イメージとしては1ルームマンションを想像してもらった方が早いかもしれない。これなら「オープン1カ月目が87%、2カ月目90%。月曜日から土曜日までほぼ満室状態です。次回の予約をして帰られるお客様もいらっしゃいます」という言葉にも十分納得できる。 だが、逆にないものもある。それは部屋のキーとフロントだ。フロントも部屋のキーもないホテルなんておよそ耳にしたことがないだろう。ところがここスーパーホテルにはこのどちらも存在しないのだから面白い。かといって部屋に鍵がかからないというのではない。部屋に入るにはロックを外さなければドアは開かないし、入れば確実にロックされる。だから防犯上もなんら問題はないのだが、いわゆるキーがないのだ。 実はここに、スーパーホテル最大の秘密があるのである。
フロントを廃止し 自動チェックイン機に
フロントもキーもないのにチェックインはどうするのかといえば、実は自動なのだ。ちょうど飛行機の自動チェックイン機、あるいは駐車場の自動支払機のような機械が据え付けてあり、宿泊料を入れれば領収書が出てくる仕組みになっている。別図を参考に見てもらえばお分かりのように、この領収書にはルームナンバーと部屋の暗証番号が打ち込まれている。つまり領収書でもあり、ルームキーにもなっているわけだ。入室に際しては各室入り口で暗証番号を入力すればそれでOKである。この暗証番号さえあれば途中で何度出入りしても、そのたびにフロントにキーを預ける必要もなければ、何時に帰ってきてもOKというわけである。当然、チェックアウト時にキーを返す必要もないからチェックアウトはスムースだ。 ホテルの経費に占める割合が最も高いのは人件費である。そして人員を最も必要とするのは宴会場である。今福岡のホテルで苦戦しているのはシティホテルと客室数300以上のビジネスホテルだとは以前に書いたが、それは宴会場を抱えているからでもある。法人需要が激減していても一定の人員は常に確保しておかなければならないからだ。その次がフロント業務に携わる人員である。 ところがスーパーホテルは自動チェックイン機を導入することでフロント業務までも不要にしてしまったのだ。考え方の順序としては人件費を削減するために自動チェックイン機を導入し、フロントを廃止したわけだが、いずれにしろこれで経営効率はびっくりするほど改善され、高収益体制が確立されたといえる。 ホテルは儲からないビジネスから儲かるビジネスに転化したわけだ。
ノンサービスという名のサービス 金銭管理も楽で安全な体制 「基本的には夫婦2人の管理人体制システム」と同社の稲原部長は胸を張るが、なぜ、そこまでの人員削減が可能になったのかといえば、一つにはセルフサービス方式の徹底的な導入であり、もう一つは従業員が金銭を一切扱わなくていいシステムにしたからである。 ビジネスホテルの場合、通常チェックアウト手続きが必要なのは@ルームキーの返還A電話使用料の精算があるからである。この二つさえなくしてしまえばチェックアウト業務は必要なくなる。その点、スーパーホテルはすでに見たようにキーそのものが存在しないのだから当然キーの返還もない。 次は電話である。これは各部屋に電話が引いてないので電話の取り次ぎ業務も必要なければ電話使用料の精算もない。その代わりに1階に電話ブースが4個とFAXブースが1個設置してある。デジタル回線で「将来はインターネットにも対応」する予定らしい。 このようにチェックインからチェックアウトまで従業員は一切現金を扱わなくていいわけだ。これは経営サイドからみれば管理が簡単ということになる。 同社は来年3月に大阪・堺に2号店を、10月那覇に3号店を出す予定である。実は博多が第1号店だったのである。経営母体はミサワホームのディーラーやビル・マンション管理を行っている産双ホーム(本社・大阪)である。このほかにビジネスホテル「リンクス」も名古屋以西で展開している。 スーパーホテルのシステムはホテル業界以外にも幅広く利用できそうな気がする。というわけで今回はちょっとユニークなホテルシステムを紹介したが、いずれにしろ今後シティホテルに近いビジネスホテルの経営環境はますます厳しくなると予想される。次回はキャナルシティ内のホテルを中心に福岡シティグループのホテルにスポットを当ててみたい。
データ・マックス刊「I・B」掲載 |