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福岡ホテル戦争(2)
ホテル戦争の言葉にピリピリする業界


シーホークが既存のホテル業界の眠りを覚ます黒船なら、それに続くグランドハイアット、オークラの進出は本格的なホテル維新の幕開けになる。であるが故に業界は「ホテル戦争」の言葉にピリピリしている。

 「シーホークの影響はない」
 ホテル日航も表面は平静を装う


 いまや福岡を代表するホテルの観があるホテル日航福岡も「シーホークの影響はない」と言い切る。たしかにユニバーシアード福岡大会でも皇太子ご夫妻の宿泊先に指定され、一応面目は保っているかに見える。ユニバーシアードの影響もプラス効果はないという。むしろユニバ関係者の宿泊先に指定されたことで、逆に一般宿泊客の予約を抑えざるをえなかった分だけマイナスに影響したといいたげである。この点に関してはシーホーク・ホテル&リゾートもホテルニューオータニ博多も事情は同じだった。
 当初、各ホテルにユニバ関係者の宿泊数が多めに連絡されたため、一般宿泊客の予約が締め出される格好になった。実際、マスコミ各社もユニバ期間中は市内のホテルは満杯という事前情報を流したため、一般客の方で宿泊予定を変更したり、見合わせる動きもあったようだ。だが、全日本シティホテル連盟がまとめた客室利用率調査によれば、8月の福岡県は88.9%で全国トップである。奇妙な話である。市内の主要ホテルがユニバ効果はないと言う一方で、県内のホテル需要は潤っている。市内の主要ホテルを避けて周辺のホテルに客が流れたと見るべきかもしれないし、市内の主要ホテルが当初期待したほどの効果はなかったと見るべきかもしれない。
 奇妙な話はまだある。シーホークオープン前に福岡市内のシティホテルの客室数は約2800室。そこにシーホークの1052室が加わったのだから、単純計算しても市内の総客室数は1.4倍に増えたことになる。しかもシーホークの客室稼働率は70%、週末は90%を超えているのである。ところがホテル日航も「客室稼働率は累計平均で77〜78%」を維持しており「シーホークの(マイナス)影響はない」と胸を張る。だが、客室単価の話になると数年前に比べて「下がっている」と元気がない。まあ、この点はどこも似たり寄ったりで、シーホークが週末の「客室稼働率90%以上」と胸を張っても、日曜日の宿泊料金が半額になるシーホークカード(会員5万人、目標数7万人)の利用がかなり見込まれるからで、客室稼働率=収益に貢献とはなってないのが苦しい。それにしてもシーホークの影響がないとすれば、同ホテルはどこから集客したのか。新規マーケットを開拓したとすればシーホーク恐るべしだし、やり方いかんでは既存ホテルもまだまだ集客できるということだ。


 グランドハイアットに人材流出
 日航はオークラと正面衝突


 今回のホテル戦争の発端はシーホークである。にもかかわらず既存ホテルはことさらシーホークの存在を無視しようとしているように見える。なぜなのか。それはシーホークが「ホテルらしからぬホテル」だからで、異業種からの参入だからである。「本来のホテルの土俵」で勝負をしているわけではない、と軽く見ているからである。その一方で、グランドハイアットやホテルオークラのオープンに対しては異常な警戒心を抱いている。
 ニューオータニ博多も「3年後のことなのでまだ取り立てて対応というほどのことはしてない」と言うが、客層がオークラとぶつかる点は認めている。むしろ真っ正面からぶつかるのはホテル日航だろう。それだけに早くも警戒心を隠さず、対オークラ戦略、対グランドハイアット戦略に関しては固く口を閉ざして語ろうとしない。箝口令さえ敷かれている風があり、「それだけピリピリしている」ことを暗に認める。
 ホテル日航が「ピリピリする」のも当然で、客層ばかりか地理的にもグランドハイアット、オークラに近く、この点でも真っ向から勝負せざるを得ないからだ。


 ホテル日航がオークラを恐れる
 本当の理由は地元財界の後押し


 頭が痛い点は他にもある。「日航からグランドハイアットへかなりの人材が流れているはず」と業界関係者が語るように、かってはニューオータニが福岡のホテルの人材供給源と言われたが、今はホテル日航がその役目を引き受けている。当然、オークラがオープンする際にもかなりの人材が引き抜きのターゲットになるだろうことは想像に難くない。いや、水面下ではもう激しいヘッドハンティングが開始されており、いろんな噂が乱れ飛んでいる。「人材の流動は業界の常」とはいえ、敵に塩を送るわけにはいかないだろう。ハード面では後から建設するホテルの方が有利なのは自明の理である。とすればソフトで勝負するしかないが、そのソフトを左右するのが人材だからである。
 ホテル日航がオークラの進出を恐れる理由は他にもある。それは下川端の再開発を推進しているのが第3セクターの都市未来ふくおかということと関係ある。下川端再開発の中核テナントとしてホテルオークラに進出を「お願い」した関係上、福岡の政経済界のバックアップは当然行われるだろう。市内の総客室数が急増し、過当競争の様相を呈してくると、このバックアップは強力である。


 生き残るためには体質改善が急務
 もたれ合い構造を脱し、体質強化を

 問題は中間クラスの独立系ホテルである。全国ネットもステータスも持たないだけに危機感を募らせている。西鉄系の2つのホテルも同じで、なかでも危機感が強いのは西鉄グランドホテル。現在改装を検討中だが、部分改装程度では太刀打ちできないのは明らか。イメージを一新する全面改装を行うべきだが、そのためには投資額がバカにならない。よほどしっかりしたコンセプトの下に行わないと失敗する可能性が高いだろう。
 ソラリアホテル、ハイアットリージェンシーも状況は同じで、現在、後者はオープン間近のグランドハイアットと提携して営業活動を展開している。だが、オープン後は両者の棲み分けをどうするのかという問題が早速待ち受けている。
 しかし、このクラスの本当の敵はシーホークに代表される異業種、あるいはカテゴリキラーの動きである。にもかかわらず、それほどの危機感を抱いていないのが多少不思議な感じがする。恐らく地理的に離れているからだろうと思われるが、シーホークが提起している問題こそ既存ホテルの在り方を根本から問うものである。その認識があるのか、ないのか?
 例えば宿泊料金の二重価格。航空運賃と宿泊料をそれぞれ別々に購入した金額とセットの金額では、後者の方がはるかに安いというのは常識である。なぜ、こんなことが起こるのか。ホテルの側に集客能力がないからである。そのため集客力がある旅行代理店の力に頼らざるを得ない。その結果、価格面で旅行代理店の言うがままになる。
 結局、一見正常に見える客室稼働率も一皮むけば廉価販売による収益悪化の元凶になっている。にもかかわらず悪循環から脱却できないのは営業力のなさで、それは企画力のなさに起因する。企画力の点で自他ともに認めるのがニューオータニである。今ではどこもが実施しているレディースプランを取り入れたのも早かったし、昨年12月1日〜ことし2月末日までは「パジャマDE朝食」プランを実施し好評を博している。同ホテルの高い企画力も実は「3人寄れば文殊の知恵」式の全国ネットワークに負うところが大きい。
 さて、企画力も営業力も人材もないホテルはどうするか。淘汰されるのを待つのみかもしれない。

                                                            データ・マックス刊「I・B」掲載


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