筆者が「日本のゴルフ場が危ない!」(海鳥社刊、1,800円)を上梓して以後、守る会のゴールはどこなのか、勝利したところはあるのか、という質問が多く寄せられた。そこで今回は、破綻ゴルフ場を守る会が買い取り、再建した例を紹介しよう。
非妥協の姿勢を貫く
西武セゾンが日本各地に5つのゴルフ場(北海道・桂ゴルフ倶楽部、茨城・美浦GC、岡山・たけべの森GC、佐賀・若木GC、沖縄・嵐山GC)を造ったが、グループの経営悪化で5ゴルフ場をまとめて外資系の投資ファンドに売却したことは前回にも紹介した。ところが、その3カ月後に突然、預託金放棄を要請する文書が会員に届いたことから、反発した会員が「守る会」を結成し預託金返還を求めて闘いを開始した。「守る会」は5つのゴルフ場にそれぞれ結成されたが、いち早く結成されたのが沖縄の嵐山GC会員の権利を守る会だった。 西武セゾングループに代わってオーナーになったのはドイツ銀行と米投資会社、ローンスターグループ。新オーナーの下で運営に当たったのがプレミアゴルフである。外資系がオーナーになった3カ月後の2001年(平成13年)7月、プレミアゴルフから預託金債権の95%放棄、残りの5%はプレミアゴルフの株券との交換を提案した文書が会員に送られてきた。つまり、1,300万円で買った嵐山GCの会員権が65万円の価値しかなくなるのだ。しかも、その65万円もゴルフ場会社の株券に換わるわけだから、預託金の返還はゼロだ。こんなバカな話はない、と会員が怒るのも当然である。 この通知を受けた1カ月後に嵐山GCの会員は「会員の権利を守る会」を結成した。ほかの4場に「守る会」が結成されたのは「嵐山」より1〜1カ月半も後だから、「嵐山」の動きがいかに早かったかが分かる。 9月に入るとプレミアゴルフは5ゴルフ場各地で「説明会」を開催した。最初の開催地は沖縄だったが、当日は紛糾した。プレミアゴルフは先の文書内容を繰り返すだけで、預託金カットに会員が応じなければゴルフ場は破産するかもしれない。そうなれば会員はプレーも出来なくなるが、それでもいいのかというのが彼らの「説明」だった。これに対して「守る会」は預託金の100%返還を主張して一歩も引かなかったばかりか、「破産するならしてみろ」との強硬姿勢を打ち出し激しく対立。説明会会場にプレミアゴルフから社長の出席がなかったことも会員の怒りを増した。
会員による買い取り
「嵐山」の強硬な反対姿勢に合い、プレミアゴルフはスケジュールに狂いが生じていた。彼らは西武セゾングループから入手したゴルフ場を預託金の大幅カットを実施し、半年以内に民事再生法にかけて再建させる予定だった。つまり、日本におけるゴルフ場再建のビジネスモデルにすることで、今後、日本における本格的なゴルフ場再建ビジネスの展開を目論んでいたのである。ところが、このままでは民事再生手続きの再生計画案が否決されかねなかった。 当初、プレミアゴルフは5ゴルフ場をまとめて再生させる予定だった。破綻ゴルフ場の再生ビジネスは数がまとまって始めて意味を持つわけで、一つひとつバラバラにした再生はビジネスとして成り立たない可能性が強い。例えば、北海道・桂GCは収益もいいから単独でもビジネスになるが、赤字の岡山・たけべの森GCは売却しようにも買い手が付かないだろう。茨城・美浦GCは西武セゾングループの関係で会員権を購入した法人会員が多いし、関東圏でありゴルフ市場もある。こう考えていくとやはり民事再生法による一括再生しかない。となると、なにがなんでも民事再生手続きを賛成多数で通さなければならない。 一方、「嵐山」は早い段階からゴルフ場の買い取りを考えていた。一つは外資に対する不信感があったからだ。これは「若木」などにも通じるものだが、外資がゴルフ場を入手したのは投資対象としてでありゴルフ場経営を続けていくためではない、と見ていた。預託金大幅カットという会員の多大な犠牲の上に再建し、経営が好転すれば再び転売するに違いない。すると、その時に現在と同じ状況にまた置かれることになる。そうしたことを防ぐためにも新オーナーは県内企業が安心だと考えていた。 買い取りを主張する「嵐山」をいつまでも抱えていてもプラスにならない。それよりは「嵐山」の主張を認める代わりに民事再生手続きへの賛成票を投じる。プレミアゴルフはそのように路線を変更した。裏を返せば、非妥協で、買い取り路線を主張し続けた結果、「嵐山」は会員がゴルフ場を買い取ることに成功したといえる。
守る会が新オーナーを探す
買い取るといっても「守る会」による自主運営を考えていたわけではない。新オーナーを県内から見つける。この方向は当初から変わらなかった。そこで「守る会」は受け皿組織として嵐山ゴルフ倶楽部を設立し、そこがプレミアゴルフからゴルフ場を買い取り、それをそのまま新たな引き受け会社に転売。新オーナーとなった会社は会員に預託金の一部を返還するという方法を取った。もちろん、当初からこの方法1本で考えていたわけではなく、運営委託という方法も考えていたようだ。 買い取りに名乗りを上げた企業は県内外を含め10数社あったが、「県外企業には高くても売らない」と決めていた。それは2次倒産の危険性を避けるためだ。県内企業だと安心というわけではないが、内容が把握しやすいということもあったのだろう。沖縄電力、オリオンビールなど6社がプレゼンをし、最終的にオリオンビールが新オーナーに決まった。 オリオンビールが買い取った価格は12億6,000万円。内訳は営業資産が6億1,000万円、会員への預託金返還額が6億7,000万円。返還率は13%と高かった。かくして全国でも珍しい、会員による買い取りという形で勝利を収めたのである。非妥協の闘いを続けたことが有利な条件の引き出しに成功したといえる。
('03.12.1 データマックス刊「IB」に掲載) |