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ゴルフ場が危ない!(3)
誰のためのゴルフ場かを考えれば再建の道筋が見えてくる。


会員側が会社更生法適用を申請した例も

 2000年以降、多くのゴルフ場が預託金返還時期が来たのをきっかけに破綻し始め、民事再生法の適用を申請しているが、ゴルフ会員の中には無関心派や泣き寝入り派が大半を占めている。
 だが、中には預託金返還訴訟を起こしている会員もおり、裁判ではほぼ例外なく原告勝訴になっている。
 しかし、裁判には勝っても、ゴルフ場が倒産し支払うべき資金がないというのが現状だ。そうなると何のための裁判か分からない。逆に、ゴルフ場の方もそういう例を挙げて会員を説得し、民事再生法による再建を目指している所が多い。
 ところが、中には会員が結束して会社側主導の再建に反対し、会員主導による再建を目指しているゴルフ場もある。その代表が清川カントリクラブ(神奈川県)だ。
 清川カントリクラブはオーナーの五洋物産グループが乱脈経営で1,000億円規模の負債を抱え破綻。同ゴルフ場には4カ所で総額約28億円の担保が設定されていたが、その内4億円の担保を米の投資ファンド・ローンスターグループが三井ファイナンスサービスから買い取った。それから数カ月の2000年9月に競売に出したことから会員の危機感が強まり、会社側と預託金償還を巡って話し合いを続けたが進展がないので、横浜地裁に会社更生法の適用を申請した。すると、直後に会社側が東京地裁に民事再生法の適用を申請し、三つ巴の争いになった。
 結局、会社更生法の適用が受理されたのだが、会社更生法による再建は長い時間がかかるという欠点がある。もう一つの問題は現経営陣退陣による再建だから、新たにスポンサー探しが必要になる。会員側は株主会員制による出資を考えているようだが、この先どうなるのかはまだ不明だ。


分裂しかけた若木ゴルフ倶楽部を守る会

 若木ゴルフ倶楽部の会員達も「清川」の例などを参考にしながら、2001年10月8日に「若木ゴルフ倶楽部を守る会」を設立。加入会員は535人。若木ゴルフ倶楽部の総会員数が707人だから、実に75%の人が「守る会」に参加していることになる。
 「守る会」の方針は当初から、預託金債権放棄を基本としたプレミアゴルフ側の再建案拒否を貫いている。では、一枚岩で現在まで来たのかというと、必ずしもそうではない。どのような組織でも大半は様子見・態度保留の人達で、賛成、反対がそれぞれ15〜20%程度だろう。圧倒的多数を占める様子見・態度保留の人達の意見がどちらに動くかで、その時々の会の方向が変わるのである。とりわけ交渉が長引けば会員間の対立が顕わになり、会の分裂という事態も往々にしてあり得る。
 「若木」でもその年の12月下旬になると、プレミアゴルフの「提案」に同調する動きが現れている。その後翌年夏頃までに何度か形を変えて同じような動きが出ている。
 彼らの意見は、プレミアゴルフは民事再生法の適用を申請し、他ゴルフ場でも見られるように、それが受理されるのは火を見るより明らか。仮に会社が破産して、会社更生法の適用を申請したり、会員による自主運営を目指したとしても素人に出来るわけがない。それよりは民事再生法による早期再建を目指し、「1日も早くすっきりさせたい」というものだ。


徹底した情報開示で分裂を防いだ事務局

 ゴルフ場によってはこうした意見が半数近くを占めたり、会員組織が分裂するところもあるが、「若木」では同調者がほとんどなく、圧倒的多数の会員は「守る会」と行動を共にしている。なぜなのか。
 1つには、西武セゾングループの信用を買ったと思ったのに、会員に知らせず勝手にゴルフ場を外資に売却した西武セゾンの責任を追及する声が強く、妥協は許さないという意識が会員の中に強くあったこと。第2には、事務局がプレミアゴルフとの交渉過程を含めあらゆる情報を会員に伝達していたため、「守る会」理事会の間に意識のずれが見られなかったことが挙げられる。


裁判で違法性を突く

 2001年12月4日、再建計画案が会員に了解を得られなかったプレミアゴルフは東京地方裁判所に民事再生手続き開始の申し立てを行った。対して「守る会」は翌年2月18日、東京地裁に上申書を提出し、以下のような点を主張した。
1.西部セゾングループがドイツ銀行グループに株式を譲渡した経緯、価格、条件を明らかにすること
2.西部セゾングループはドイツ銀行グループに株式を譲渡する直前にゴルフ場に根抵当権を設定しており、これは民事再生法の故意否認の対象になり、それを知りながらドイツ銀行グループは貸付債権と共に根抵当権を譲り受けているので、これは法的に認められない。
3.ゴルフ場は会員の預託金で造成されたものであり、本来は会員がゴルフ場の所有者である。
4.預託金放棄後のプレー権では今後ゴルフ場を転売されたりした場合、多額の利益を得るのは経営者であり、会員は一方的に不利益を被るだけである。


会員株主制による再建

 紙数がないので結論を急がなければならない。結果的には裁判所は「守る会」の主張を一部認めながらも、プレミアゴルフ提出の民事再生法を受理してしまった。また経済産業省もゴルフ場が安易に民事再生法による再建を図る風潮に警告を発している。経営側は会員と対立するのではなく、誰のためのゴルフ場かということを考え、会員と一体となったゴルフ場の再建を考えていくべきだし、それは可能だと思われる。預託金放棄による再建ではなく、預託金を株式に転換した会員株主制にその1つの答えを見出すことができる。

('03.01 データマックス刊「IB」に掲載)


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「日本のゴルフ場が危ない!」(栗野 良著、海鳥社刊、1,800円)に詳述

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