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ゴルフ場が危ない!(1)
会員権が紙くずになる時代がやってきた。



 バブル期に雨後のタケノコのように建設されたゴルフ場が次々に破綻し始めている。原因は、バブル崩壊後の長引く不況によるゴルフ人口の減少とプレー回数の減少に加え、会員権の預託金償還期限がきているからだ。九州でもフジカントリクラブ、フェニックスカントリ倶楽部、若木ゴルフ倶楽部、八女上陽ゴルフ倶楽部など、この1、2年で30近いゴルフ場が破綻している。そしてこれからも破綻ゴルフ場は続出すると思われる。バブル期には額面の何倍もの金額で流通した会員権がいまでは紙くず同然なのだ。会員はゴルフ場が破綻するのを黙って見ているしかないのか?
                                           (ジャーナリスト 栗野 良)


今後続出する破綻ゴルフ場

 「こんなことが許されていいのか」。先頃破綻した某ゴルフ場の会員は怒りを顕わにする。「我々の金でゴルフ場を建設しておいて、いざ返す段になるとチャラにしてくれと言う。これでは詐欺と同じじゃないか」。彼に限らず会員なら誰もがそう思っているはずだ。預託金と称して会員権で金を集め、無利子で据え置いた上に、償還期限がきたら資金不足で返す金がない。だから預託金債権を全額放棄しろ。さもないと倒産する。倒産すればプレーもできなくなる、と言うのでは、詐欺だと言われても仕方ないだろう。
 それにしても民事再生法とはゴルフ場側にとって実に都合のいい法律である。といって破綻ゴルフ場を救うために作られた法律ではなかったのだが、いまとなってはゴルフ場経営会社に都合よく使われている。
 そもそもスタートからして間違っている。建設前に会員権を売り出し、集めた金でゴルフ場を建設しているのだから、一般会社の場合で考えれば、これは株主募集だろう。それを株主の募集ではなく会員権と言い、しかも預託金にしたところがミソだ。だれが最初に考えたのかしらないが、実に虫のいいことを考えたものだ。
 だが、この種の話は日本国中でまかり取っている。例えば市場から直接金融で資金を集める方法に一時多用された転換社債の発行があるが、集める時は株の値上がりを前提に考えているから、まさか値下がりして償還金を支払うはめになろうなどとは夢にも思ってない。当然、償還金の手当などしてないから、直前になって慌てて駆けずり回り、なんとか破綻をまぬがれた企業は多い。有名どころではアスキーがそうだった。
 こう見てくると、いずこも似たようなものである。それにしてもバブル期後半に建設されたゴルフ場の預託金償還期限は今後相次いで来るから、破綻ゴルフ場はますます増えていくと予想される。


外資の買い漁りはゴルフ場だけではない

 ところで、破綻した、あるいは破綻しそうなゴルフ場を買い漁っているのが外国資本の投資会社である。宮崎のフェニックス・カントリー・クラブを買収したのはリップルウッドだし、佐賀の若木ゴルフ倶楽部を買収したのもドイツ銀行とローンスターグループである。
 全国で見ると、ゴールドマン・サックスがゴルフ場業界最大手の1つ日東興業、スポーツ振興を買収し国内のゴルフ場60コースを所有している。またローンスターグループも10数カ所のゴルフ場を買収している。これら外資の目的はどこにあるのか。
 そのことを明らかにする前に、ちょっと視線をほかの業界に移してみよう。すると驚くことに、見えてくるのは外資の日本企業買い漁りである。保険業界、金融業界、流通業界、建設業界、ゴルフ場とあらゆる業界で外資が日本企業を次々と買収している。
 また買収しないまでも仏カルフールや米コスコ、自動車販売会社のように日本市場に進出しているところは多いし、日本の商社等と組んで合弁会社形式で進出しているところも含めるとかなりの数の外資が日本に進出していることになる。
 それにしてもいつ頃から外資の日本進出が本格化したのかといえば、金融危機がいわれた98年以降で、この頃から米国勢を中心とした外資系ファンドの日本買いが目立ってきた。不良債権処理の拡大で破綻企業が増え、彼らにとってビジネスチャンスが広がったからだ。
 バブル期に日本企業がアメリカに進出した時はアメリカ国民から猛反発をくらい、特に5番街のロックフェラービルを買収した時は「アメリカの良心が買われた」とまで言われた。だが、いまの日本は、表参道を外国ブランドに占拠されても何も言わないばかりか喜んでいるだけである。この違いは一体なんだろう。
 そういう意味ではゴルフ場を外資に売却するなと、反対運動を展開している若木ゴルフ倶楽部会員の方がはるかに日本の将来に対して危機意識を持っているのかもしれない。


外資の狙いは

 流通小売り業界へ外資が進出攻勢をかけている背景には、不況とはいえ日本に潜在的な購買力があると見ていることと、不動産価格の値下がりで進出コストが大幅に下がっていることが挙げられる。実際、彼らの読み通りに低い投資コストで高い売り上げを上げている。
 では、ゴルフ場の場合はどうか。ゴルフ人口が減少し、プレー回数も減少しているとはいえ、若木ゴルフ倶楽部などは預託金の償還さえなければ黒字経営である。実は外資が狙っているのもそこで、預託金償還期限を迎え破綻寸前になっているゴルフ場を買い、その後に民事再生法を申請し、預託金を90〜95%もカットすれば、元々黒字経営なのだから再建は容易である。あとは早く上場させて高値で売却しキャピタルゲインを得るのが目的だから、ゴルフ場を長期に渡って経営しようなどという考えはない。会員が反発する理由はこの辺にもある。

('03.01 データマックス刊「IB」に掲載)


(著作権法に基づき、一切の無断引用・転載を禁止します)

「日本のゴルフ場が危ない!」(栗野 良著、海鳥社刊、1,800円)に詳述

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