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伸びる会社と廃れる会社、そこにはある種の法則がある


 長年ベンチャー企業や技術系企業の取材をしているからか、いろんな所に呼ばれてベンチャー企業の動きや中小企業の今後について話す機会がある。そんな時よく質問されるのが「伸びる企業や成功する企業の見分け方」についてである。実はこの質問が一番苦手である。なぜなら伸びる理由や成功する要因には確定的なものがないからである。言い換えれば不確定的要素で成功することがあるということだ。だが、ダメになる方には間違いなく方程式がある。それは勝負事でも同じで、負ける時は負けるべくして負けるが、勝つ時は運や偶然が重なって勝つことがある。つまり不確定的要素が影響して、本来なら勝つ勝負ではないのに勝ってしまったということがままある。にもかかわらず、多くの人は成功例に習おうとし、失敗例に学ぼうとしない。ために前轍を踏むばかりか、バブル期の失敗をいまもって繰り返している。

儲けることが目的では
社員は付いてこない

 最近、地場中堅どころのA商社が倒産した。先々代が創業した小さな商店を、戦後、先代が戸板1枚に商品を並べるところから再興し、一時はその業界にY氏ありと知られるほどにまでなっていた。小売りから仲買、さらには輸入商社へと業務を拡大し、自社ビルを建てたまではよかったが、第2次オイルショックの影響で建設費が当初計画を大幅に上回り、せっかく建設した自社ビルも数年後には売却する羽目になった。
 成り上がり企業の典型的な失敗である。中小企業は少し成功(したと錯覚)すると、すぐ自社ビルを建てたがる。なぜ自社ビルが必要なのか。いろんな理由を付けたがるが、結局のところ理由なんかどうでもよく、つまるところは自身の見栄と欲望の賜物である。そこには社員のことなどこれっぽっちもないに違いない。あれば社員の待遇改善を先にするはずである。
 Y社長の場合も、本来なら建設費が高騰すると分かった時点で本社ビル建設を中止すべきだった。だが、そうしなかったのはやはり見栄だった。しかし、Y氏が偉かったのは、いつまでも見栄に固執しなかったことである。早々に自社ビルを売却し、会社は一応事なきを得た。
 しかし、事業はその後拡大路線をひた走ることになる。それでもY氏の健在中は、彼の卓越したビジネス勘で危機を乗り切り、表面的には決定的な状況を迎えることなくきた。ところが、3代目が社長に就任した途端、会社がおかしくなりだした。「会社にビジョンがなくなった」。会社が衰退を始めた理由を、古参幹部の1人はそう述懐する。
 「ビジョンがなければ夢が生まれない。夢が生まれなければ情熱もない。夢も情熱もビジョンもない会社が発展しますか?」
 彼は逆にこちらに問い返してきた。その古参幹部は先代が社長の時に独立したが、商品はその会社から仕入れ続けていた。しかし、3代目の時代にはすでに商品は他社から仕入れるようになっていた。
 彼はかつて自分が所属していた会社を見切った理由を次のように言う。
 「3代目は社員のことなど考えていなかった。考えていたのは会社と自分が儲かることだけ。事業で儲けるのではなく、社員から儲けようというのだから人が育たないのは当たり前だし、まともな奴は次から次に辞めていく。残ったのは力のない奴ばかり。これでは会社が潰れるのは当たり前でしょう」
 そして、こう付け加えるのだった。「儲けさせすればいいというのはビジョンではない」。

恐怖政治がケセラセラ社員を生む
対話を重ね社員の本音に耳を傾けよ

 B社はコンサルタント系の地場中堅企業。D社長は同じ業界で経験を積み、数年前に独立・起業した人物。セールスの腕はいいのだが、採用しても採用しても社員が長続きしない。利口な奴は会社を見切って辞めていくし、人を育てるという感覚がないから、結局新しく入った社員も1年と持たずに辞めていく。
 さらに悪いことに力量がある人間には嫉妬する。ために残っている社員はイエスマンかケセラセラ社員。会議は社長の演説会で、誰も反対意見を言おうとしない。言えばその数倍の言葉が返ってくるから、言うだけバカを見る、と社員が思っている。結局、その場だけを取り繕う発言しかしない。そんな社員が仕事を一生懸命にするはずがなく、適当なところでお茶を濁している。だからノルマなど一度も達成したことがないばかりか、ノルマの背景についてすら考えようとしない。
 社員は密かに社長のやり方を恐怖政治と呼び、トップに本当の情報を上げようとしない。勢い社長が自ら営業に力を入れざるをえず、常に社長の数字がトップになる。
 一方、競争の激しい小売業でそれなりに業績を伸ばしているC社のK社長はD社長と同世代だが、手法は全く逆で、10年後、20年後の会社の姿を常に社員に説き、社員のモチベーションを高めることに努めている。売り上げノルマを課したり、強圧的な態度で社員に臨むことはなく、対話をすることを心がけ、現場の声に耳を傾けることに時間を費やしている。
 「私が現場に立ってモノを売るわけではないから、現場の社員の話をよく聞くように心がけている。そして解決策のアドバイスをするのが私の仕事です」
 K社長に会社を上場する気はないが、かといって身内で固めることもしたくないと言う。とりわけ経理には身内を配置しないと断言する。「会社をオープンにするということは一つには金の流れを透明にすることで、それが社員のモチベーションを高めることに繋がる」と断言する。

ゆとりがなければやる気も
新たな発想も生まれない

 地場中堅メーカー・E社のH社長は社内外から独裁者的なイメージで見られ、恐れられている。実際、気性の激しい人で、大した理由もなく怒り出すことがままある。社員は金のために働いているという考えの持ち主で、週末も課長以上は出社させて、ミーティングを行っている。それを日曜日も出社させることにした。その分、手当は払うが、社員にしてみればゆとりがなくなり、家族との団らん時間も奪われることになる。
 ある時、社外で顧問的役割をしている人が「社員を休ませることも必要ではないですか。弦も張り詰め過ぎると切れるのと同じで、社員も切れますよ」と社長に進言したらしい。すると「会社が儲からないと社員も儲からないだろう。儲かれば給料が増えるんだから、それでいいじゃないか」と答えたという。
 これでは社員の方が堪ったものではない。管理職になると体を壊すか、その前にライバル会社へ移る者が多く、慢性的な人材不足に悩んでいるようだ。因みに「ゆとり」を進言した社外顧問はその1件以来お呼びがかからなくなったらしい。
 3社に共通しているのは
1.社長がワンマンで、周囲にイエスマンしかいない
2.社員は金さえ出せば働くと思っている
3.社員からゆとりの時間を奪い、そのことが社員の活力不足になっていることに気付いていない
4.恐怖政治を敷き、社員の本音の声に耳を傾けない点である。
5.社員の言葉を自分に都合がいいように置き換えて聞いている。
 上記の3社はいずれも倒産か、現在、業績が低迷している。経営者とは孤独なものだし、諌言は耳に痛いもの。だが、前轍を踏まないためにも、失敗企業の例に学び、一度自らを点検してみたらいかがだろう。


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