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流通実践講座1:モノ語りをしよう。

 私は商店街や地域の活性化、中小企業の活性化などのテーマで講演する時、必ずいう言葉がある。
それは

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」

という孫子の言葉である。

 この言葉自体はほとんどの人が知っている(聞いたことがある)はずだ。
ところが、その意味する内容についてはほとんどの人があまり考えてないように思える。
とりわけ近年は「思考停止状態」の人が多く、物事を掘り下げて考えたり、じっくり考えようとしない傾向が強いからなおのことである。

 繁盛している店、儲かっている会社と、そうでない店・会社の違いは、
実は考える(思考する)かどうかの違いに他ならないのだ。

己を知るとはどういうことか

 ところで、孫子の兵法といえば上記の一節が有名だが、続いて孫子は次のように説いている。
 彼を知り己を知れば、百戦して危うからず。
 彼を知らずして己を知れば、一勝一敗す。
 彼を知らず己を知らざれば、戦うごとに必ず危うし。


 さて、孫子が言う「己」とは一体何か。
自分自身のことか。
もちろん、それも含まれるだろう。
だが、それだけではない。

自分の組織(会社)のことであり、自分達の武器(商品)のことでもある。
さらには自社の顧客も含まれるかもしれない。
社員やその家族、あるいは地域も含めていいだろう。
要は自分を取り巻くすべてのことを「己」という言葉で表現しているのである。

 この「己を知る」という一見簡単なことが、ほとんど理解されてない。
そして売れない、売れないと嘆いているのだ。

 商店街で言えば自らの商店街の現状をきちんと把握・分析せずして、商店街が衰退していると嘆いているのだ。
 こんなことだから、どこそこの商店街が元気がいいと聞くとせいぜい1泊2日の視察に行って、研究してきたつもりになっている。
もちろん元気がいい商店街を視察し、勉強することも大事だが、自らを取り巻く環境、自らの商店街の特徴、弱点をきちんと分析する(己を知る)ことこそ重要で、それをせずして、ただ視察だけしても解決策は見つからない。

 そこで以下、具体例を示しながら勉強してみよう。

なぜ「モッ香」なのだ

 今回、具体例として取り上げるのは、大川市でスペシャリティコーヒー豆の専門店を開いている「あだち珈琲」である。

 同店のHPには「スペシャルティコーヒー専門店 自家焙煎 あだち珈琲」と紹介してある。(「スペシャリティコーヒー」については同社のHPを参照して欲しい)

 「スペシャリティコーヒー」
 「自家焙煎」

 この言葉を見るだけでもコーヒーにこだわっているというのが分かる。

 問題はそのこだわりが消費者に伝わっているかどうか、である。

 私が同店のコーヒーの中で注目したのは「モッ香ブレンドコーヒー」だ。

 HPにも「あだち珈琲の看板ブレンド! まろやか味が人気です!!」と紹介してある。

 ところが「モッ香ブレンド」にはモカが入ってないのだ!

 モカではないのに、なぜ「モッ香」なのだ。

 私は即座にこのコーヒーは売れる、と思った。
ネーミングが面白いではないか。
ネーミングを見ただけで、消費者は「おや?」と思う。
ここまでは成功している。

 しかし、どこを見ても「モッ香」の由来、説明がない。

 これを私は「モノ語り」と言っている。

 モノ語りがないと商品は売れない!

 せっかく売れるネーミングと商品を持ちながら、消費者の興味を満足させてないのだ。
 これでは売れない。

 「あだち珈琲の看板ブレンド!」と謳いながら、どこにも看板ブランドらしい扱いがされてないのだ。
本来はこのコーヒーを徹底的に売るべきなのに、どちらかというと他のコーヒーを売ろうとしているように見受けられる。
残念だ!

 まず、消費者に興味を持ってもらう。
      ↓
 その興味をさらに深める。
      ↓
 実物を見る前にファンになる。
      ↓
 ファンになれば、ますます商品を欲しくなる。


 あとは売り方の問題だが、それはまた後にし、次回はあだち珈琲店主・安達さんとの実際のやり取りを再現しながら、「思いをどのように伝えるのか」について見てみよう。


(著作権法に基づき、一切の無断引用・転載を禁止します)

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