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味覚音痴が増えてきた日本人


 福岡県城島(じょうじま)の酒蔵開きに行ってきた。
酒蔵開きのいい点は出店酒蔵各社の酒が飲み比べできること。試飲もできるのがうれしい。
メーン会場だけでなく各醸造元を結ぶシャトルバスも運行されているので、それに乗って各醸造元を回れば、試飲だけでも結構口にすることになり次第に酔ってくる。
 おいしかったのは富安本家酒造の特別純米酒「花の露 米の一滴」。
「冷やで飲んでも燗をして飲んでもおいしく呑める酒」という口上に釣られて試飲したが、口上に違わずおいしくて早速1本買った。

 数年前までは日本酒党を自認し、どこに行っても日本酒を注文していた。呑むのは大抵純米酒か純米吟醸酒で、「おいしい日本酒が好き」と公言していたこともあり、結構地酒のおいしい日本酒をお土産にもらったりした。やはり好きなものは公言しておいた方がいいようだ。

 ところが最近、外ではほとんど日本酒を口にすることはなくなった。代わりに口にするのは焼酎である。別に焼酎ブームにあやかったわけではない。外で日本酒を飲むのがバカらしくなったのだ。例えば居酒屋などで純米酒を注文するとビールと同じように冷蔵庫で冷やしたものを持ってくるし、「燗をしてくれ」と頼むと「これは冷やで呑む酒です」としたり顔で従業員が言う。日本酒をよく知らない輩に飲み方までとやかく言われるのが嫌になったのだ。それなら焼酎を飲んでいる方がましだ。以来、日本酒は自宅で呑むようにしている。

 日本人はビールでもジュースでも冷やして飲むが、冷やすとそのものが持つ風味が死んでしまう。「喉ごし」などというが、あれは喉を冷やしているだけで、味わいとは程遠い。特に日本酒は冷酒以外は常温か燗をした方が麹の旨みが出てくるし、本来、燗をした時に最もおいしいように造られている。

 どうも最近、日本人の味覚は落ちているように思う。ファーストフードとコカコーラーが日本人の味覚を変えた犯人と思われるが、それに輪をかけたのが辛口ブームである。激辛と称して極端な味がブームになった時期があるが、あれで味覚をやられ、以来、味覚音痴になった人は意外に多いはずだ。

 そんな極端な辛さはさておくとしても、ここ10数年、辛口ブームが続いている。というか、味覚音痴予備軍が増えたせいで、微妙な味を感じられなくなり、辛口が好まれるようになったというのが本当だろう。
 その影響で、ビールも日本酒も辛口嗜好が強まっているし、日本酒は辛口が旨いなどとしたり顔で言う輩も増えている。別に否定はしないが、日本酒は本来少し甘口の方がおいしくできている。

 辛口を好むのは寒い地方で、日本でも中国でも北の方の酒は皆アルコール度数が高
い。ロシアのウォッカなどはその典型だろう。要はアルコール分を増やせば辛くなるわけだ。

 日本酒はできれば燗をして風味を楽しみたい。燗をすれば麹の甘みが増すため少し甘くなる。同じ酒でも常温で呑むと少し辛く感じられるから、呑み方を変えるだけで色々な味を楽しむこともできるのだ。

 醸造元巡りをして、ちょっとガッカリしたのは三潴駅に程近い某醸造元に行った時。
ガラスのぐい飲み1杯が300円だった。これでは居酒屋等で呑む値段と一緒だと思っ
た。メーカーだし、年に一度の酒蔵開きなのだから、少しはサービスしてもいいのではないだろうか。
 多少損をしても後々のファンを増やすか、その時に儲けるか。それぞれに商売のやり方はあるだろうが、「損をして得をせよ」という言葉もある。長い目で見ればどちらが得だろう。


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