慶応大学・清水教授達が開発した電気自動車・エリーカが時速300km超をクリアし、来春には時速400kmに挑戦するということはすでに書いたが、実用化のためにはまだクリアしなければいけない問題がいくつかあった。 その一つが電池で、国内産のリチウムイオン電池は非常に高価であり、電池価格が大幅に下がらないことには電気自動車の実用化は難しい情勢だった。 ところが、中国ではすでに安価なリチウム電池を使った電気自動車がタクシーとして実用化されており、清水教授は中国のメーカーから共同開発の誘いを受けていた。
というところまではNHKのドキュメント番組で報道されていたが、10月に入って安価な大型リチウムイオン電池開発に向けた国内プロジェクトが発足した。
(参照:http://www.asahi.com/car/news/TKY200410180300.html)
参加企業はKDDI、大和ハウス工業、竹中工務店、ジーエス・ユアサコーポレーション(蓄電池)、エネサーブ(発電機)、大日本印刷、三菱自動車、コクヨの8社。これで安価・コンパクトなリチウムイオン電池が開発されれば、電気自動車の実用化に弾みがつくのは間違いない。プロジェクトが成功することを望みたい。
ところで、今回の電気自動車開発で浮かび上がったことが1、2ある。 1つは既存の自動車メーカーがそっぽを向いている(?)点である。 もう1点はモーターを開発したのも自動車関連メーカーではなかった点だ。 さらにいえば、中国・上海で電気自動車を実用化したメーカーは自動車メーカーではなく電池メーカーだという点である。
昔から新しい革袋には新しいワインを入れろ、という言葉があるように、全く新しい概念でモノを作ろうとした場合、古い概念しか持ち合わせていない所は対応できないということだ。いや、もっと言えば古い秩序や概念の持ち主は邪魔にさえなるということである。 こうしたことは社内変革でも言える。妨害するのは古い体質の社員である。 それは往々にして役職に就いていたり、実績がある社員の場合が多い。 つまり、重要なのは視点を変えることである。 そういう意味で異業種の視点は役に立つ。
さらに見逃せないのが中国の躍進である。 安い人件費だけで中国の電池メーカーが実用的なリチウムイオン電池が開発できたのではないということを肝に銘じておくべきだろう。 夢を実現しようとするベンチャー精神(それは往々にしてハングリー精神と表裏一体になっていることが多いが)と、技術の裏打ちがいまの中国にはあるということだ。 現在の日本にはこの2つが欠けている。 技術はどんどん海外に流出し、国内は技術空洞化現象が起こりつつある。 さらに悪いことにかつてのよき伝統、助け合いとか協力の精神もなくなり、自己の利益追求にのみ汲々している。 「先義後利」という言葉を死語にしたくないものだ。
とはいえ、まだ国内にも素晴らしい技術は残っている。あるものはひっそりと。 もちろん九州にも素晴らしい技術が残っているし、ベンチャー精神も健在である。 例えば宮崎には本田宗一郎がポケットマネーで創った企業があるし、抵抗が少ない水着開発に一役買い、水泳王国日本を支えている企業が日本の最西端(最先端に通ず)に存在しているし、福岡にも超細孔加工技術では世界トップクラスの企業が存在している。 そんな素晴らしい技術の数々はどのように開発されたのか。 本当のベンチャースピリッツを求めて、いま私は再度取材の旅に出ている。 未来を創る九州の技術を求めて! 来春には「九州の技術開発秘話」(仮題)と題して出版する予定だ。
04.12.22
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