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リクルートに見る社内活性化の方法


 トップの考えが末端まで浸透しない、社内に活力がない、営業力がイマイチだ。多くの中小企業経営者がこんな悩みを抱えているのではないだろうか。では、どうすれば組織を活性化できるのか。リクルートの社内活性化策を中心に紹介してみたい。

リクルート成長の原動力は営業力

 先頃、筆者が主宰するベンチャーサポート組織・リエゾン九州の例会で(因みに「リエゾン」とは「懸け橋」「橋渡し」という意味の仏語)、この6月に九州リクルート企画の社長を定年退職されたばかりの諏佐邦明氏に「組織を活性化する方法」について話をしてもらった。それはこの人余りと言われる時代でも「いい人材がいない」という声をよく聞くからだ。では、本当に優秀な人材がいない、来ないのか。それとも、いる、来るけど、すぐ辞めていったり、力を十分発揮させる組織体制になっていないのではないか。
 そこで、リクルート流の組織活性化方法について諏佐氏に具体的に語ってもらったので、ここで紹介してみたい。
 リクルートといえば新卒採用向けの紙媒体や中途採用誌「Bing」、さらに「住宅情報」や結婚情報誌、カー情報誌など様々な紙メディアを発行し、時代の流れをつかむのが実にうまい会社である。
 次々に発行する情報誌は言い換えれば新商品の開発である。では、リクルートの強さの秘密は新商品の開発力かと思いきや、諏佐氏は「リクルートの成長を支えているのは営業力だ」と断言する。
 一般的に営業力と言う場合、個人の営業力と組織の営業力があるが、リクルートはこの両方の力を引き出すのが実にうまい。

競争意識、結束力を高めたGIB制度

 例えばGIB(ゴール・イン・ボーナス)と呼ばれる制度がある。いわば目標達成賞みたいなもので、営業目標を達成したチームに与えられるチーム賞である。「なんだ、そんなものなら我が社でも導入している」などとガッカリした顔をせずに、もう少しお聞き頂きたい。
 リクルートは1年を4等分し、3カ月を1クォーターとして区切るクォーター制を導入している。すべてがこのクォーターの下に行われるのである。
 さて、GIBである。達成者には1クォーターで5万円の賞金が出る。そのほかにもなんだかんだで、最高で年間35万円もの達成賞金を得ることができるようになっているというから、これは個人の動機付けとしては大きいだろう。
 ただ、当初は個人賞だったが、その後チーム賞に変更になっている。営業はどうしても個人プレーに走りがちだが、それをチーム賞という形で組織力にまで高めたところに特徴がある。
 「GIBはどんなに個人が達成していても、そのチームが達成していなければもらえないので、組織の結束力が非常に高まりました。さらに他チームとの競争意識が強くなりましたね」
 と諏佐氏。
 クォーターの締め直前になると社内が異様な熱気に包まれるほど燃え上がるから、初めてリクルートを訪れた人はまず驚くに違いない。
 注目すべきなのはリクルートがこの制度を昭和45年から導入していることだ。つまり、組織が大きくなって余裕ができて始めたのではなく、組織がまだ小さい時から始めていたのだ。見習うのはこうした取り組み方だろう。

ほめて、ほめて、ほめたたえる

 人は誰でもほめられればうれしいもの。だから、どこの会社でも表彰制度の1つや2つは存在する。だが、たまにしかほめないものだからあまり効果がない。それなら毎日ほめたたえればいいではないか。そう考えたかどうか定かではないが、リクルートという会社はとにかく社員をよくほめる。社員の前で社員をほめるのだ。それも単にほめるだけでなく、天井から垂れ紙を吊してほめる。それだけでは飽きたらず「ただいま○○さんが△△の金額を受注しました」と社内放送までしてたたえるのだから徹底している。
 放送を聞いた人は一斉に「わー、おめでとう」と言って拍手する。まるでお祭り騒ぎである。端で見ているとちょっとバカらしくすら思える。でも、これが効果を上げている、と諏佐氏は笑う。
 叱るよりほめろ、と言われる。だが、それがなかなか難しい。つい欠点の方が目に付いてしまうからだ。それならいっそ、大々的にほめることを慣習にしてしまえ、ということかもしれない。

ヘッドハンティングで、社内の移籍を自由に

 最後にちょっとユニークな制度を。もともとPC(プロフィトセンター)制度を導入し、課別、部門別に決算を行っていた。そのため現場の人間が人の採用や教育に熱心という風土があったが、昨年からそれを一歩進めてキャリアウェブ制度を導入している。
 筆者の記憶ではたしかソニーが導入している制度だと思うが、簡単にいえば課、部に人事権を与えた社内ヘッドハンティングである。
 仮にA課がC課のBという社員を自分の課に引き抜きたいと思えば、Bに直接交渉することが許されるのだ。その結果、BがA課に移りたいと思えば上司の了解なく移籍できる。Bの上司には拒否権が認められていないのだ。与えられているのは再度Bと話し合う1週間の期限だけである。
 この制度は部下だけでなく上司も活性化させるところに特徴がある。つまらない上司だったり、つまらない仕事しかさせてくれない上司の下には部下がいなくなる可能性さえあるのだ。
 人は金だけでなく、仕事のやりがいも求めているということであり、今後同様の制度を取り入れるところは増えると思われるし、組織の活性化を考えているなら、この制度を導入してみるといいだろう。

セクションの壁を取り払う全社協力営業

 もう一つリクルートに特徴的なものに「全社協力営業」がある。これは全社員が営業に協力する体制のことで、この日は総務も制作も、いわゆる営業後方支援部隊の全員が外に出て「営業」を行うのだ。
 「例えば街頭に出て『住宅情報』や『Bing』の宣伝をしたり、書店回りをして本をきれいに揃えるなどということをするわけです」
 取扱商品の街頭宣伝と販売店のサポートと言い換えてもいいだろう。ともすれば営業と内勤の人間は、書類の提出方法や記入漏れ、連絡ミスなどでぶつかることがある。これらは互いに相手の仕事を思いやれば起こらない類のぶつかり合いなのだが、セクト主義に走り、自分のセクションの仕事を優先的に主張することから起きる。そうしたことを防ぐ意味でも全社協力営業は効果がありそうだ。


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