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急増しだしたセルフスタンドの背景に
見える石油業界の苦しい裏事情(後)


減少するスタンドの中で
6倍に急増したセルフ

 「数年前に比べて大きく変わったのは建設コストが下がったことです」
 セルフスタンド用計量器の価格が下がったことがセルフスタンド建設を増やしたと、商社系ディーラーのT氏は言う。加えて計量器メーカーが増えたことも価格下落の一因になったようだ。
 では、どの程度増えているのか。2000年度末に全国で422カ所しかなかったのが、2002年度末には2,522カ所と約6倍に急増している。 その一方でスタンド総数は96年に約6万カ所あったのが現在は5万カ所を割っているから、セルフスタンドの急増振りが目立つ。とはいえ、スタンド全体に占める割合はまだ5%程度にしか過ぎず、セルフがスタンドの主流とはとても言いがたい。しかも「建設のピークはすでに過ぎた」と言われているだけに、今後スタンドの主流がセルフ方式になるとは言えないだろう。
 一時は急伸の気配があったセルフスタンド建設の動きがなぜ鈍ったのか。そこには需要と供給側それぞれにセルフに対する予測違いもあったようだ。
 セルフスタンドが建設された当初、給油客は男性と予測されたということは前回述べたが、そのほかにも、セルフと知らずに給油に来た客の中には、自分で給油する煩わしさが嫌で給油せずに帰る客がかなりいるのではないかと見られていた。ところが、実際にはその数はかなり少なかったのだ。むしろ自分のペースで給油できるセルフの気軽さ、もっといえば給油以外の物を勧められる煩わしさがないことに好感を覚え給油に来る客が多いということだ。こうした認識は当初から業界になかった。
 つまり、価格的魅力だけでセルフに客が流れているのではないということである。このことは従来型のフルサービスのスタンド、セルフスタンドそれぞれに戦略的見直しを行わせることになった。

内実は苦しいセルフ
改造セルフは特に

 セルフ側は価格面の再検討を行うところも出てきたし、従来型スタンドはセルフ方式への改造を思い止まったのである。
 「高くさえなければお客さんは来るということが分かった。5円の価格差にこだわる必要がなくなった」と前出のT氏が語るように、最近、周辺スタンドとの価格差を縮ませるセルフスタンドが増えている。
 セルフスタンドがいままで最大の「売り」にしていた価格差を引っ込めた背景には、実はセルフスタンドの経営が当初予想程にはよくないという状況があった。そもそもスタンドのセルフ化は人件費削減という側面のほかに、ままならない従業員確保対策という要素もあった。いわゆる3K職業として嫌われ、従業員集めに苦労していたからだ。
 セルフ化は従業員対策とコスト削減の一石二鳥の策だったわけだ。さらに24時間営業にすればコストを抑えたままで売り上げアップにもなり、一石二鳥どころか一石三鳥もの手である。こんな上策を打たないはずがない。というわけで、まず元売り系がセルフスタンドの新規建設に乗り出したが、「なんとか採算ベースに乗っているのは10店の内2店」。なんと8割のセルフスタンドが赤字という状態である。これは大きな誤算だった。
 石油の自由化後、ガソリン価格は低価格水準を維持したままで、米軍のイラン侵攻後も値上がりしていない。そのため5、6年前にはリッター当たり12〜15円あったマージンが、現在では6〜7円取れればいい方で、一般的には5円前後のマージンしかなくなっている。単純計算で従来の倍、ガソリンを売らないと同じ利益を確保できないことになる。しかも、ガソリンの消費量は減少しているから、薄利多売というわけにもいかない。そこにもってきてカテゴリーキラーとでも呼べるノーブランドのガソリンを売るスタンドが増えている。競争は厳しくなる一方で販売価格を上げることも出来ない。まさに二重三重の苦境にさらされているわけだ。
 なかでも悲惨なのは従来型のフルサービススタンドからセルフに改造したスタンドだ。当初から改造コストが結構高いといわれていただけに改造メリットはほとんど期待できなかった。それどころか改造スタンドは敷地面積も従来のままで、単に計量器をセルフ用に換えただけだから同営業時間内の販売数量は同じか、増えてもわずかだ。
 仮に24時間営業に変更して販売数量を増やし、さらに一部新規顧客の獲得が
あったとしても、小売価格の値下げ、セルフへの変更で離れていった顧客数などを計算すれば収益はむしろ悪化している。

収益がいい郊外、大型店
都心立地、油外販売大の店

 もちろん、セルフスタンドでもうまくいっているところもある。それらに共通しているのは大型のスタンド、ショッピングセンター内、あるいは隣接するなど集客力のある場所に立地している点だ。
 対して、フルサービススタンドで利益を出しているところは都心の立地、セルフとの差別化を明確に打ち出しているスタンドである。一般的に価格競争は都心より郊外の方が激しいし、都心のスタンドは灯油などの石油以外(油外)販売が多く、油外利益で稼げるからだ。同じことはショッピングセンター内のスタンド(流通店)にもいえる。ガソリンと灯油がほぼ同じ量売れるスタンドもあるというから、灯油がかなり売り上げに貢献している。
 結局、ガソリン販売に絞って低コストで販売するセルフスタンドか、油外販売を含め地域の状況に合ったサービスを提供するフルサービススタンドか、生き残るのはこの両極になりそうだ。中間に位置するスタンドは淘汰されざるをえないということで、スタンド業界も間違いなく二極化傾向にあるといえる。

勢いがよく伸びているのは
非系列・非マークのスタンド

 最後に、ノーブランドガソリンを売る新興勢力の動きに触れておこう。ノーブランドとは業界用語で「業転」と呼ばれる業者間を転売されているガソリンのことで、実はこの数量が急増しているのだ。その数は数年前まで3〜5%と言われていたが、最近では全流通総量の30%にまで達しているとさえ言われている。分かりやすいのはタンクローリー車で、通常はメーカーブランドマークが付いているが、最近、非マーク車が増えている。
 業転物は販売数量稼ぎにディーラーが元請けに内密に流しているもので、品質が劣るわけではない。スタンド側から見て異なるのは仕入れ価格だ。その代わりに現金仕入れである。仕入れ価格の事後調整などの各種サポートは受けられないが、現金買いだけに安く仕入れられる。即決買いだからディーラーも販売数量稼ぎが必要な時などは積極的に流している節がある。
 仕入れを押さえて安く販売する。他の業界では当たり前のことが、長い間ぬるま湯の中にいた石油業界では行われないし、行おうという意識すら薄い。薄利多売戦略をとる「非マーク店」はまさにカテゴリキラーである。元請けの価格指導を受けないから、思い切った価格を付けて販売する。当然、消費者に受け入れられる。元気がよく、積極的に出店もしている。
 今後生き残るのは少数精鋭経営の外資系と系列に属さない非マーク店で、業態的には大型店、流通店、業態別ではセルフとサービスの原点に立ち戻ったサービスを提供するスタンドで、待ちの姿勢、系列依存型の、努力をしないスタンドは淘汰されていくだろう。


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