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トヨタのクレームで気になること(読者からの投稿)


 以下はジュンコンサルタント・山永順一さんから届いたコメントです。
山永さんは元ホンダの技術者です。

          ◇          ◇

 いつも情報を有難うございます。
トヨタのリコールの問題はいろいろな評論家が論評しています。
中でも藤本隆宏東大教授の論評が知られているようですが、栗野さんの解説は違った側面からの解説で興味深く読ませていただきました。
 栗野さんは残念なことだが車にとってリコールは避けられない問題のようだと書かれていますが、本当に残念ながらそれは正解のようです。

 今回のリコールに関してはリコールの処理の問題がクローズアップされていますが、私は技術屋としてリコールになったトラブルが何故発生したかに興味があります。
 トヨタの品質管理は製造業に携わる者にとって模範となる厳しいものでした。
若宮工場を見学したときに、話に聞いていたラインの一箇所でトラブルが発生するとライン全体を止めて解決する現場を見ました。
すごいなと思いました。
 ですから、何故このように連続してトラブルが発生するのか大変興味があります。
標準化が原因であるとか、電子化が原因であるとか、いろいろ言われていますが、本当の原因はどこにあるのか知りたいと思っています。
 フロアーマットの問題はどちらかというと初歩的な問題のような気がします。恐らく過去にも同様な問題が発生していて、そのことがきちんと伝承されていなかったのではないでしょうか。

 私は車そのものの設計はしませんでしたが、車を作る設備の設計に携わっていました。車は1分間に1台の間隔で生産されますので、設備のトラブルで生産ラインを止めると大騒ぎです。どうしたらトラブルがない信頼性が高い生産設備を設計するかいろいろと対策を打っています。トラブルは意外と同じトラブルが発生します。
それを防止するために過去のトラブルをまとめた過去トラリストを作って、特に設計経験が浅い設計者を指導しています。
 フロアーマットのトラブルは具体的なことが分かりませんので間違っているかもしれませんが、もしかしたら、フロアーマットの形状や材質や固定の仕方で発生した過去のトラブルが、その後の設計者にうまく伝承されていなかったのではないかと想像しています。
 また、アクセルペダルが戻らないトラブルは、ペダルの動きをキャブレターに伝える手段がワイヤーから電気になり、大きくペダルの構造が変わったことに起因する過去になかった新たなトラブルで、新機構に対する技術的な検証が不足していたのではないかと感じています。アクセルやブレーキは車の安全運転で一番重要な機器です。それを外のメーカーから購入しているようですが、外のメーカーが自動車の製造経験がどれだけあるかです。
 トヨタが外部から購入した機器の信頼性の検証を、設計〜製造〜実車の段階でどれだけ検証したのか気になります。

 急加速の問題はまだ有無がはっきりしていませんが、電子制御は外部のノイズを拾いやすく、それを検証するのはとても困難です。生産設備はノイズテストをやって出荷しますが、雷などでラインが止まることが多々あります。電気的なトラブルは機械と違って何の兆候もなく突然ですから怖いです。アクセルよりブレーキを優先させるように法令で規制するようになるそうですが、電子制御に変わった時点でそうすべきだったと思います。
 自動車生産ラインの信頼性が厳しい生産設備を手がけて、自らも多くのトラブルを発生させた技術屋として、その経験から気になることを書きました。
 今回のリコールの詳しい技術的な中身が分かりませんので、断片的な情報に基づいて憶測で書きましたので間違っているかも知れません。間違っていたらご指摘下さい。

ジュンコンサルタント
山永順一

         ◇          ◇

 山永さん、お久し振りです。
最近の製品は機械というより電子制御製品といった方がいいくらいで、重要な箇所は電子制御になりましたね。
昔の車はよくトラブルを起こしましたが、そんな時はエンジンルームを覗けば、多少機械のことが分かる人間なら故障箇所が分かったり、なんとか動かすことができたものです。
 実際、私が会社で最初に乗ったバンなどは交差点でよくギヤが入らなくなり、その度に降りてボンネットを開けミッションの所をガチャガチャと手動で入れ替えていたものです。
 当時のエンジンルームは隙間だらけでしたが、いまはぎっしり詰まっていて、見ても何がなにやら分からなくなりました。
 パソコンもDOSからWindowsになり便利にはなりましたが、しょっちゅう理由不明のフリーズが起きます。
昨日まで、もっと極端な場合はつい1時間前まで正常に動いていたものが突然動かなくなります。
こういう現象は傍目には理由不明に映ります。
コンピューター技術者にとっても再現性がない、時々発生するトラブルはお手上げのようです。

 家電製品の場合はまあ仕方ないかで済まされますが、こと車となるとそうはいきません。
場合によっては運転者が殺人者になりかねないわけですから。
 私は車で最も重視しているのは「ブレーキの感覚」です。
自分がブレーキを踏む感覚に最も合っているものに乗るようにしています。
ブレーキが深い車は私の感覚と違うので、ヒヤッとします。

 ところでトヨタ車の問題ですが、リコールにはならないまでもトラブルは結構多いと聞いています。
実際、身近な人間がそういうことを経験もしています。

 この種のクレームは「山ほど(?)」あっていると思います。
ただ、山永さんもご指摘のようにそういう経験が社内や現場でデータベース化されていない(いなかった)ことが問題だと思います。
 今回のトヨタ車の問題に関しても技術関連の人は純粋に技術面からアプローチしようとする傾向が見られました。

 私はこのアプローチ方法は間違いだと思っています。
そういうアプローチをしていると問題の本質を見失い、将来的な問題解決にはならないと思っています。
もちろん、技術面の問題は問題としてきちんと解決する必要があるのはいうまでもありませんが。

 今回のトヨタ車の問題に限らず、JRにしろ航空機にしろ大きな事故はほとんど「システム」上の欠陥から来ています。
 それは山永さんも指摘されているように、「過去のトラブルをまとめた過去トラリスト」、私の言い方では「クレームのデータベース化」がなされていないことと、小さなトラブルの発生を見逃してきたことだと思います。

 効率経営は、小さなトラブルの発生を見逃すことに繋がります。
小さな問題をいちいち上に上げるな、現場で解決しろ! となるからです。
確かに現場で考えるこうした姿勢は大事です。
しかし、そのことが「問題の発生を見えなくする」ことにも繋がります。
もう1点、危惧しているのは、最近の人達が自分の頭で考え、対処する能力を失っているように思えることです。
マニュアル人間という言葉が使われ出した頃からだと思いますが。

 私がクレームは速く処理しろ、と言っているのは、実は問題の発生を速く見つけ、速く対処するということです。
早期発見、早期治療と同じです。
つまるところ、会社のシステムの問題ですね。
 もう1点、トヨタ(に限らず自動車メーカー)は「車は人の命を預かっている」という自覚が希薄になってきていることです。
 繰り返しになりますが、トヨタの問題を他山の石にして欲しいというのが、全ての企業に対する私の願いです。



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