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 被災地からのレポート(1)−−人の行動には3パターンある。


 8月9日夜から10日の未明にかけて岡山県美作(みまさか)市、兵庫県佐用町(両市町は隣接している)を集中豪雨が襲い、両地域で河川が氾濫し、多くの世帯が床上浸水し、死者も出た。
 美作市で大きな水害被害に遭ったのは作東地区。被災後、延べ1,000人を超えるボランティアが県内外から美作市に入り、復興支援活動をいまも続けている。私の実家も被災し、現在、後片づけに追われているが、少し時間を取れるようになったので被災地から現状を含めレポートしてみたい。

 まず最初にボランティアの方々に感謝したい。
手弁当という言葉があるが、ボランティアの方は文字通り昼食を自分で用意して支援に駆け付けてくれるのだから、本当に頭が下がる。
 美作市の被災状況は土砂崩れによる死傷者4人。家屋の全壊5棟、一部損壊2棟、床上・床下浸水約800軒である。

 10日の朝6時半、神戸にいる弟からの電話で起こされた。
「兄貴、美作市が集中豪雨で大変・・・」
「おう知っとる。土砂崩れだろ。あれは田原だから心配するな」
「うちが床上浸水しているぞ。お袋が心配だから、いま向かっているところだ」
 ビックリしてTVをつけNHKのニュースを見ると、兵庫県佐用町、岡山県美作市を集中豪雨が襲い床上浸水の被害が出ていると報道していた。映像を見てびっくり。道路は通行止めで両地区は完全に陸の孤島状態になっていた。

 7時、弟の携帯電話に電話し、状況を話し危険だから引き返すように言う。
「2次災害に巻き込まれる危険性がある。一度引き返せ」
 家に何度電話をしてもコール音はするが誰も電話に出ないので、きっと母は避難しているだろうと考えた。
 結局、弟はいつもなら1時間半で帰れるところを5時間あまりもかかって実家に帰り着き、状況を報告してくれた。
 「床上50センチの浸水だが、母は無事。家の中は大変な状態になっている。畳やジュウタンをあげたいが、上に乗っている家具を動かさないとできない。男手がいる」
 悲鳴に近い声に、明日帰るから、それまでちょっと待て、としか言えない。

 翌朝の電話で大阪・八尾市にいる従兄弟が朝6時に駆け付けてくれたことを知る。
私が帰り着いたときにはこの2人の獅子奮迅の働きで大きなものはほとんど運び出されていた。

 友人に、実家が被災したので、明日帰省する予定。片付け等もあるし、しばらく美作に滞在することになるだろうと伝えたところ、ある友人はその日の夕刻、ペットボトル入りの水やお茶にパックご飯、缶詰、レトルト食品、軍手、ゴム手袋、マスク等を入れて、必要だろうからとわざわざ持ってきてくれた。
 この気が利いた親切な行動にはとても感謝した。後片づけの祭、軍手、ゴム手袋、マスクが大いに役立ち、改めて先を見越した差し入れに大いに感謝したものだ。
 また後程ペットボトル入りの飲料を送ってくれた友人もいたし、メールで手伝いたいと言ってくれた岡山の友人もいた。

 私が実家に帰り着いた日、同じ美作市とはいえ距離が少し離れたところに住んでいる、母の同級生がわざわざタクシーで弁当を持参してくれたかと思うと、被災後1週間が過ぎた頃、差し入れてくれた人もいた。
 「最初のうちは皆が色々持ってきてくれるだろうからと思って来なかったけど、そろそろ差し入れもなくなる頃だろうと思うて持ってきた。ご飯と漬け物だけじゃけど食べて」と。
 どちらも母の友人であり、対応は別々だったが、ともにありがたかった。

 こうして見ていると、人が危機に直面した時に取る行動はいくつかのパターンに分かれるようだ。
 1.押っ取り刀で駆け付けるタイプ
 2.頃合いを見計らって行動するタイプ
 3.見て見ぬ振りをするタイプ

 これらは次のように言い換えることができる。
1.即座に行動するタイプ
2.情報を収集し、状況を判断してから行動するタイプ。
3、自分に直接関係しないことには何も行動をしない、あるいは無視を決めつけるタイプ。

 今回、弟や従兄弟が取った行動は1に近い。
問題が起きた時は素早く現場へ駆け付けるというパターンで、事故やクレーム処理などの場合の原則である。
 ただ、この行動パターンの場合、行動することを優先しすぎると結果が付いてこないこともある。正確な情報を持たずに現場に行った結果、かえって2次クレームを招いてしまったということもよくあるからだ。

 2のパターンは一見よさそうだが、情報収集に時間をかけている間に行動が遅れ、結果、問題解決の時期を失することにもなる。

 結局、素早く情報を収集し、素早く行動するのがベストだが、日頃から訓練しておかないと、いざという時にそうした行動はなかなか取れない。

 どのような組織であれ組織には必ずこの3タイプが存在する。
3番目のタイプは組織に不要だが、見分けるのが案外難しい。
人の行動は1、2、3が図式的にきれいに分かれるわけではないからである。
 例えば自分の部署のことは率先して行動するが、よその部署のことになると、それが全社的に判断して非常に重要なことであっても傍観、無視という態度に出る人間も多い。
 では、そうした人間をどう見分けるのか。
それは様々な局面で試していくことだ。
ちょっとした仕事をやらせてみる。ちょっとした負荷を与えてみる。
その時にどう行動するのか。
そうしたことを見ながら、その人材を総合的に判断していく以外にない。

 人は特に調子がいい時より、調子が悪い時、負荷がかかった時の方がよく分かる。
昔、イギリスの新聞記者アンブローズ・ビアスが書いた「悪魔の辞典」の中に次のような項目がある。
 「友情(Frendship)とは天気のいい時には2人で乗れるが、天気が悪い時には1人しか乗れない船(ship)」
 それにしても天気がいい時にだけ乗ろうと言ってくる人のなんと多いことか。

  美作市・佐用町の水害被災写真は下記ブログに載せています。
   「栗野的風景」 http://blog.livedoor.jp/kurino30/



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