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陰りが見え始めた楽天経済圏(4)
〜ソフトバンクから訴えられる


ソフトバンクから訴えられる

 こう見てくると、かつては一大経済圏を築きつつあった楽天経済圏が随所で陰りだしているように見える。そして目下、最大の金食い虫が楽天モバイルなのは言うまでもないだろう。
 市場もその懸念を示し、将来的には楽天モバイルの身売りもあり得るという噂さえ密かに囁かれているのはすでに述べた通りだ。
 大手キャリアから回線を借りリセールするMVNOと違い、自社回線を整備するとなると莫大な金額がかかる。三木谷氏が言うようにネットワーク仮想化技術を使っているから「大幅なコスト削減」ができる、としてもだ。

 3番目にキャリアになったソフトバンクと楽天モバイルの違いは回線を1から整備するかどうかと、電波が繋がりやすい、俗に言うプラチナバンドを割り当てられているかどうかだ。
 前者はすでに回線を整備していたボーダフォン等を買収してスタートしており、そもそもスタート地点が楽天モバイルとは随分違う。当然、その分、設備投資費用も安く済んでいる。
 それでも初期の段階では「ソフトバンク回線は繋がらない」と言われ、加入者は増えなかった。それが解消されたのは、同社にプラチナバンドが割り当てられてからだが、いまでも地方に行けばどこでも繋がるのはドコモだ。
 それはドコモ、au、ソフトバンクのアンテナ基地を見れば納得できる。ドコモのアンテナが最も高く、まるで高圧線の鉄柱のようなものが周囲を睥睨するかの如く高台に建っている。次がauのアンテナだが、ドコモと比較すればかなり見劣りする。そしてソフトバンクは電柱の先にくっつけたように小さなアンテナが付いている。それはウィルコム(PHS)等のアンテナ基地(?)をそのまま転用していることにもよる。

 楽天モバイルの場合、プラチナバンドを割り当てられていないので、本来ならキャリア3社の基地局より密にアンテナ基地局を作らないと電波は届かないはずだが、ネットワーク仮想化技術で本当にその辺りの問題はクリアできるのかどうか。

 そのことも問題だが、今楽天モバイルが頭を抱えているのはソフトバンクからの転職技術者がこの1月、警視庁に逮捕された事件ではないだろうか。分かりやすく言えば「産業スパイ」事件である。
 2019年12月末にソフトバンクを退職し、翌年1月1日、楽天モバイルに入社した40代半ばの技術者がソフトバンクの第5世代(5G)移動通信システムなどに関する営業秘密を不正に持ち出したとして逮捕された。

 この行為を擁護するつもりはないが、技術業界では企業同士だけでなく国同士でも、いわば「当たり前」のように行われていた行為で、引き抜く側は相手の技術情報が欲しいから担当技術者を引き抜くわけで、転職する技術者も「手土産」持参を暗にそそのかされれば、転職後の待遇のことも考え、できるだけ喜ばれる「手土産」を持って行こうとする。韓国企業も中国企業もこうして日本に追いついたし、かつての日本もそうだった。

 楽天モバイルが通信技術の「経験者」をあちこちから掻き集めていたのは知られている。それは通信業界に限ることではない。業界を問わず後発組が経験者を求めるのは当たり前だが、楽天モバイルは回線整備が大幅に遅れていたこともあり焦りがあったのではないかと思われる。
 もう1つはソフトバンク側の機密情報に対するセキュリティーの甘さだ。後発企業が技術者の引き抜きに躍起になっていると知れば、社内セキュリティーをもう少し厳重にすべきはずが、そこが抜けていたのは楽天だけでなくソフトバンクのブランドも同時に傷ついてしまった。

 ソフトバンクは楽天モバイルを民事訴訟で訴える構えを見せているが、楽天にとってはこれは予期せぬ出来事というか、踏んだり蹴ったりの状態かも分からない。
 戦いは1局面ずつ行うべきで、全局面で同時展開するのは圧倒的に不利。落城する(資金が尽きる)まで戦い抜くことはできないから、いずれどこかで支城の1つ2つは明け渡さざるを得なくなるかも分からない。
 1顧客としても楽天のためにもそうならないことを願うが、楽天が厳しい局面を迎えつつあることは事実だろう。その危機感をどこまで感じ取っているかどうか。

 最後に、今まで防戦一方だったNTTがライバル企業に相次いで値下げ攻撃の矢を放っている。ドコモはahamoで大容量の値下げに踏み切るし、NTTは固定電話から携帯電話への通話料値下げも発表した。
 楽天モバイルもそれに対応せざるを得なくなり、明29日、新プランの発表を行う。それは恐らくボリュームゾーンの3〜5GBの値下げだろうと思われるが、自社回線ではなくMVNOのSIMの方ではないかと推測する。
 ここに手を入れなければ同業他社のMVNOに、この中容量市場の顧客をさらわれてしまう。ここはなんとしても食い止め、加入者増を図らないと楽天モバイルの懐はますます寂しくなるだけだ。
 さて、明日の発表ではどこまで思い切った料金を打ち出せるか。

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