NHKスペシャルが見せた制作現場の意地(2)


NHKスペシャルが突き付けたもの

 この時期、NHK広島放送局は毎年見応えのある番組を制作しているが、今年のNHKスペシャルでは「きのこ雲の下で何が起きていたのか」という番組を制作・報道した。
 原爆投下から3時間後、爆心地から2kmの御幸橋の上で写された2枚の写真。そこには50人余りの人物が写っており、それを最新技術で解析し、生存者の証言を混じえながら当時の状況を再現したものだ。
 それにしてもなぜ、写真はたった2枚しか存在しなかったのか。目の前の光景があまりにも悲惨過ぎ、悲しくて、涙が溢れ、それ以上シャッターを押せなかったようだ。
 ガラスの破片が体中に刺さった友達、原爆による熱線で体中の皮膚が剥がれ、それを引きずりながら歩いている情景、黒焦げになった赤ん坊を抱き、揺すり、「起きて! 起きてよ!」と泣き叫ぶ情景などが生存者の口から語られていく。
 この番組を見ながら中沢啓治氏のマンガ「はだしのゲン」で描写された光景を思い出した。2年前、「内容が残虐」だとして閲覧禁止問題が持ち上がったことを覚えている人は多いだろう。戦争や原爆の恐ろしさ、悲惨さを覆い隠そうという意図の下、仕掛けられた閲覧禁止騒動だったが、原発事故から目を逸らさせようとする一連の動きとも無関係ではない。
 戦争とは何なのか、戦争をするということはどういうことなのか、さらに集団的自衛権、政府が成立を目論んでいる安保関連法案への問題提起をも読み取れる。
 このところ萎縮気味のNHKだが、現場サイドにはまだまだ骨のある連中がいるということを証明してみせた番組といえるだろう。

 もう一つは8月11日に放映されたNHKスペシャル「あの日、僕らは戦場で〜少年兵の告白」。いままで存在さえ知られていなかった、沖縄戦における少年ゲリラ兵の存在を明らかにし、「強制」とは何かを問うた番組である。沖縄地方局の制作かと思ったが、どうやらそうではなかった。
 沖縄戦で遊撃戦(ゲリラ戦)が採られたことも初めて耳にしたが、そのゲリラ兵に狩りだたされたのは少年であったという事実。「護郷隊(ごきょうたい)」と名付けられた遊撃隊(ゲリラ隊)は形式上「志願」という形を取っていたが、実際は「強制」だった。「『志願』しない者は帰ってもよい。ただし、はがき1枚で呼び出し死刑にする」と言われたのだから、「志願」以外の選択肢はない。そういう状況下で少年達は兵士に仕立て上げられたのである。

 「護郷隊」の構成員は14歳から17歳未満の少年達。年端もいかない少年達が銃を持ち最前線で戦わされたわけだが、これは当時の国内法でも違反になる。そのため、法令を改定し、一部地域では17歳未満でも兵隊として招集できるようにした。ただし、14歳以上で、自らの「志願」であることが条件。しかし「志願」とは名ばかりで、実際は「強制」だったのは既述した通りだ。
 私はこの番組を観ながら「慰安婦問題」を連想していた。「強制連行」とは力づくで連れて行くことのみを意味するものではない。ほかの選択肢を封じることは、すなわち「強制」なのだと。

 両作品は期せずして(期して?)安倍政権への強烈な批判を含んでいた。「故郷を守る」という美辞麗句の「護郷隊」。遊撃戦を考え実行したのは陸軍中野学校。
 なぜ彼らは少年をゲリラ戦に使おうと考えたのか。年端もいかない少年は洗脳しやすいから、言われたことを何も考えずに実行するからだ。元陸軍中野学校の将校はそう答えている。
 暗闇は足音を消し静かにやって来る。美しい言葉、勇ましい言葉には注意したい。気が付いたら「ゆでガエル」になっていたということがないように


センスなんてなくても、感動の1枚は撮れる!!
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