モノ言わぬコミュニケーション
ブルトン氏が指摘するようにメールは「会話の代わりにはならない」。会話とはコミュニケーションの一つの方法であり、それは一方的な伝達ではなく、双方向に伝達し合うものだからだ。
ところが、メールで同時間的会話を試みる者が最近増えている。特に日本では、ケータイ世代を中心に。これをPCメールでも同じような感覚でする者もいるものだから、そんな相手に捕まるとムダに長い時間を取られることになる。
そこまで行かなくても、近年オフィスに増殖しているのが「モノ言わぬ社員」だ。彼らは同じ部署・課、場合によっては隣の席にいる社員にまでメールで送り、「会話」をしているのだ。
元は相手の時間を邪魔しないために始めたり、上司の目を盗んで、こっそり会話をするために始めたことかも分からないが、言葉と違って会話をしていることを第3者に知られることがないため、つまり仕事をしている振りをしながら会話できるので、あっという間に皆がこの便利な方法を使いだした。
そして気が付いた時には隣席の相手ともメールでコミュニケーションをしたり、さらには同じように自宅にいる夫婦同士でメールで会話するという状態さえ生まれている。
異常なのは、こうした「モノ言わぬコミュニケーション」を、当の彼ら自身が異常だと気付かなくなっていることだ。
メールや、Facebook、TwitterなどのSNSによる「モノ言わぬコミュニケーション」はコミュニケーションが苦手な世代・層にとっては便利な道具である。面と向かっては言えないことでもメールなら言える。なんといっても相手の顔色、表情、言葉のトーン、身振り手振りなどから言葉の本当の意味、あるいは裏に隠された意味を探らなくてもいい。
しかも、いきなり要件を切り出せるし、Twitterでは文章の流れなど気にする必要もない。短い、細切れの文でもいいのだ。
もし、これが相対して話すなら、相手からモロにバカにされたり、途中で会話を打ち切られたり、あるいは怒られることもあるかもしれない。その度に傷ついたり、落ち込んだりする者もいるだろう。
だが、その後どこがまずかったのか反省し、次はもっと話を聞いてもらえるようにと、工夫したり努力することでコミュニケーション能力を高めていくが、「モノ言わぬコミュニケーション」ではそうしたことがない。
かくして、人と会うよりメール等でのコミュニケーションの方を多用する社員はますますコミュニケーション能力が落ちていく。また、コミュニケーションが苦手だから顧客の所に行きたくないし、得意先回りや営業に回っても先方との間にきちんとしたコミュニケーションが取れないから、当然成績も上がらない。そのくせスマートなことばかりやりたがる。
いま、こういう社員が増えているし、今後ますます増えていくだろう。そういう社員を相手に企業は仕事をしていかなければならないのだ。鉄は熱いうちに打て、だ。「メールを捨て、街へ出よ!」と社員を鍛えることも必要ではないだろうか。少なくとも仕事中のSNS閲覧は禁止すべきだろう。
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