日本の製造業はなぜ衰退したのか(8)
〜歴史は繰り返す


歴史は繰り返す

 デジカメ各社が低価格コンデジから撤退する動きを見せ始めたのは、ケータイやスマートホン(スマホ)に役目とシェアを奪われ、儲かる商品ではなくなったからである。
 カメラが普段撮り、日常撮りになっていくに従い、よりコンパクトで、常に持ち歩いているものに取って代わられるのは自然な成り行きだろう。この流れを読み、機能よりは使い勝手を優先し、カメラの基本性能をアップしていったのがアップルだが、日本メーカーは逆に高倍率ズームや様々な機能の盛り込みで差別化を図る方向に進んで行った。その結果が現在である。

 過去何度も目にした光景である。「ユーザーニーズがある」「消費者は便利なものを求めている」という思い込みから多機能競争に走る。ところが、案に相違して単機能商品が売れているという事実。あるいは実際に使用しているユーザーに調査をすると、ほとんどの機能は使われていないという実態。それはデジカメでも同じで、大半のユーザーはシャッターを押せばとりあえず写るオートフォーカス撮影しか行っていない。
しかし、ヒアリング等も含め消費者調査をすれば、「○○の機能はあった方がいい」「○○機能はぜひ欲しい」という返事が返ってくる。そこで消費者の求めに応じて、便利な機能、あったらいい機能を付けていく。価格もそこそこに抑え、機能テンコ盛りだから「売れるはず」である。ところが、思ったほど売れない。なぜなのだ。ユーザーニーズって一体何だ、と頭を抱えることになる。
 消費者はワガママである。滅多に使わない機能、年に1回しか買わない商品でも、あれば便利、欲しいと言う。そんな消費者の要望に応えていると、どれと言って特徴がない、総花的で中途半端な商品が出来上がる。

 ところで、低価格コンデジを売れない商品にした張本人はどこだろうか。またしても日本メーカーである。しかも非カメラメーカーという、コダック衰退の時と同じ構図がここでも起きている。
 「写メール」という言葉さえ生み出したシャープがそのメーカーだ。当時、ケータイ各社の製品の中でシャープ製が一番写りがよく、ケータイで写真を撮るとういう行動を日常的にするなど、人々の行動パターンを以後大きく変えたのはご存知の通りだ。
 その後、各社ともシャープに習えでケータイ搭載カメラの画素数アップに動き、いまではケータイで写した写真も低価格コンデジで移した写真も、画像に大した差はなくなった。そうなればますますコンデジ離れが進むのはやむを得ない。

 ケータイもコンデジも写る画像に「大した差」はない、と言ったが、それはあくまでLサイズのプリントやHP、Facebook等のSNSなどの小さな画面で見る場合のことで、等倍に拡大した場合はコンデジの方に分がある。
 さらに高級コンデジ、一眼デジカメ(一眼レフ、ミラーレス)になれば、差は歴然としてくる。それは撮像素子の大きさがコンデジと一眼デジカメ、さらに一眼デジカメでもAPS-Cサイズとフルサイズでは違うからで、撮像素子(受光部)が大きくなるほど受ける情報量が増えるから、その分画質はよくなる。
 とはいえ、画質より日常の記録にウェイトを置いた日常撮りならケータイで十分だろう。どうせ拡大して見ないのだから。
 小さな画像で見る限り、レンズの性能も撮像素子の大きさもあまり関係ない。多少手ぶれを起こしていても小さく圧縮されれば、きれいに撮れているように見える。いまや低価格コンデジですら1,000万画素を超える時代だ。おまけにISO感度も数年前に比べれば飛躍的にアップしている。だからストロボの発光撮影でなくても、カメラのバック液晶画面やケータイの画面で確認する程度なら、画像がぶれていても気付かない。さらにいうなら、手ぶれ補正機能もコンデジのそれと一眼デジカメのそれ、一眼デジカメの中でも初級機、中級機、プロ用により違う。

 要は一口にデジカメと言ってもコンデジと一眼デジカメでは使われている部品、部品の性能など全てが違うわけだ。ただ、そうしたことはデジカメを日常撮りにしか使わないユーザーにとってはどうでもいいというと言い過ぎだろうが、さほど大した差ではないと考えている層が存在しているのは事実だ。
 この層をボリュームゾーンとするならば、いまカメラメーカー各社が狙っているのはその上のアッパー層である。その理由は既述したようにボリュームゾーンを対象とした低価格コンデジはケータイに客を取られ、価格を下げて作っても売れなくなっているし、ケータイの画像と大差がなくなってきた(あくまで縮小画像を見る限り)からである。
 元来この分野は利幅が薄い上にもってきて、価格競争に巻き込まれるため、売れても売れても赤字という想像できないような現象さえ起きている。早期に見切りを付け市場から撤退するか、アッパー層を対象にした商品分野に移るしかないだろう。恐らく来年中には各社ともどちらかの戦略をとるはずだ。

 それにしても価格戦略は難しい。いつの時代も絶対的に価格を優先する層と富裕層がそれぞれ5%存在する。残りは中間層で、この層が上下に揺れ動くことで売れ筋価格が位置付けられる。バブル経済の時は中間層が全体として少し上に動き、高価格帯商品が売れた。逆に不景気になると下に動くから売れ筋価格帯も下がる。
 中間層=ボリュームゾーンを対象にすれば商品は大量に捌ける。数が売れるから大量生産向きで、価格も下げることができる。しかし、価格は安ければ安いほど売れるというわけではない。ある価格まで下がると逆に売れ行きが止まる。あまり安い商品には消費者が警戒感(不安感)を抱くようだ。安いのは写りが悪いのではないか、機能が少ないのではないか、すぐ壊れるのではないか、といった警戒感を。性能を見比べれば変わらないのに、だ。この辺が消費者心理の面白いところだ。

売れる秘訣は「簡単、安い、面白い」

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