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 この頃ちょっとおかしい、行政の対応(2)


 とにかく驚くのは「100年に一度の不況」という声に慌てふためき、盲目的な財政出動を行う姿である。それが有効な手か、どこまで実効性があるのか等は考えてもいない。
 例えば中国地方のある市は某自動車メーカーと、その下請け企業が市内に数多く存在することから、同メーカーの新車を購入する市民、法人に1台あたり10万円を補助する制度を始めた。ただし200台に限りだ。
 隣の県でも同じようなことをしたが、こちらは公用車を、市内に本社があるメーカーの低排出ガス自動車に替えるというもの。台数は約420台。このほかにもテレビやパソコンを購入するとした地方自治体もある。
 こうした動きは危機に直面したときに助け合う日本的な美しい精神と見ることができるか、それとも近視眼的な愚策というべきか。

 これらの自治体に共通しているのは「支援は地域の下請け企業や技術を支えることになる」という理屈である。ただし支援の対象は特定企業であり、ある特定企業を支援するのに税金を使おうというのだから、問題視する声が出るのは当然だと思うが、なぜかそういう声が出ないのか、出ていてもマスコミがあまり取り上げないのか。
 むしろ今回の不況発信地のアメリカの方が公的資金の投入に対しては厳しい。アメリカを象徴する自動車産業の代表、ビッグスリーのトップ、GMに対してですら一方的な救済には反対の声が強く、破産さすべきだという声も根強くあるほどだ。

 不思議なのはわずか200台の車購入が下請け企業を救うことになるという発想だ。
仮に100歩、いや1000歩か1万歩譲って、数100台購入することで地場の下請け企業・部品企業を救うことができるなら、地方自治体の財政出動も多少なりとも意義があるだろう。
 しかし、現実には「在庫車両が消費されるだけで、下請け企業に新たな仕事の発注は降りてこない」(広島県商工団体連合会)ということは少し考えれば分かるはずだ。
 もし、本気で「地域の下請け企業や技術を支えたい」と考えているなら、それらの企業に直接仕事を発注するか、仕事が回る仕組みを作るべきで、それこそが行政のやるべき仕事だろう。

 もう一つ見ておかなければいけないのは、その産業の将来性である。
例えばどこかの自治体が某社製パソコンを数100台学校等に導入して、その企業を支援したいといっていたが、数年後、いや来年、果たしてその企業がパソコンを作っているかどうか。
 デジタル家電の落ち込みは激しく、なかでもデジカメ、パソコンはすでに飽和市場で、生産台数、販売台数共に減少している。もはや国内で作っていては(実際には国内で行っているのは組み立てだけだが、それも含めて)採算が取れない事業。つまりメーカーにとっては撤退するか他社への売却を検討すべき分野である。
 こうした動きはなにも今回の不況で初めて始まったわけでなく、数年前から顕著になっている。各社の基幹事業、発祥部門でさえ容赦なく整理している時代である。
 できる支援をしたいという気持ちは評価できるが、有効な支援でなければ意味がない。なんでもかんでも公平にしろというつもりはないが、行政の支援策としてはもう少し考えるべきだろう。



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