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有田焼で万華鏡を作り、世界に売った男(2)
〜ヒット商品になった有田焼万年筆〜


(有)佐賀ダンボール商会 代表取締役副社長:石川慶藏
佐賀県西松浦郡有田町赤坂有田焼団地内 
tel/0955-43-2424

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 ベンチャー企業や中小企業は1つの技術や1つの商品に依存しているところが多い。本来なら次々に新しい商品を世に送り出すべきなのだが、なかなかそれができない。
もともとのリソース(資源)が少ないということもあるが、一つの技術・商品開発をすると、そこに安住してしまうからではないだろうか。
 その点、佐賀ダンボール商会の石川氏は違っていた。有田焼万華鏡がヒットすると、すぐ次の商品開発に取りかかっていた。

 「有田焼万年筆」−−それが次の商品名だった。有田焼万年筆
万華鏡の時と同じなのは「有田焼」を使うことと、「異業種とのコラボレーション」で作ったことだ。
 今回のコラボレーションの相手は丸善とセーラー万年筆。
この2社とコラボレーションした理由を石川氏は次のように語る。
「万年筆作りに日本で最も情熱を持っている会社は『丸善』です。万年筆作りに匠の技術を持っているところはどこかと丸善で尋ねると『セーラー万年筆』だと言われました。セーラーのペン先技術は世界一なのです」
 有田焼は前回と同じく香蘭社と源右衛門窯が担当した。
一般論でいえば初回より2回目の開発の方が短期間でできる。初めての場合は手探りの開発だが、2回目は1回目のデータが蓄積されるし、メンバーに経験値が加わってくるから初回よりはスムーズに運ぶのが普通である。
 ところが、物が万年筆という筆記具だけに苦戦した。開発に2年を要したのである。
万年筆はインテリアではない。いくら有田焼で作った高価な万年筆といっても机の上に飾って、眺めて満足する置物ではない。書き味が生命である。セーラーはそのことにとことんこだわった。
 書き味はペン先の作りだけで出るものではない。万年筆を握った感じ、ペン先と軸の重さのバランス。さらには握ったときの質感。そうしたトータルバランスから生まれるものである。これが安い商品であれば、それほど問題にされなかったかもしれない。ところが、15万円、25万円で販売する万年筆である。もし、万年筆本来の機能を二の次にした商品を出せば、セーラー万年筆は2流、3流メーカーの烙印を押されるだろう。そのことはとりもなおさず筆記具メーカーとしてのセーラー万年筆の死を意味する。そんな万年筆なら出さない方がましだ。セーラーがとことんこだわった理由がここにある。
問題はその思いを消費者に分かってもらえるかどうかだ。

 2007年7月27日、関係者の祈るような気持ちを乗せて販売が開始された。
予想に反してというか、期待通りというか、販売2か月で872本を受注し、年間目標の540本を1か月で達成する高評価を市場から得た。
 2008年1月から欧米での販売も開始。そして有田焼万年筆販売開始から5か月で当初目標の3年分1,500本を受注するヒット商品に育っている。
 だが、石川氏の挑戦はこれで終わったわけではない。早くも次の商品開発に取り組んでいる。

 ところで、これは余談というか本稿とは関係ない話しだが、有田焼万華鏡、有田焼万年筆の開発物語を書いていて頭を過ぎったものがある。それは日本におけるジーンズの産地、岡山県倉敷市児島の対応である。
 かつて隆盛を誇った産地が地盤沈下しているのはなにも有田に限ったことでなく、家具の産地、福岡大川やジーンズの一大産地、児島も同じだ。ただ、産地復興に向けた取り組み方はそれぞれ異なる。
 ところが方向が違うのではと思ったのが児島である。同地域は長年、市議会でのジーンズ着用を陳情していたらしいが、昨年、その思いがやっと通じて倉敷市議が市議会開催中のジーンズ着用を決定したらしい。地場産業復興のために1人でも2人でもジーンズを着用してもらいたいという気持ちはよく分かる。しかし、同地域でのジーンズ着用はマスターベーションみたいなものだ。同じ着用をお願いするにしても、私なら市議会議員が東京に行く時にジーンズを着用してくれと頼む。その方がよっぽどPRになるからだ。産地以外での販売を増やすことが産地の復興に繋がるのは誰でも分かる話だろう。
 ついでに触れておくと、私もジーンズを愛用しているがはいているジーンズはエドウィンとミラショーンで、ジーンズジャケットはトラサルディだ。断っておくが、ブランド好きではない。これらのブランドは縫製がしっかりし、デザインがいいからである。
 有田焼万華鏡・万年筆の例に見られるようにデザイン、ブランド力は非常に大切である。もし、本当に児島がジーンズの復権を目指しているなら、スーパーや量販店などで売っている、見るからに安物のダサいジーンズジャケットではなく、有名デザイナーとコラボレーションした、縫製もデザインも優れたジーンズを作ってみてはどうだろう。本稿からそのことを読み取ってもらえば筆者としても無上の喜びである。


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