安全で環境にやさしい
いぐさ製品を扱う
「このままで本当にいいのだろうか」
佐々木徹は鞄Y島勲商店の社長に就任した直後あたりからずっと自問してきた。
いまや畳や花ござなどのいぐさ製品はほとんどが中国産で占められている。国産に比べて3分の1と安いのが魅力で、スーパーやホームセンターでどんどん売られるようになっていた。安く作って安く売る。それが時流と考えられていた。デフレ経済下では特に。
しかし……、と佐々木は考えていた。気になっていたのは環境や健康に対する影響だった。畳や花ござはその上に直接座ったり寝ころんだりする。防虫・防カビ剤など化学薬品の人体への影響が気になった。
それだけなら、現地の指導を徹底すれば済む話かもしれない。だが、品質の違いだけはいかんともしがたかった。
「気候的な問題から、中国産のいぐさは国産より刈り取り時期が1カ月ほど早いんです。そのためと思われますが、日がたつと表面が黒ずんでボロボロになってきます。国産の場合は全体的に小麦色になり、表面につやが出てきますが、輸入物のいぐさはそうならないんです」
いぐさの青さを出すため染料を使うところも多い。そんなやり方に疑問も感じていた。
さらに佐々木の頭を悩ましていたのは「このままでは筑後地方からいぐさ栽培農家が消える」という伝統産業衰退への危機感だった。
国産にこだわり
中国工場を閉鎖
当時、同社の売り上げの半分近くは中国工場で製造した量産品で占められていた。中国から撤退すれば売り上げが半減することになる。それで会社が成り立つかどうか不安だった。第一、製造業はどこもかしこもこぞって中国に生産拠点を移している時である。それを撤退するというのは、時代に逆行するような経営にも思えた。
それでも佐々木は中国工場の閉鎖を決断した。といっても無謀な賭けに打って出たわけではなかった。なんとかなるだろう、ぐらいの読みはあった。
というのは、花ござでマーケットの変化を感じ取っていたからである。
有名デザイナーとの
連携で新市場を開拓
88〜89年頃からデザイナーと組んでランチョンマットやタベストリー、衝立を開発するなど、付加価値を高めたいぐさ商品を積極的に市場に投入していった。そして90年には業界で初めて、掛川織花ござで通商産業省(現、経済産業省)グッドデザイン賞を受賞。
この頃から商品開発にデザイン性が重要と気付くと同時に、付加価値を高めた新商品には従来のスーパーやホームセンターとは違うところに販路があることも分かってきた。
「家具屋に来るデザイナーと話をしたのがきっかけです。『いぐさって面白い素材なんですね』と彼らが言うんです。家具関係のデザイナーにとっていぐさは新しい素材と感じたのでしょうね」
家具の街・大川らしい出会いである。それから積極的にデザイナーと提携して商品開発をしていった。付加価値を高めた商品は価格が高くても売れることも分かった。販路も従来のスーパーやホームセンターに代わって陶器や和服を扱っている店やデパートのギャラリーなどを開拓した。空間を演出し、見せる(魅せる)売り方にこだわった。環境問題では一歩先を行くヨーロッパの展示会にも積極的に参加した。
「添島勲商店のいぐさ」が国内外で知られるようになったのはインテリア&テキスタイルデザイナー・川上玲子の存在が大きかった。彼女はスウェ−デンでデザインを学び、北欧建築デザイン協会の理事も務めるなど業界では有名な存在だが、女優、川上麻衣子の母としても知られている。
川上玲子との出会いがインテリア・デザイン業界に同社の名を知らせることにもなったし、海外の展示会への出展や、新たな販路開拓も川上との連携なくしてなかったかもしれない。
自然素材にこだわった
安全な添島の畳
いぐさに新しい生命を吹き込み、新たな商品として甦らせた佐々木が次に手を付けたのは畳の国産化だった。
最近は畳床にポリスチレンフォームを使った化学畳床や畳表に中国産いぐさを使った安い畳が主流のようになっているが、佐々木は安全な自然素材にこだわった。
畳表は地元で採れたいぐさを使用し、畳床には昔ながらのわらを使い、化学薬品を使った防虫・防ダニ・抗菌処理はしない。その代わりに国産わらは1年以上乾燥させたものを使用するようにした。そうすれば虫が付かないからだ。
畳表に使用するいぐさは減農薬栽培で、染料を含まない泥染めで、自然の風合いを保つように工夫している。
トータルコストで
比較すれば安くなる
徹底的に自然素材にこだわる「添島の畳」は、アトピーで悩む消費者や健康志向のユーザーなどに支持され徐々に販路を広げているが、問題は中国産に比べて3倍という価格差。
しかし「トータルコストで見れば、うちの畳の方が安くなる」と佐々木は言う。
例えば、強度は中国産に比べ5倍長持ちする。そのため取り替え工賃が中国産の半分になり、結局、トータルコストは同社の方が安くなるというわけだ。
とはいえ、畳の大口購入先は工務店などの建築業者。経費優先の考えがなかなか変わらず、「畳を商品と見ない」と佐々木は嘆く。
現在、同社の売り上げは花ござ関連が80%、畳20%という構成。一時24億円あった売り上げは、中国からの撤退で10億円ダウン。その穴を新路線で埋め切れているかというとまだまだだが、それでも、「花ござでいぐさ栽培農家10数軒の生計が立つまでになった」という。道は険しいが、選択した方向に佐々木の迷いはない。
データ・マックス刊「I・B」04.8月掲載
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