お客さまに喜ばれて、
儲かって、楽しい
楽しい梶|−社名だけを聞けばイベント関係の会社と勘違いしそうだが、環境関連機器の販売を主業務として2001年に設立されたベンチャー企業である。代表の松尾康志が潟Wャパンケミカル環境事業部での1年半の経験を生かし、同事業部より営業権の譲渡を受け独立起業したもの。 黒崎で長年、デパートに勤務していた松尾が退職してジャパンケミカルに転職したのは「人との出会い」がきっかけで、環境問題への取り組みを決意したからだった。
環境問題に取り組む多くのベンチャー企業が社会貢献を前面に打ち出した「理念先行型」なのに対し、松尾は流通小売業に長く身を置いていた経験からか「お客さまに喜ばれて、社会に貢献して、儲かって、楽しい」会社にしたいとストレートに表現している。
そして、そのことを経営理念に次のように謳っている。 ・面白く、楽しく、助け合って通れよ。 ・仕事を楽しむとは、自分たちにふさわしいお客様と感動を共有すること。そこから確実な成果を生み出すこと。 ・我々は、いかなる場面においても、日々「楽しい」を追求していく。 ・環境関連事業のプロとして、創造性豊かな知識&行動集団となる。 言い換えれば、あくどいビジネスや、人に後ろ指を指されるような仕事で儲けても楽しくない。同じ仕事をするなら人から喜ばれるような仕事をしようじゃないか。そうすれば楽しくなれる、ということだろう。 だから、松尾はいいと思ったことは即座に実行している。例えば割り箸のリサイクル運動は、ジャパンケミカル時代の2000年9月から取り組み始めている。それは松尾が業務用生ゴミ処理機「フォースターズ」1号機を販売したのと同じ時期だった。
安全・安心な竹の割り箸を
「日本人が1年間に使う割り箸は250億膳にもなります。これを木に換算すると約80万本。東京ドーム80個分の森林が1年間で消えているわけです」 本当は割り箸を使わないことが一番。だが、いまの「割り箸文化」を一気に変えることは不可能に違いない。どうせ割り箸を使わなければならないなら、木ではなく竹を使った方がいい。木は成長するのに数10年かかるが、竹なら3〜4年で成長する。その方が自然に対してはるかに優しいはず。そう考えたのだ。 ところが、木にしろ竹にしろ、割り箸は現在、中国・ロシアからの輸入である。そこに問題があった。人体に有害な発ガン物質を含んだ防カビ剤・漂白剤が使用されていたからである。
人体に有害な物質を含んだ割り箸を使うわけにはいかない。かといって、木の割り箸を使い続ければ地球から森林が消えてしまう。どこかが安全な竹の割り箸を輸入してくれないだろうか。そう思ってあちこち探したが、すべて徒労だった。 それなら自分でやるしかない。そう決意した松尾は滑C水化学研究所(北九州市八幡西区)の社長、宮田茂男に相談し、有害成分を一切使わず、人体に安全なミネラル成分のみを使った抗菌・防カビ剤を用いた製造方法を作り上げることに成功した。
現在、中国・浙江省の工場に委託製造。2003年7月から安全な竹製割り箸の供給を開始。2004年3月には国内の割り箸袋最大手・溝端紙工印刷(和歌山県)と提携し、現在、月600万膳を同社に供給している。 この竹製割り箸は「セレス」ブランドとして流通しているが、「より資源を大切にするために」竹の節の部分を除いてない「エコ・エコ節有り竹割り箸」も作るなど、松尾の環境問題への取り組みは徹底している。
使用済み割り箸は
リサイクル竹炭に
それだけではない。次は使用済み竹割り箸を外食産業等の納品先から回収し、同社と提携している全国14カ所の炭焼き窯で竹炭にしリサイクルしているのだ。 気になるのは、多くの環境ベンチャーが陥る失敗、つまり理念重視で進むのはいいが、肝心な企業経営という面で収益が成り立つのかどうかという点である。
例えば竹製割り箸は木製に比べてコストは約2倍。つまり木の割り箸1円に対し、竹は2円。節有り竹割り箸で1.3円である。3Rと呼ばれている「リデュース(減量)、リユース、リサイクル」関連商品にユーザーが払うコストは通常製品の1.5倍までが限度。割り箸でいえば、節有り竹割り箸の1.3倍が限度だろう。どんなにいいモノでも価格差がありすぎると流通しない。 だが、現在、節有り竹割り箸が「10%アップぐらいで収まっている」と松尾は言う。 それを可能にしたのは社員6人のスモールカンパニーという弱点を逆手に取った逆転の発想である。商社等を通さず、中間コストを省き、小回りを効かしてコストダウンに努めた結果といえる。
売り上げの一部を
中国で植林活動に
松尾の環境へのこだわりはまだまだ続き、ことしになって中国・大連市環境保護局を通じ植林活動の推進をスタートした。植林費用を同社が提供するのだが、その費用は中国からの竹割り箸輸入額の0.3%、さらにリサイクル竹炭の売り上げによる収益の10%を充てている。ちなみに平成16年の輸入額は2億円が予想されている。
いかにスモールカンパニーとはいえ、竹製割り箸やリサイクル竹炭の売り上げで、ここまでの活動ができるわけでも、同社を支えていけるわけでもない。 売り上げを支えているのは業務用生ゴミ処理機「フォースターズ」の販売である。すでに九州厚生年金会館、国立病院長崎医療センター住友電気工業、ぶどうの樹(遠賀郡岡垣)など全国に87号機まで納入している。
ユニークなのは、1号機から87号機まで1台1台に名前が付いていること。しかも、名前は納入先が付けている。ユーザーを巻き込んだ、こうした「楽しい」活動が同社を支えているのだろう。 (文中敬称略)
★2006年2月、同社は旧住所(北九州市八幡西区大字野面803-1)から現在地に移転しました。
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